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19 プールだ水着だ

「なぁなぁ、お前ら。泳ぎたくないか?」


 ことの発端は、そんなミュウレアの一言だった。


「泳ぐって……まだ四月にもなっていませんよ、姫様」

「寒中水泳したいならどうぞ、ミュウレア殿下お一人で。止めませんから」

「私も……まだ寒いと思います……」


 クライヴたち三人は一斉に反対する。

 するとミュウレアは頬を膨らまた。


「妾だってこの時期に海に入りたくないぞ! そうじゃなくてプールだ。室内プール。ほら、妾の会社で建てたやつ。オープンは二週間後だが、中身はもう完成しているぞ。今なら貸し切りだ!」

「ああ、そう言えばそんなものを作っていましたね」


 ミュウレアは王女であると同時に、投資家であり実業家である。


 そのプールの土地は、ケーニッグゼグ家のものだ。

 五十年ほど前に、領民のために体育館を建てたのだが、すっかり老朽化してしまい、立て直しを見当していた。


 するとミュウレアが、

「体育館なんかよりプールの方が楽しいだろ。なあプールにしよう。妾の建築会社に工事発注してくれよぉ。なんなら運営もこっちでやるぞ。お前は土地だけ貸してくれ」

 と、甘えた声でおねだりしてきた。

 そして、あれよあれよという間に、体育館がプールに化けてしまったのだ。


「温水プールがあるから、年中泳げる。水着のレンタルもある。今、オープニングスタッフの教育中だから、妾たちが行けば丁度いい練習になるだろう」


 ミュウレアはそう言って、プールを私物化することを正当化した。


「まあ、温水プールなら断る理由もないわね。琥珀様もそれでいいですか?」

「はい。ですが……私、泳いだことがないのです……大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だ。ちゃんと浮き輪もあるからな!」


 ドレスの袖から携帯電話を取りだし、ミュウレアはプールに「今から行くから温水プールの準備をしろ」と連絡する。

 そんなわけでクライヴたちは、開業前のプールに行くことになった。


 ――

 ――――

 ――――――


 それは、流れるプールにウォータースライダー、飛び込み台と、実に豪華な作りのプールだった。

 しかも、岩やヤシの木などで装飾しトロピカルな雰囲気を演出し、天井はガラス張りで開放感に溢れている。

 プールサイドにはパラソルと椅子が設置され、オープンしたあかつきには、スタッフからジュースを買って飲むことも出来るらしい。

 こんなに色々揃っている室内プールは、王都にだってないはず。


「姫様のせいで俺の領地が妙に発展していくが……ちゃんと利益は出ているのだろうか?」


 ミュウレアはプール以外にも、映画館や水族館、遊園地、あげくラブホテルまでケーニッグゼグ領に作った。

 無論、それらはミュウレアが建てなくとも、他の企業で経営しているものが既にあった。しかしミュウレアはいつも、一段階高いグレードの施設を作ってしまう。


 ケーニッグゼグ領は決して寂れているわけではない。だが都会というほどでもなかった。

 たとえば、ケーニッグゼグ領の中央都市『アゲーラ』の人口は約三十万。

 対して、王都『ムルシエラゴ』の人口は二百万を超えている。

 なのにミュウレアは、王都とアゲーラに同じくらい投資していた。


 その理由は――

 ただたんに、クライヴと一緒に遊びたくて作っているのでは?

 そんな疑惑が湧いてくる。


 実際、去年完成したラブホテルにかなりしつこく誘われた。今でもたまに誘われる。

 公爵が王女をつれてラブホテルに行ったら、それはもう一大スキャンダルだろう。

 新聞の一面と、ワイドショーと、週刊誌で大騒ぎだ。


 などとクライヴがミュウレアを心配していると――


「おーいクライヴ。お待たせだ。さあ、妾と琥珀の水着姿に酔いしれるがいい!」

「よ、酔いしれちゃ駄目です……あぅ、恥ずかしいから見ないで下さいぃ……」


 ミュウレアが琥珀の腕を引っ張って、クライヴに近づいてきた。


 どちらも――スクール水着を着ていた。

 ミュウレアは黒。琥珀は白。

 二人とも幼児体型だから、大変よく似合っている。

 豪華なプールが、小学校のプールになってしまったかのようだ。


「こらこら琥珀。もっと、どうどうとしろ。そんなにモジモジしていたら、逆に変な目で見られるぞ。ま、妾たち以外には誰もいないが」

「そ、そうですけど……でも、こんな……腕も脚も……丸見えです! やっぱり駄目です、クライヴさん見ないで下さい!」


 琥珀は両腕で一生懸命、スクール水着を引っ張り、何とか太股を隠そうとする。

 が、そんなに伸びるはずもなく。

 ミュウレアの言うとおり、逆に注目を集める仕草になっていた。

 おまけに目に涙を浮かべ、顔だけでなく全身を朱色に染めて恥ずかしがっているのだから、なにかこう――虐めたくなってしまう。


「けどなぁ、琥珀。スクール水着より露出が少ない水着なんてないと思うぞ」

「じゃあ巫女装束を着たまま泳ぎます!」

「そんなことしたら重くて沈んじゃうぞ。あきらめるんだな」

「うぅぅ……けど、けど……」


 ついに琥珀はしゃがみこみ、クライヴに背を向け、アルマジロのように丸くなり、自分の肌を隠してしまう。

 そのせいで、小さなお尻がこちらに突き出されていることに、気が付いていないらしい。


「やれやれ。琥珀の恥ずかしがり屋にも困ったものだ。それはそうと……クライヴ。まだ評価を聞いていないぞ。さ、存分に褒め称えろ。欲情してると素直に認めるんだな!」


 ミュウレアは胸を張り、決め顔でそう言った。


「褒めろと言われましても。まあ、似合っていますよ。子供らしくて可愛いです」

「こ、子供らしい……!? いや、確かにスクール水着は子供の水着だが……それを妾のような美人の王女が着ているとまた別の魅力があるだろ。ほら、ギャップ萌えというやつ!」

「いえ。ギャップは全くありません。素晴らしくマッチしています。頭を撫で撫でしたくなりますね」

「こ、こいつ……! お前、酷い奴だな! 嘘でもいいから『セクシー』とか『色気がある』とか言ってくれたっていいだろ! もう、知らん! 琥珀、行くぞ。浮き輪を借りに行くんだ」

「ふぇぇ……恥ずかしい……」


 まだ赤いままの琥珀を無理矢理立たせ、その手を引き、ミュウレアは大股で立ち去ってしまった。

 どうやら、怒らせてしまったらしい。


「なるほど。水着の女性を褒めるときは『セクシー』と言えばいいのか」


 知識が一つ増えた。

 機会があれば、ぜひ活用しよう。

 クライヴがそう考えていると、早速、機会がやって来た。


「ク、クライヴ……この水着、どう、かしら……?」


 背後からの声に振り向いたクライヴは、息を飲んだ。


 レイがそこにいたのだが――

 当然、見慣れた輝士団の制服ではなく、水着。

 それも水色のビキニタイプ。

 布面積は最小限であり、レイのスラリとした美しい体が、ほとんどそのまま露出していた。

 一応、腰に小さなパレオを巻いているが、そんなものでは何も隠せていない。


 何と鍛え上げられた肢体だろうか。

 美しく均整がとられ、贅肉は一切ない。

 細長い手足。ほっそりとした腰。だが、その皮膚の下には密度の高い筋肉が眠っているというのも分かる。

 美と強と柔と剛。全てが備わっていた。

 更に注目すべきは――〝胸〟。

 昨日、三年ぶりの再会を果たしたときから、随分と成長したものだとは思っていた。しかし、それは輝士団の制服越しの観察であり、こうして『実物』を目の当たりにすると――。

 それほど性に関心を払わないクライヴから見ても、魅力的に映った。


 ゆえに――褒めねばならないだろう。


 ミュウレアに対する失敗から学んだ経験を武器に、レイの水着を評価するのだ。


「や、やっぱり変、よね? 私がこんな……ちょっと大胆すぎたわ! やっぱり別のに……」

「いや、変ではない。とても似合っているぞ、レイ」

「本当……!?」


 レイの顔がパァァッと輝いた。

 褒められて、とても嬉しそうだ。

 ゆえにクライヴは、更に褒めちぎることにする。


「ああ、無論だ。君のその引き締まった体、実に魅力的だ。それでいながら、大きく成長した乳房。目を奪われる。大胆に露出した水着と相まって、実に 『セクシー』だ。『色気がある』と素直に称えよう。男の欲求をストレートに刺激してくる。この俺も、欲情していると認めざるを得ない」


 完璧だ。

 見事に褒めちぎった。

 ミュウレアならば、これで大喜びする。同じ女性であるレイも喜んでくれるはず――と、思いきや。


 なぜか、泣かれた。

 肩をプルプル震わせて、血走った目で睨まれ、そして。


「ク、クライヴのえっちぃぃぃぃぃっ!」


 レイはそう叫んで、どこかに走り去ってしまった。


「ふむ……女心とは難しいものだ。興味深い」


 やはり自分にも分からないことがあるのだなぁ、とクライヴは妙に感動したのであった。

ところでTwitter始めてみました。

https://twitter.com/ZZT231_

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