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27 オーバー・キル

 クライヴにとって、それは珍しく失態と呼べる結果だった。


 五十嵐紋次郎に吹き飛ばされ、防御に成功はしたものの、アパートに突っ込み破壊してしまった。

 そして間の悪いことに、真下に琥珀がいたのだ。


 しかも、丸くなって逃げようとしない。何かを、守ろうとしていた。

 あの小さな身体で。戦うすべを知らないのに、精一杯。


 その勇気に、感服。


 もしクライヴが、琥珀のように力を持たない存在であったとして、それでも誰かのために命を賭けることが出来るだろうか?

 答えは、分からない。

 クライヴは、自分がどうやら他人より才能があるらしいと自覚している。

 だからこそ、立ち向かえる。

 その才能が尽き果てたとき、今のように自信を持って行動出来るか否か。


 分からないからこそ、クライヴは琥珀の行為を尊敬する。


 その尊さを守るため、アパートの壁を垂直に走って下り、瓦礫に追いつき、一閃。全て消し飛ばす。


 琥珀は無事。そして、彼女が守っていた黒猫も。


「それにしても、妙に縁のある猫だな」

「は、はい。クライヴさん、その、本当にありがとうございます!」

「言ったはずだ。礼には及ばない。それよりも、逃げろ。その猫を守りたいのであれば、なおさら」


 クライヴは琥珀に背を向け、海がある方角を見る。

 その先には、五十嵐紋次郎がいるはず。

 この瞬間にもやって来るかもしれない。


「いいえ逃げません! この猫さんを守りたいから、逃げません!」


 しかし、琥珀はそう叫んだ。

 驚いて振り返ると、決意に満ちた顔が待っていた。


 そこにあった表情は、あの気の弱そうな琥珀のものではなく、覚悟を固めた戦士のようなものだった。


「クライヴさん。あなたは今、街全体を壁で覆っていますね。自分の戦いに割り振れる灮輝力は何パーセントですか? 残りの燃料はどのくらいですか? 窮地なんでしょう? だったら、私が手伝います。幸いにも、ほら。今の私は傷だらけで血だらけですよ」


 そう言って、琥珀は右手を差し出した。

 巫女装束の袖からのぞく手は、白い血で濡れている。

 白い血――禍津の血――すなわち灮輝力の源。


「いいのか? 君は、自分が燃料として使われることに、抵抗はないのか?」


「構いません。いいえ、是非使って下さい! 私は、あなたの役に立ちたいですクライヴさん。私を神滅兵装の燃料にして下さい!」


 目をそらすことが出来ないほど真っ直ぐな想い。


 もちろんクライヴは、琥珀の力を借りずとも勝つことは可能だ。

 しかし、この少女の想いを、敵に叩き付けてやりたくなってしまう。


「分かった。琥珀。君の力を貸してくれ」

「はい!」


 細い腕をとって、手を口元に運び、指先に付いた血を、そっと舐めとる。


 クライヴの体内に取り込まれた琥珀の血は、食道のセンサーによって感知され、心臓部へと送られた。


 その瞬間。神滅兵装が、歓声を上げる。


「これは――」


 クライヴは思わず驚きの声を漏らした。

 なにせ、これほど高純度の白色血液を取り込んだのは初めてなのだ。

 琥珀の指先についていたものを少し舐めただけで、出力が跳ね上がっていく。


 気を抜けば暴走してしまいそうなほどの灮輝力が溢れ出す――。


「ク、クライヴさん!? なんか全身が凄い光ってますよ! 大丈夫ですかっ?」

「ああ、心配ない。制御、完了だ」


 出力の上昇が予想外だったため外に溢れたが、そういうものだと分かれば、対処はいくらでも出来る。

 事実、既に光は消え、元に戻っていく。


 もっとも、それは見た目だけの話。

 クライヴの中で今、莫大な灮輝力が渦巻いていた。

 これなら――船を飛ばすことも造作ない。


 そうやって、クライヴが久しぶりに興奮していると。


「クライヴ・ケーニッグゼグ! そこにいたかァッ!」


 目の前にあった雑貨店の壁を貫いて、五十嵐紋次郎が現われた。

 相変わらず嗤って、戦いに滾っている。

 それはそれで真っ直ぐな想いといえよう。


 ならば琥珀だけでなく、こちらにも応えてやろう。

 クライヴ自身、戦うことは嫌いではないのだし。


 問答無用という勢いで突っ込んできた五十嵐の右腕に、クライヴは手をかざす。

 それを構成している灮輝力に干渉。

 引きはがすようにして分解。


「なっ、にィ!?」


 鋼鉄だった右腕を一瞬にして元に戻された五十嵐は、驚愕と憤怒を同時に浮かべ、それでも間髪容れずに左腕を振り下ろす。

 もちろん、そちらも同じく分解。


 クライヴにとって灮輝力で作られたものは、触れてしまえばどうにかなる類いである。

 当然、攻撃に直接触れるわけだから、その瞬間に自分がやられてしまうという可能性は無視できない。

 しかし、五十嵐の攻撃は既に見切った。

 ゆえに、可能性を無視して接触。分解は完璧。


「五十嵐大将。お前に付き合うのはここまでだ」


「ナァァニを言っているケーニッグゼグ! まだだっ、まだだろうッ! 俺はお前との戦いが楽しくて仕方がないぞ! これほど楽しいのは何年ぶりだ!? さあ来い! 打って来い撃って来い! 斬撃だろうが砲撃だろうが全て受け止めてやるぞ! さあっさあっさあっ! さあァァァ――ッ!」


 血走った目で、彼は懇願する。

 まるで求愛するように。

 戦ってくれと。


 そして彼は、周りの建物を分解。再構成。前よりも一回り大きな両腕を形成し、戦闘続行を叫んだ。


「よかろう。ならば喰らうが良い――しかし言っておくが、さっきの俺より、いささか強いぞ」


 クライヴは呟き、腕を五十嵐に向け、手の平に灮輝力を集中。

 青い碧い蒼い輝き。

 太陽が地上に墜ちてきたような、滅びの光。


「――これはッ!?」

「あの世でじっくり考えろ」


 実のところ、何の変哲もない、灮輝力の塊。

 玄武参式に搭載されていた輝の大砲(アマテラス)と同等のものだ。

 灮輝力によって物質を再構成する技に比べれば、単純極まる。

 灮輝発動者の技のなかでは、初心者向けであろう。


 しかし、これだけの出力になれば。

 むしろ、単純であるがゆえに対策も出来ず。

 ただ死ぬしかない。


「ぬおおおおおおっ!」


 塊を発射した瞬間、五十嵐紋次郎は全力で防御したのち――その生涯を閉じた。

 死体を残さず、その背後にあった建物ごと、この地上から消滅してしまった。


 それどころか、更に奥の建物も消えている。

 破壊の直線は、百メトロンほど続いていた。


「参ったな。かなり力を押さえたつもりなのに。もっと調整できるようにならないと、味方を巻き込む危険性がある。しかし、なんにせよ。助かったぞ琥珀。ありがとう」


「ど、どういたしまして……ですが、今ので手加減したんですか、そうですか」


 なぜか琥珀は、顔を引きつらせ、少し呆れた顔をしていた。

 その足元で、猫が「にゃーん」とマイペースに鳴いている。


「どうした琥珀。君の血の威力は、君が一番知っているのでは?」


「そのつもりだったのですが……人造神に流し込んでもそこまで極端な反応はなかったですよ……いえっ、そんなことよりも! クライヴさん、お願いします! レイを助けに行ってください! レイは私を逃がすために――!」

南無

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