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21 嗤い顔

「提督、琥珀様を発見しました。漁港です。焔レイ、並びにケーニッグゼグ公爵とミュウレア王女もすぐそばにいます。いかがしますか?」


 艦隊の旗艦である空母『竜飛』の艦橋にて、五十嵐紋次郎は副官から報告を受けた。


 それを聞き、紋次郎は――(わら)った。

 表情こそ鉄のように動かなかったものの、心は躍っていた。


 なにせ港にいたということは、あちらに身を隠すつもりがなかったということ。

 てっきり、人捜しという憂鬱な仕事から始まると思っていたのに。

 手間が省けた。

 ゆえに敵を賞賛する。


 戦う覚悟があるという証なのだから。


 ――焔レイ。そしてクライヴ・ケーニッグゼグ、か。


 二人とは、いつか戦いたいと思っていた。

 彼らが學生だった頃から注目していた。

 特にクライヴは、素行不良で退学になったと記録されているが、それが嘘であると、見る者が見ればすぐに分かる。

 おおかた、保身に長けたあの理事長が、焔家の顔を立てるためにした措置だろう。


 脱走輝士であるレイも、退学になったクライヴも、人造神のアカウントが抹消されている。

 よって、灮輝発動者としては微塵も力を使えない――はずなのだが。

 昨日、玄武参式がこの地で一機、破壊された。


 そして玄武参式が破壊される直前に送ってきたデータには、信じがたいほど高密度の灮輝力が刻まれていた。

 唯の人であるはずのクライヴが弾き出した数値。

 それは『人間』が扱う量ではなかった。


 戦艦や空母と比べても、なお大きい。


 それに、戦艦や空母にしても、自らが灮輝力を作り出しているわけではない。人造神から受け取った灮輝力を電力に変換して動いているのだ。


 なのに、あのクライヴという少年は。

 自分自身で灮輝力を生み出したらしい。

 少なくとも、データにはそう書いてあった。


 有り得ない。玄武参式のセンサーが故障していたと考えるのが妥当だ。

 軍艦クラスの灮輝力も、灮輝力の生産というデタラメも、それで説明が付く。


 では、どうやって玄武参式を倒した?


 一機とはいえ、帝國の鋼鉄兵を通常兵器で倒すのはまず不可能といえる。

 ガヤルド王国の主力戦車を二十両同時に相手取るくらいは容易なスペックなのだ。


 ――面白い。


 紋次郎は嗤う。

 ついに感情が表情筋に伝わり、口の端をわずかに歪めてしまった。


 まずい、まずい。

 自重しなければ。

 若い頃のように生の感情を出すわけにはいかない。

 今の自分は指揮官だ。

 どういうわけか、人は紋次郎の笑顔を見ると恐慌状態になる。


 輝士だった頃は、誰も一緒に戦ってくれなかった。

 同期の仲間も部下も上官も。

 戦っている紋次郎のそばに近づくくらいなら、禍津とお見合いした方がマシ、とすら言われた。


 心外だ。

 こっちは楽しんでいただけなのに。


 もっとも、そのお陰で、気兼ねなく戦えた。

 誰かに『獲物』を横取りされることなく、存分に屠った。


 禍津を叩き潰す感触――あれは心地好いものだ。


 これは本国には内緒だが、こうして艦隊指揮官になった今も、たまに副官に指揮をまかせて、前線に突撃している。

 ゆえに、紋次郎の撃墜スコアは実態と記録がかけ離れていた。

 公式には三十となっているが、実のところ、そろそろ三桁(、、)になるはず。


 クライヴ・ケーニッグゼグと、焔レイ。

 二人はこの五十嵐紋次郎と戦うに値するのか?


 確かめるために、まずは軽く挨拶だ。

 それを生き延びることが出来ないようでは、話にならない。

 いや、きっと生き延びる。

 自分の目に狂いはない。


 ――信じているぞ若者よ!


 ゆえに、紋次郎は命令を発する。


「巡洋艦『大間』をその漁港に突っ込ませろ」

「……接舷、させるのですか? しかし漁港ですから、深さが足りず座礁するかと……」


 命令を聞いた副官は、そんな間抜けなことを聞いてきた。

 それに対し紋次郎は、寛大に対応する。

 二十代の頃なら、この時点で握り潰していた(、、、、、、、)のだが、年を取ると誰しも丸くなるものだ。


「お前はこの艦隊に配属されて一年になるのに、まだ私のやり方に慣れていないようだな。このまま速度を落とさず、文字通り突っ込ませるのだ。案ずるな。修理費はガヤルド王国に出させればいい」

「で、ですが……! それでは琥珀様まで死んでしまうのでは!?」

「阿呆が。第四世代型は高い治癒能力を持っていると説明を受けただろう。頭と胴体が繋がっていれば、どうにかなるのだ。それに――」


 ああ、我慢できない。

 期待しすぎて、どうしても顔が嗤ってしまう。

 自分でも分かるくらい、満面の笑み。


 すると、それを見た副官が、顔を紫色に変える。

 まるで、禍津の群れに取り囲まれたような表情だった。


 もっとも、紋次郎なら。禍津に取り囲まれたら、もっと嬉しくなるのだが。


「それに琥珀様は、クライヴ・ケーニッグゼグと焔レイが守ってくれるだろう。命に代えても。私はそれが見たいのだ」


 命令は巡洋艦『大間』に伝えられた。


 そして大間の艦長は二つ返事で了解してくれた。


 相変わらず豪快ですな大将――と笑いながら。



 美しい夕焼けの中。

 ケーニッグゼグ領に、排水量一万トンの鉄塊が、速度三十ノットで突っ込んでいった。

果たして五十嵐大将はクライヴを苦戦させることが出来るのか(`・ω・´)


なお、いつもの時間にも更新します。

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