43 コルベットの戦い
「まずは潜るのでアル」
コルベットの宣言とともに、スティングレイは急速潜行した。
まるで鉛玉が沈むような速度で、深くまで一気に。
敵の船底がよく見える。
第三艦隊は即座に砲撃から爆雷攻撃に切り替え、海水を沸騰させた。
しかしコルベットの制御によりスティングレイは縫うようにして爆発を避け、かりに喰らったとしてもシールドが完全に防ぎきる。
やがてスティングレイは艦首を垂直に上げ、そして一隻の駆逐艦を目指してロケットのように上昇していった。
それだけの動きをしても、船内は重力制御装置のおかげで快適そのもの。
スクリーンに映る光景と体感する加速度が違いすぎて、まるでテレビゲームをやっているかのようだ。
「え、ちょっと!? どうするつもりなのっ?」
レイは迫り来る駆逐艦の底を見て叫ぶ。
「無論、体当たりでアル」
言い終わるより早く、スティングレイの先端が矢のように駆逐艦に突き刺さり、そのまま真っ二つに引き裂いて空に飛び出した。
沈んでいく憐れな駆逐艦を尻目に、コルベットは船体を海面と平行にして――
船底を空に、砲身を海に向ける。
「敵の頭上をとれば勝ったも同然ナリ」
軍艦同士の戦闘で飛び出す台詞ではないが、ゆえにこそ真理だ。
海に浮かぶことしか出来ない船が、空を跳ぶ船に勝てるわけがない。
当たり前に空を飛んだなら船底を艦砲射撃に晒して格好が付かないが、こうして矢のように上昇してから反転すれば、弱い部分を見せることなく即座に攻撃に移れる。
流石は元玄武参式のAIだ。
教えていないのに基礎を分かっている。
「うぅ……揺れていないのに気持ち悪いです……」
「大丈夫か琥珀? それは3D酔いだな。いや、3Dじゃなくて実写なんだが」
「琥珀様! 吐きますか!? ど、どこかにビニール袋はッ?」
「だ、大丈夫です。画面を見なければいいだけですから」
「いいや、吐け、吐くんだ。さあ、琥珀のスリーサイズは!?」
「か、関係ないじゃないですかぁ……」
暇な三人娘は特にやることもないので何やら盛り上がっている。
「これからもっと回るゆえ、気ヲつけろ」
「はい! 絶対に見ません!」
琥珀はギュッと目を閉じた。
同時にスティングレイは扇風機の羽根のようにグルグル回転を始める。
そのまま主砲とレーザー機銃を連射。
徹甲弾と光子の雨が第三艦隊を貫き、焼き、戦闘力を奪っていく。
これが普通の海戦なら氷山の影に隠れてやり過ごすことも出来るのだろうが、上から撃たれたのではどうしようもない。
空母から鋼鉄兵が発艦し、スティングレイを迎撃しようと上昇してくるが、弾幕の前に全てが蒸発する。
戦艦を超える火力に、航空機を越える機動力。
相手からしたら悪夢そのものだろう。
だが、そんなスティングレイも完璧ではなかった。
「コルベット。攻撃にエネルギーを割り振りすぎていないか? 船底のシールドを解除するのは不用心だぞ」
そうクライヴは疑問を口にしたが、
「問題ナイ。敵の攻撃が船底に当たることは有り得ナイ。仮に届いたとしても、物理装甲だけでも防ぐことハ可能」
コルベットは淡々と答えた。
確かに、スティングレイの装甲は厚い。
仮にシールドがない状態でアマギ粒子反応爆弾の直撃を喰らったとしても、一発や二発では沈まないようになっている。
ゆえにコルベットが言っていることは妥当なのだが――クライヴはどうしても違和感を拭えなかった。
敵の攻撃が単調すぎる。
スティングレイがガヤルド王国駐留艦隊を退け、更に70メトロン級禍津を倒したことは向こうも知っているはず。
なのにこれでは無策にもほどがあるだろう。
最初のアマギ粒子反応爆弾で終わると思っていたのか?
しかしそれでは、スティングレイが浮上してからも新堂上級大将が自信を失わなかった理由が分からない。
「コルベット。船は引き続きお前に任せる。俺は念のため外に出るから船体の回転を止めろ」
「主様は心配性でアル。帝國軍には、この状況を覆す兵器はなイ」
なるほど。
クライヴもそんな兵器は知らない。
だがクライヴが秘密裏にスティングレイを造っていたように、帝國も日々、新兵器を造っているのだ。
まして相手は第三艦隊。
禍津と戦う最前線を支える部隊。
何が出てきても不思議ではない。




