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22 対艦刀

 ――正気、か?


 クライヴは眼前の光景を見て、相手の精神を疑った。


 なにせ、巡洋艦が速度を緩めず、いやむしろ加速して、この漁港に向かってくるのだ。

 船体そのものを弾丸に見立てて体当たりしようとしている。にわかには信じられないが、そうとしか思えない。


 速度は約三十ノット。つまり時速五十五キロ程度に過ぎない。

 しかし重量は一万トン級なのだ。

 こんな港など一瞬で破壊され――それどころか、地面を削って街まで被害が出る。

 無論、そんなことをすれば、あの巡洋艦だって無事ではすまないはずだ。

 少なくとも、陸に乗り上げて航行不能に陥る。


 意味が分からない。

 分からないが、止めなければ大勢が死ぬ。


 ゆえにクライヴは動く。


「レイ、荷物を頼む。姫様は――ご自分の判断で!」


 レイに紙袋を渡し、それからミュウレアを見てアイコンタクト。

 自分の判断で、ということは、すなわち。状況によっては、アレを動かすことも視野に入れている。


「うむ、任せろ。クライヴは思う存分、戦うがよい。しかし無茶はするなよ」


「ちょっと待ちなさいクライヴ。アンタ、まさか艦隊と戦うつもりなの!? 無茶でしょ、流石に!」

「そうですよ! 一緒に逃げましょう!」


 クライヴを信頼しきっているミュウレアと違い、レイと琥珀はまだ理解していないようだ。

 艦隊相手でも、心配無用である。

 撃滅するのみ。


「案ずるな琥珀。そしてレイ。この三年で俺がどれだけ強くなったか、刮目するがいい!」


 そう宣言し、少女たちの視線を背中に受けて、クライヴは地を蹴った。

 海に浮かぶ漁船を跳び越え、海面に着地。

 周囲の灮輝力を取り込んで、水の表面張力に干渉。

 一ミリも沈むことなく、街と巡洋艦の間に立ちふさがった。


 後方には人々の悲鳴。

 前方には水しぶきを上げて迫る巡洋艦。


 灰色の鋼鉄。

 既に船底が海底に接していて、砂と海水を巻きあげながら突き進んでいる。

 耳をつんざく轟音。

 一瞬にして視界の全てを埋め尽くすほどの面積。質量。

 目の前全てが鉄鉄鉄鉄鉄。

 まるで自分が蟻になったかのようだ。


 それでもクライヴは臆さない。

 懐からカプセルを取り出して、中の『白色血液』を飲み干して。

 心臓部に燃料を流し込む。


 そして装置が動き出す。


 あらゆる脅威を跳ね返す、無敵無双の力。

 すなわち絶対勝利の力なり。 



「神滅兵装――起動――」



 瞬間、壁が広がった。

 一万トンがクライヴを押しつぶし、そのまま漁港と街に突き刺さろうとした間隙に。

 蒼く光る、灮輝力の壁が。


 それはクライヴと巡洋艦の間を仕切るように広がり、鋼鉄の突進を、せき止める。

 あの獰猛な進撃を。海底を削りながら迫るパワーを。

 人間から放たれた灮輝力が、完全に、停止させた。


 蒼い壁に衝突した巡洋艦は艦首を潰し、その衝撃が全体に伝わって、歪む。

 巨大なビルが崩れるような音を出しながら、わずかに歪曲する。


 船体の悲鳴だ。

 三十ノットから一気にゼロノットとなった痛みを、全身から訴えている。

 

 当然、乗っている人間もただでは済まない。

 自動車の急ブレーキなど比べものにならないだろう。

 なにせ、文字通り、壁に突っ込んだのだから。


「ガヤルド王国駐留艦隊の巡洋艦は確か……大間と言ったか? 大間の乗組員たちよ。許しは乞わない。存分に怨むが良い。俺は一身上の都合により、慈悲なく、容赦なく、諸君らを滅する」


 既に進水し始めている大間を前にして、クライヴはトドメの剣を造り出す。

 両手を合わせて、天へと伸ばして。そこから蒼い光を伸ばして、伸ばして。


 刃渡り二百メトロンの光る刃。


「対艦刀、月光」


 音もなく、振り下ろす。

 抵抗なく、斬り裂いた。


 巡洋艦を、全長百八十メトロンの船を、一万トンの鋼鉄を。真正面から。

 竹を割るように、両断せしめる。


 搭載されていたミサイルが連鎖爆発を引き起こす。

 しかし、クライブが対艦刀が横薙ぎにすると、風が巻き起こり。

 爆発の全てが街と逆方向に押し流される。


 同時に、大間の残骸も風に煽られ、沈む。

 街を貫くような勢いで突き進み、人々を恐怖に染め上げた船が。

 いとも呆気なく。

 海の藻屑と化した。


「さあ、次はどう来る、帝國艦隊? 最善手が退却であると今ので理解できぬなら、ここで朽ち果てるのが定めだぞ」


 クライヴは月光の切っ先を、沖にいる空母へと向けた。

 この輝きを見て、引くならば、よし。

 されど、駐留艦隊の指揮官は、かつて狂戦士と呼ばれた五十嵐紋次郎。


 ゆえに戦いはここからが本番と心得よ。

果たしてクライヴさんは苦戦することが出来るのか(`・ω・´)

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