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40 砲雷撃戦用意

 朧帝國軍第三艦隊。

 白の大陸アルビオンを封鎖するためにある三つの艦隊の中でも最大規模。それが展開している海域こそが、人類と禍津の戦いにおける最前線といえる。


 そんな第三艦隊のもとに、二つの情報が入ってきた。


 ガヤルド王国から逃げ出したスティングレイという船が、潜行し、白の大陸アルビオンを目指しているということ。

 哨戒任務中の潜水艦が、海中を40ノットで進む移動物体を捕らえたということ。


 導き出される答えは一つ。

 スティングレイを補足したのだ。

 しかも、こちらに向かってきている。


 そのことを本国に報告すると、短い命令が送られてきた。


 ――撃沈せよ。琥珀の奪還は不要。


「……汚名返上のチャンスが巡ってきたらしいな」


 第三艦隊の司令、新堂上級大将は舌なめずりする。

 なにせ第三艦隊は、立て続けに禍津を二匹も逃がしてしまったのだ。

 うち一匹は、ガヤルド王国に出現し、スティングレイによって撃破された。

 もう一匹は、あろうことか初出航する纐纈城の前に姿を見せたらしい。

 皇帝陛下の前で醜態を晒したも同然。

 だが、ここでスティングレイを沈めれば、少なくとも自分が無能でないとアピールすることが出来る。


 自分は今、56歳。退役まで4年だ。

 せっかく上級大将まで上り詰め、第三艦隊の司令という名誉ある役職についたのだ。

 最後までこの地位を守り、誇りを持って隠居生活に入りたい。

 そして孫に自慢したい。


 ゆえに、だ。

 どんな卑怯な手を使ってでもスティングレイを撃沈してみせるとここに誓う。


        △


 クライヴがメイド服が好きだと暴露した次の日。

 スティングレイのブリッジは既にメイドだらけだった。


 まず船体制御用デバイスであるコルベット。彼女はもとより、クライヴが用意したメイド服を着用している。

 シンプルな黒いロングワンピースに白いエプロン。メイドの基本形であり究極。

 贅沢を言えばもう少し表情が欲しいが、黙々と家事をこなす姿はプロ意識を感じさせるので、これはこれでありだ。


 次にミュウレア。コルベットに作らせたと思わしきメイド服は、かなりきわどいミニスカートだった。

 太ももが大きく露出しており、おまけにパニエで大きく膨らませているから、普通に歩いただけで下着が見えてしまいそうだ。

 おまけに白いストッキングにガーターベルトという組み合わせであるからして、直視できないほど扇情的。

 神経が図太いミュウレアも流石に恥ずかしいらしく、頬を赤らめ、それでもクライヴの前に仁王立ちしてアピールしてくる。

 が、露出が多いデザインはメイド服において邪道であり、しかも来ているミュウレアがお子様なので、効果的とは言いがたい。

 それでも照れているミュウレアが珍しいので、これはこれでありだ。


 そして琥珀。桃色の着物に、濃紺の袴。その上にフリルたっぷりの白エプロンという出で立ち。

 メイドと言うよりは女給の類い。おまけに頭には黒い猫耳を装着していた。あざとすぎてクライヴの趣味からは少々ずれている。しかし琥珀自身の可愛さが極まっているので、これはこれでありだ。


 ブリッジのどこを見てもメイド。

 そんな幸せな光景を前に、クライヴはしみじみと頷いた。


 だが、しかし。

 メイド服を着ていない女子が、たった一人だけ紛れ込んでいた。

 かつては帝國最強とまで呼ばれた輝士。

 焔レイである。


 火器管制装置の前に座り居心地悪そうにしている彼女が視界に入るたび、クライヴはため息を禁じ得なかった。


「はぁ……」


「な、何よ! 仕方ないでしょ! むしろ、昨日の今日でメイド服を用意できる方がどうにかしているのよ!」


「ふふん。言い訳とは見苦しいなニート。自分で作ろうなんて身の程知らずなことをせず、大人しくコルベットに頼めばクライヴを失望させずに済んだものを」


「大丈夫ですよレイ! クライヴさんの眼は私たちがしっかり楽しませます! レイは出来るだけクライヴさんの視界に入らないよう気をつけてください!」


 いつもと違う服装になって興奮しているのか、普段の琥珀からは考えられないほどの暴言が飛び出してきた。

 そんな琥珀の足下に、黒猫が「にゃーん」とすり寄っている。同じ形の耳をつけているので、仲間だと思っているのかもしれない。


「こ、こここ琥珀様!? なぜそんな意地悪を……うぅ、恋は友情を破壊してしまうのですね……」


 レイがそんな意味不明なうめき声を上げてうつむいたとき。

 爆音がブリッジに響き渡った。


「何事だコルベット」

「周囲に機雷多数。更に海面より爆雷接近中」

「回避の必要性は?」

「なし。シールドで防御可能」


 コルベットの言葉どおり、爆音あれども衝撃は皆無。

 だが外部映像を見る限り、攻撃は止まっていない。むしろ激しさを増している。

 スティングレイの周りでは、機雷と爆雷が休むことなく爆発し、衝撃波をひっきりなしに叩き付けてくる。


「クライヴ、この攻撃は帝國によるものか?」

「ええ。それも第三艦隊でしょう。まあ、予定通りというやつです」


 白の大陸アルビオンを目指す以上、必ず帝國艦隊とぶつかることになる。

 禍津の巣に殴り込もうとしているときに相手を選ぶのも馬鹿馬鹿しいので、最短距離を直進して第三艦隊のエリアに飛び込んだのだ。


「どうするのよ? このまま無視して通り抜けるの?」

「そうだな……このまま機雷と爆雷だけならそうしてもいいんだが……」


 レイの問いにクライヴが答えた、そのとき。


「前方、アマギ粒子反応」


 コルベットがいつもの平坦な声色で、危機的状況を伝えてきた。

 驚いたクライヴは反射的に命令を放つ。


「シールド出力全開!」

「あんずるな主様。もうやっていル」


 瞬間、正面スクリーンがホワイトアウトするほどの閃光が放たれた。

 外がどうなっているのか分からなくなる。

 同時にスティングレイの船体が激しく揺れ動く。


 かつてガヤルド王国ケーニッグゼグ公爵領に現れた100メトロン級禍津を倒すため、帝國軍が使用したアマギ粒子反応爆弾。

 海岸線が変形し、街が半分消し飛ぶほどの爆発。それと同等のものが、スティングレイを襲ったのだ。


「コルベット。被害状況は?」

「皆無。スティングレイのシールドはこの程度では貫けナイ」

「ふむ。しかし、この出力でシールドを使い続ければ、神滅兵装がガス欠を起こすな」


 スティングレイはクライヴの胸部に搭載された神滅兵装からエネルギー供給を受けて駆動している。

 燃料である白色血液は琥珀からいくらでも手には入るが、それはつまり、琥珀を物理的に傷つけることに繋がる。

 あまり積極的に使いたい手段ではない。


 それに、なによりも。


「変じゃないかクライヴ。帝國は琥珀を取り戻したがっていたはずなのに、アマギ爆弾を使うなんて。まるで琥珀ごと殺そうとしているみたいじゃないか」

「そうね、ミュウレア殿下の言うとおりだわ。まさか第三艦隊は琥珀様が乗っていることを知らないのかしら……?」


 ミュウレアとレイは疑問を口にする。

 すると珍しく琥珀が意見を述べた。


「あ、あの、第三艦隊と通信することは出来ないのでしょうか!?」

「攻撃ではなく、通信ですか琥珀様?」

「はい、そうです。もし第三艦隊が私がここにいるということを知らずに攻撃しているのであれば、いると教えてあげれば攻撃が止まります」

「ふむふむ。なるほどいい考えだ。しかし琥珀。いると分かっていて攻撃していたとしたらどうする?」

「そのときは……そのときです!」


 琥珀は黒猫を抱きしめながらそう言った。

 行き当たりばったりの無謀に聞こえるが、しかしそれはクライヴと同意見だった。


 どのみち、黙っていても攻撃は続くのだ。

 第三艦隊が琥珀がいることを知らないというマヌケな話はないだろうが、教えてやるだけならタダだ。

 むこうが琥珀ごとこちらを亡き者にしようとしているなら、結構。

 そのときはそのとき。

 一戦交えればよい。


「よし、コルベット。通信可能な深度まで上昇しろ。それと、砲雷撃戦の用意だ」

「心得タ」

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