42 クライヴる
第三艦隊は十四隻からなる大規模なものだ。
対するスティングレイは一隻。
まともな状況であれば白旗を揚げるしか無いが、幸いにもスティングレイはまともな船では無かった。
「コルベット。主砲をレールガンモードに。目標、敵空母。撃て」
電磁の力で加速された徹甲弾が九発、帝国の空母目がけて超音速で襲いかかった。
本来なら空母を貫通するだけの威力がある。
だが、それら徹甲弾は命中する直前、見えない壁に阻まれ跳ね返されてしまった。
「ほう。流石は第三艦隊。強力なシールドだ。ガヤルド王国に駐留していたものとは違う」
「まあ妾が言うのもあれだが、ガヤルド王国は別に重要じゃないからなぁ」
攻撃が防がれてもスティングレイのブリッジに緊張感はなかった。
なにせ敵は九発弾いただけ。
一方、スティングレイは既に百を超える砲弾を受けているが、シールドに軋む気配もない。
まして70メトロン級禍津を一撃で屠った最強兵器、超重力砲という切り札もあるわけだから、むしろ負ける要素を探す方が難しい。
「ねえ。さっさと超重力砲を撃って終わらせたらいいんじゃないの?」
レイが面倒そうにそう呟く。
「いや。超重力砲は正面にしか撃てないし、撃つ瞬間、シールドが停止してしまう。囲まれている状況だと使えない」
「そうなんだ……この船にも弱点があったのね」
「あと一週間時間が合ったらシールドと超重力砲を同時に使えるようにしてみせるのだが……」
「一週間あれば出来るんだ……一週間後の帝國が可哀想ね……」
元帝國軍のくせにレイは人ごとのように呟く。
「来週のことはともかく、今はどうする? 妾の考えでは、とりあえずスティングレイは防御に徹して、クライヴが外に出て直接攻撃すれば簡単だと思うんだが」
「そうしますか? 俺的にはここで第三艦隊を相手にスティングレイとコルベットの慣らし運転をしたいと思っていたのですが」
ミュウレアの提案に対してクライヴが真面目に応えると、なぜか引きつった顔をされた。
「妾は冗談で言ったのだが……お前、もしかして、スティングレイを使わずに素手で戦った方が強かったりするのか……?」
「あんまりそういうことを言わないでください。造った俺が馬鹿みたいじゃないですか」
「いや、馬鹿だと思うぞ……?」
「……設計したときは俺のほうが弱かったんですよ。あと、まだまだ改良の余地がありますから。それに俺がいくら強くても、俺に乗って移動するわけにはいかないでしょう。スティングレイは無意味ではありません」
「お、おう! なんか言い訳重ねるクライヴって珍しいな!」
ミュウレアだけでなく、レイも琥珀もポカンとした顔でこちらを見つめている。
「巡洋艦より強いとか、クライヴさんは相変わらず〝クライヴって〟ますね」
「琥珀様。何ですか、その変な動詞は」
「私が考えたんです。クライヴさん的な行動を表わす言葉です。クライヴる!」
「ほほう。便利そうだな。妾も今度使ってみよう」
少し恥ずかしくなったクライヴは、コホンと咳払いをし、コルベットに視線を移す。
「そういうわけでコルベット。第三艦隊はお前の練習相手だ。特に指示は出さないから自分の判断でやってみろ。別に殲滅する必要はないが、艦隊としての機能は奪え」
「心得タ。主様の期待に応えて見せル」
そう言って頷いたコルベットの顔は気のせいか、いつもよりやる気があるように見えた。




