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31 万能巡洋艦

「さてと……レイと琥珀を探しに行く前に……」


 白虎参式・改を倒したミュウレアは、キョロキョロ見回し、そして目的の物を発見した。


「あったあった。レイの奴、クライヴに託された荷物を落として。使えん奴だ」


 商店街で買ったものがつまった、あの紙袋だ。

 中身のほとんどはレイの買い物だからどうでもいいが、琥珀のマグカップだけは死守しなければ。


 それを持って、レイと琥珀が飛んでいった方角へ行こうとした、そのとき。


 カーン、カーン、と頭上から金属音。


 見上げると、クライヴが作った蒼い壁に対し、駆逐艦の撃った鉄鋼弾が断続的に当たっていた。

 少し間をおいて、今度は榴弾が命中し、爆発が起きる。

 そのどちらも、壁にダメージを与えていない。

 更にミサイルの雨が降りそそぎ、鋼鉄兵の群れが爆撃を続けているが、そちらも効果なし。


「さっきから無駄な努力をご苦労なことだ……と言いたいが、あながち無駄とも言い切れんな」


 なにせ、こちらとは物量が段違いだ。

 クライヴは無敵であるが、無限ではない。

 このまま敵の攻撃が続けば、いつかは燃料切れを起こし、押しつぶされるだろう。

 仮に、あの壁を永久に維持できるとしても、だ。

 一つの街に籠城し続けるのは、ミュウレアの性根に合わない。

 退屈で狂ってしまう。


 ゆえに、打って出る。


「レイと琥珀も心配だが……まずは大元を叩かないとな……クライヴが燃料切れを起こしたら、完全に詰んでしまう」


 そう決断したミュウレアは、紙袋を抱えて、ドックに走った。

 クライヴが建造した、あの巡洋艦。


 全長、二百十メトロン。

 排水量、九千六百トン。

 その姿を真上から見れば、鋭利な二等辺三角形。

 全体的なシルエットは、矢尻に似ている。

 とにかく、普通の船と比べて極端に尖っていた。


 表面は真っ平らで、主砲や機銃の類いが見当たらない。

 色は銀色――というより、周囲の色が映り込むほど磨き上げられた鏡色。


 水が抜かれたドックに、剣のように寝そべっている。


 ミュウレアは搭乗口から乗り込んだ。

 何度も見学しているので、内部は勝手知ったる我が家のようなものだ。

 作業員たちは全員避難してしまったからミュウレア一人で操作しなければならないが、ほとんどオートメーション化されている。

 旅に出るならともかく、敵に一撃を入れるくらいなら、何とかなるだろう。


 通路を走って指揮所へ。

 そこは直径十メトロンほどのドーム状の部屋だ。

 内装は白を基調とし、中央部には艦長の椅子。

 正面には大型スクリーン。

 それから半円状に、火器管制装置、操舵輪、レーダーなどが並んでいる。

 それぞれに人員がいた方が良いのだが、この際、全てコンピューターに任せるしかない。


「おいコンピューター! ミュウレア・ガヤルドだ。船を動かせ!」


 確か、自分のミュウレアの声をクライヴが登録していた。

 これでコンピューターが目覚めるはずなのだが。


 と、そのとき。

 艦長の椅子から、何者かがヌッと立ち上がった。


「のわぁっ! 何者だ……って、妾にソックリ!?」


 その何者かは、驚くべきことに、ミュウレアと同じ顔をしていた。

 それこそ、生き別れの双子が現われたのかと思ってしまうほど似ている。


 ただし、同じなのは顔だけ。

 ミュウレアが金髪なのに対し、相手はピンクという不自然な色をしていた。

 また背も、こっちは百五十センチ()。あっちは百五十センチ()

 ほんのちょっぴり大きかった。

 そして胸もちょっぴり……いや、かなり大きい。平均的な十五歳に匹敵する。


 早い話が、ミュウレアが「こうなりたいな」と願っている、理想のプロポーションなのだ。


 自分と同じ顔の女が、自分の理想を実現している――これは何の嫌がらせだろうか。


 しかも、よく分からないことに相手は、黒いロングワンピースに白いエプロン。すなわちメイド服を着ている。

 なにゆえに巡洋艦の指揮所でメイド服を?

 ミュウレアが唖然としていると、そのメイドは口を開いた。


 何の表情も浮かべず、機械的に、平坦な声色で、彼女は名乗った。


「我は主様によって作られた家事手伝いロボット、兼、船体制御用デバイス。AIのベースは『認識番号1542』でアル」


「認識番号1542……お、お前、昨日クライヴにやられた玄武参式か!」


 流石のミュウレアも驚き、ツバが飛ぶほど大声を出した。

 そういえばクライヴが、玄武参式から回収した部品を使って、何かコソコソ作業をしていた。

 その成果が、メイドロボ!


「なお、ボディのベースは、貴様の影武者用アンドロイド、ミュウレアβでアル」


 影武者用?

 はて――と、ミュウレアは考え込み、やがて思い出した。


「そうだった! 前にクライヴに頼んだぞ。妾が王宮を抜け出してもバレないよう、影武者ロボットを作れと。なんだ、ちゃんと作っていたのか……いや、しかし。顔は同じだが表情がないし、背も髪の色も違うし……何よりどうして巨乳なんだ!」


「巨乳ではナイ。十五歳であることを考えれバ、平均的」


「妾から見た平均値は、宇宙のように巨大で広大なのだ!」


 自分で主張していて泣きたくなってくる。

 まったく、どうしてこんなに自分の身長とおっぱいは小さいのだろう。

 しかし、考えてみれば、母も小柄で小ぶりだった。遺伝子はしっかり仕事をしている。


「ええい、胸の話などどうでもよい! それよりも、お前。船体制御用デバイスと言ったな? つまり、船を動かせるんだな?」


「無論。我は主様によって、この船の全制御を司る存在として造り出された」


「主様ってクライヴかぁ? あいつメイドロボに主様と呼ばせて……そういう趣味なのか? うーむ、詳しいことはあとでハッキリさせよう。とにかく、船を飛ばせ!」


「警告。確かに動かせるガ……コンデンサにある電力では十分程度しか保たなイ。エネルギー源である神滅兵装が遠くにあるため、電力のチャージも不可能」


 元1542は、淡々と告げる。


「チャージ不可能? 変だな。妾にはクライヴから灮輝力がちゃんと届いたぞ」


「人間ニ灮輝力を送るのト、機械に送るのは違うらしい」


「うーむ、困ったな。だが、十分でもいい。街の周りにいる鋼鉄兵と軍艦を沈めるだけだからな。この船のスペックなら余裕だろう!」


「警告。十分というのは、あくまで巡航した場合。戦闘行動を取れば、更に縮まル」


「それでもいいから動かせ!」


「了解。危険であるゆえ、椅子に座って、シートベルトを締めるガよい」


「なんか車みたいだな」


 ミュウレアは元1542の助言に従い、艦長の椅子に座り、ベルトを絞めた。

 すると元1542が副官の如く、ミュウレアの隣に立ち、正面スクリーンを見据える。

 その瞬間、ブリッジの各装置が動き出した。

 スクリーンが外部の映像を映し、レーダーが起動し、火器管制装置のランプが灯る。


「ああ、ところで。お前のことは何と呼べばいいんだ? 脳内では元1542と呼んでいるんだが……それは味気ないからなぁ」


「コルベット。ソレが主様から頂いた名称である」


「コルベットか。うむ、ならばコルベット。飛ばせ!」


「了解。ハッチ開放――」


「おいおい! そんな悠長なことをしている場合か! ハッチもガントリーロックも壊してしまえ! ……いや、このまま垂直上昇だ! 天井をぶち抜いて、そのまま鋼鉄兵の群れに一発撃ち込む!」


「ナント強引な……されど命令ならバ」


 コルベットを名乗るロボットは、一言多いが、おおむね従順のようだ。

 色々と気になる部分があるものの、クライヴが作ったものなら、間違いはないだろう。

 よってミュウレアは安心して船体の制御を任せ、号令を出す。


「万能巡洋艦スティングレイ――発進!」

コルベット・スティングレイ!

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