47 第三艦隊消滅
海中を進んでいた電磁波が消えると同時。
同じ波長の電磁波が別の場所から発生した。
スティングレイのすぐ近く。
ほとんど表面に張り付いている――というより、スティングレイそのものが発しているようにしか見えない。
「驚いたか。貴様らが倒した鋼鉄兵の残骸の中に、大量のナノマシンが混じっていたのだ。もう遅いぞ。禍津はその船に襲いかかる! ワハハハ!」
「ほう。スティングレイを目指して来るのか。それは好都合。禍津を誘導できると言うことだな」
「は?」
新堂上級大将の呆けた声には応えず、クライヴは自ら操舵輪を握り、スティングレイを動かした。
向かう先は、第三艦隊の真上。
相対速度を合わせ、そして艦首を下に向ける。
「あっ! しまった!」
スティングレイの行動の意味を察し、新堂上級大将は大声を上げる。
誘導ビーコンを使った戦術が研究されていないゆえの失態。
気付いたときには手遅れだ。
三体の禍津は、スティングレイを目指して浮上を始めている。
つまり、第三艦隊の真下から顔を出すのだ。
もう彼らに逃げる時間は残されていない。
海に黒い影が三つ浮かび上がり、次の瞬間には、巡洋艦が横転していた。
次に駆逐艦が木っ端微塵になる。
現われた三体の禍津は、カバのような姿をしていた。
巨大な口で軍艦をビスケットのように噛み砕き、飲み込む。
阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
禍津が一噛みするたびに、いったい何人が死んでいるのだろうか。
だが考えるだけ無意味。
なにせ全員死ぬのだ。
「名も知らぬ第三艦隊の将兵たちよ。俺の一身上の怨みのために、これより諸君らを滅する。存分に怨むが良い――超重力砲発射」
スティングレイ最強の武器が、空間ごと抉り取って海を目指して進んでいく。
まず第三艦隊が消え、禍津が消え、そして海が消える。
まるでそこに見えない柱があるかのように、1000メトロン先の海底が露出した。
超重力砲の照射を終えると、周囲の水が渦を作って流れ込み、ほどなくして元通りになる。
ここで戦いがあったという痕跡すら残っていない。
海が穏やかに波打っているだけ。
「戦闘終了だ。船の制御をコルベットに返す。再度潜行して白の大陸を目指せ」
「心得た」
コルベットの制御により船は海に潜っていく。
ここまま行けば、明日に白の大陸に付くだろう。
「クライヴさん相変わらずクライヴってますねぇ」
「琥珀はクライヴるの発案者だけあって使い方が上手いなぁ。それにしても、いよいよ白の大陸か。どんな場所なんだろうな。早く禍津を排除してガヤルド王国の領土宣言するぞ。そして妾とクライヴの新居を建てるんだな」
「姫様。いつからそういう趣旨になったのですか?」
「おや? 妾は初めからそのつもりだったぞ。駄目か?」
ミュウレアが悪戯っぽく笑うと、レイが話に入ってきた。
「駄目に決まっているじゃないですかミュウレア殿下! 領土宣言はともかく、クライヴとの新居を建てるなんて大それたこと!」
領土宣言より新居のほうが大それているとは変わった価値観だ。
「ふん。ガヤルド王族の妾が、ガヤルド王国のどこに何を建てようと、文句を言われる筋合いはない」
「うぅ……じゃあ私も国作る! ガヤルド王国より先に領土宣言するわ!」
「たわけ。他国から認められていない国など、ニートの妄想だ。そんなものがガヤルド王国の領土を占拠していたら、妾がじきじきにテロリスト認定してやる。このニートめ。悔しかったら今日中にメイド服を完成させて見ろ。そうしたら土地を少しくれてやってもいいぞ!」
「ぐぬぬぬぬ、悔しい……これが格差社会……」
格差を訴える前にメイドになってニートを卒業すればいいのに、と思うクライヴであった。




