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20 開戦

「あー、楽しかった! やはり泳ぐのは気持ちいいな! 琥珀は初めてのプールどうだった?」

「はい、とても楽しかったです! 次は浮き輪なしで泳げるようになりたいです!」

「琥珀様。そのときは私が指導しましょう。私は泳ぎには自信があります」

「ほう。そんな抵抗が大きそうな胸なのに泳ぎが達者か。物理法則に反しているな。ニートのくせに」

「ニ、ニートと泳ぎに何の関係が! って、ニート言わないでください!」

「ふふ、喧嘩しちゃ駄目ですよ」


 プールの帰り道。

 日が沈み始め、徐々に赤く染まっていく空の下、一同はノンビリと歩いていた。


 女子三人はもうすっかり打ち解けてしまっている。

 琥珀とレイはともかく、ミュウレアは昨日加わったばかりなのに。

 まるで長年の友達のように、和気藹々と会話する。


 そしてクライヴは、三人の後ろを歩いていた。

 レイの買った服や布、琥珀のマグカップ、それからプールからもらってきた三人の水着などが入った袋を両手に持って。


「姫様。なぜ俺が荷物持ちを? どうしても納得がいきません」


「何だと? 水着の妾を前にしてあんな淡泊な反応をして、荷物持ちだけで許してもらえるのだぞ。逆にありがたく思え。しかもクライヴ。お前、レイには対照的に……欲情していたらしいじゃないか!」

「そ、そうよ! あんな、いやらしいことを……クライヴがあんなことを言うとは思わなかったわ!」


 ミュウレアは褒めてもらえなかったことに憤り、レイは褒められたことに怒っている。

 まったく意味がわからない。

 女心を理解するのは、遺跡の解読より遥かに困難だ。


「まぁまぁ。許してあげましょうよ。クライヴさんだって悪気があったわけじゃないんですから」


 唯一、琥珀だけがクライヴの味方をしてくれる。

 しかし、彼女の弁護も王女と輝士には通用しない。


「悪気がないということは本心ということだ。なおのこと女心が傷つく!」

「そうです。女性に面と向かって、その……よ、欲情したって……有り得ない! なんでわざわざ口に出すわけ!? 助けてくれた人にこんなこと言いたくないけど……最低!」


 最低、とまで言われてしまった。


 確かに、よくよく考えてみれば、非常識だったかも知れない。とくにレイは真面目な性格ゆえに、性的な話はふさわしくなかっただろう。

 しかし『欲情』なんて台詞は、しょっちゅうミュウレアから飛び出してくる。

 そのせいでクライヴは感覚が麻痺していたのだ。

 責任の一端はミュウレアにもあるのではないか?


 と、クライヴは考えるのだが。

 ここで言い訳をすると、二人の心証を更に悪くしてしまう気がする。

 しばらく大人しくしているべきだ。


 実際、二人は別にクライヴを嫌いになったわけではないはず。

 良く分からない『女心』という回路が働いているだけだ。


「あっ、さっきの黒猫さんがいますよ!」


 港近くの道を歩いてると、琥珀が遠くを見つめて叫んだ。

 すると、魚をくわえた黒猫が、五十メトロンほど先をトコトコ歩いていた。


「こ、今度こそ……!」

「いや。この距離で捕まえるのは無理だろ、琥珀」

「うーん……残念です……」


 琥珀はガックリ肩を落とした。


 それにしても、一日に二度も遭遇するとは、縁のある猫である。


 今クライヴたちの目の前に広がる港は漁港であるから、猫にとっては聖地のような場所だ。

 実際、この時間帯は、漁を終えた漁船が帰ってきて、魚で溢れかえっている。

 それを目当てに街中の猫が集まっていると耳に挟んだことがある。しばらく待っていれば、他の猫が現われるかも知れない。

 そうなれば、琥珀にとって天国になるだろう。


 クライヴが、猫捕獲作戦を提案しようとした、そのとき。


 突如として、日常の終わりを告げる悲鳴が港から聞こえてきた。


「な、何だありゃ!」

「艦隊だ! 帝國艦隊が近づいてくるぞッ!」


 漁を終え、これからどこに飲みに行こうか、なんて話し合っていた漁師たち。

 父親を迎えに来た、その妻と子供たち。

 めぼしい魚はないか、と知り合いの漁師の所に直接交渉に来た魚屋や食堂の店員たち。

 泥棒にやって来た、猫や鳥たち。


 全員が、一斉に、恐怖に染まった。


 その悲鳴は夕焼けに吸い込まれ――


 塗りつぶすように艦隊がやって来る。


 灰色の軍艦たち。

 まず先鋒を切って巡洋艦。その後方に二隻の駆逐艦。

 おそらく、排水量一万トン級と、六千トン級。

 砲の搭載を最低限にした代わりに、ミサイルを数多く積んだ近代型。


 そして、その三角形の中心に、鋼鉄兵を運用する空母がいた。


 間違いない。王都に駐留している帝國軍艦隊。


 琥珀を取り戻すため、ついにやって来たのだ。

 あの狂戦士、五十嵐大将が指揮する艦隊が。


「おいおいおい。帝國軍が来るだろうとは思っていたが、まさか艦隊が来るとはな! どうするクライヴ。このままだと街に被害が出るぞ」


 流石のミュウレアも慌てた様子で言う。

 レイと琥珀も近づいてくる艦隊を見て青ざめている。


 そして、


「無論、撃滅します。被害を一切出すことなく――」


 クライヴは言い返した。

 世界に恐れられる帝國軍艦隊を前にして、淡々と。

おまたせしました。

皆様の忍耐に甘えきった長ったらしい邪悪な日常編が終わりを告げ、ここからは清く正しい破壊と暴力が支配する戦場です。


さあ――


薙ぎ払えー(^o^)/

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