45 プランC
陸からの攻撃。海からの攻撃。空からの攻撃。
どこの国の軍隊も様々な状況を想定し、自国を守るために装備を調え、訓練を行なっているだろう。
だが、宇宙からの攻撃となれば、備えが万全な国は皆無と言える。
四種の機械兵をそれぞれ二十五機ずつカプセルに搭載。
衛星軌道から投下し展開させる、というこのシステムに対処できる勢力は地上に存在しない。
それどころか禍津ですら、垂直に超高速で降ってくるカプセルを迎撃するのは、まず不可能だろう。
ゆえにこのシステムは、白の大陸へ兵力を直接送ることも想定して設計された。
もっとも、一度カプセルを打ち上げてから投下するのは金と手間がかかり、帝國の力を以てしても容易には使えない。
また、百機程度の鋼鉄兵を白の大陸に送ったところで、全滅するのがオチ。
白の大陸を本気で攻略するのなら、他の部隊と連動させなければ無意味だった。
しかし、相手が一隻の巡洋艦ならば。
鋼鉄兵百機というのは十分な戦力であり、システムの実験相手としては手頃である。
新堂上級大将はそのような論法で旧友の技術将兵を説き伏せ、スティングレイ目がけて投下させたのだ。
今、空母の艦橋のモニターに、鋼鉄兵の一機から送られてくる画像が映し出されている。
迫り来るスティングレイと、それに群がる鋼鉄兵百機を見つめ、新堂上級大将は笑みを浮かべた。
これでお終いだ。
朽ち果てていくスティングレイの姿をゆっくり鑑賞することにしよう。
新堂上級大将は背もたれに体を預け、リラックスした気持ちでモニターを眺めていた。
だが、スティングレイの上に、人間が二人いるのを発見し、思わず呼吸を止めてしまう。
一人は見知らぬ若い男。おそらくは彼がクライヴ・ケーニッグゼグ。
そしてもう一人は、帝國の裏切り者にして、最強の灮輝発動者と呼ばれた少女。
紅蓮花。焔レイ。
「な、なぜそこで待ち構えている!?」
完全な奇襲だったはずだ。
どこかで情報が漏れていた?
いや、ありえない。このプランBを決めてから三時間も経っていないのだ。
どんな理屈で奴らはこちらの動きを読んだのか。
しかし、読まれていようが殺してしまえば済む話。
どんなに強くても、たかが二人。
百機の鋼鉄兵の前には無力――
「神滅兵装――起動――」
「神滅兵装――接続――」
蒼く輝く刃が伸びた。
刃渡りは目測で百メトロン。
それが無造作に振り下ろされると、鋼鉄兵がダース単位で両断されていく。
赤く燃える花が咲いた。
スティングレイの船体よりも大きな花びらは、灼熱の炎で出来ている。
炎は鋼鉄兵の外装を溶かし、内部まで焼き尽くす。
瞬く間に鋼鉄兵は鉄屑に変えられていき――
モニターには何も映らなくなってしまう。
全滅したのだと気付くまでの三秒間、新堂上級大将は放心していた。
「こ、こうなればプランCだ! 潜水艦の位置は!?」
「あと五分ほどで到着の予定!」
五分。そのくらいの時間なら、まだ耐えられるはず。
まだ運命は自分を見捨てていない。
プランCだけは使いたくなかったが、しかし、あの巡洋艦はここで倒す。
もはや見栄や手柄の問題ではなかった。
スティングレイは帝國の脅威になりうる存在。
一人の帝国軍人として、差し違えてでも排除してみせる。




