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13 束の間の日常

 玄武参式から回収したあのチップは、クライヴの予想どおり、適合した。

 ミュウレアは途中で帰ってしまったので、まだその成果を知らないが、見たらきっと驚くだろう。


 そして一夜が明けた。


 あれ以来、帝國の動きはなく、もしかしたら諦めたのかも知れない――なんて妄想まで浮かんでくる。


 しかし、妄想は妄想だ。


 諦めるわけがない。

 なにせレイが連れてきたのは、機密中の機密。人造神を制御する巫女――それも最新型の試作機。

 

 どの鋼鉄兵も、基本的に本国と常にデータリンクしている。

 ケーニッグゼグ領にレイと琥珀が立ち寄ったという情報は、帝國に送られていると見るのが当然だ。


 ならば帝國が動き出す前に場所を変え、潜伏するのが常識。


 なのだが――


「逃げる必要はなかろう。隠れる必要もない。帝國軍が来たら、真正面から倒す」


 ミュウレア・ガヤルドは、澄まし顔で二人の客に語る。

 そして更に、こうも続けた。


「心配無用だ。クライヴが倒す――」


「姫様。俺に頼りっきりですか」

「ん? 何だ、倒す気がないのか? 帝國軍が攻めてきたら逃げるのか?」

「いえ。倒しますが」

「うむ。それでこそ妾の夫になる男!」


 そんなわけで、レイと琥珀はいまだケーニッグゼグ領にいる。

 しかも、白昼堂々、街に出歩き遊んでいた。


「わあ、見て下さいレイ! 人が沢山います! お店も沢山あります! 凄いです!」


 外を歩く琥珀はずっと興奮しっぱなしだった。

 昨日までの大人しい印象とうって変わり、太陽のような笑顔を浮かべ、緋袴と銀の髪を揺らして走り出す。


「あっ、琥珀様! 危ないですよ!」


 その後ろをレイが追いかけ腕を掴む。


「えー、だってだって! レイ、とても賑やかですよ! 今日はお祭りか何かですか!」


 レイに捕まっても琥珀の興奮は冷めず、目をキラキラさせて辺りを見回す。


 確かにここ『アゲーラ』は、ケーニッグゼグ領の中央都市。

 ケーニッグゼグ領には鉱山があり、土地も肥沃で、更に海に面しているので、貿易が盛んだ。

 必然的に、各国の人と物が集まる。


 しかし、いくら栄えているからといって、帝國には遠く及ばない。


「琥珀。君は帝國から……それも帝都から来たのだろう? この程度の街は、むしろ田舎に見えると思うのだが?」


 クライヴがそう尋ねると、琥珀は少し照れくさそうに笑いながら答えた。


「確かに私は帝都に住んでいましたが……お屋敷と人造神の間を行き来しているだけの生活でしたから。車での移動だし、寄り道してくれないし……友達もレイしかいないから……人が沢山いると楽しいんです!」

「琥珀様……」


 巫女の言葉に、レイが悲しそうな顔を浮かべた。


 琥珀は、こんなどこにでもあるような都市を見ただけで、心底楽しそうにしている。それこそ、人生最大の喜びを発見したとでもいうように。


 それはつまり、今までの人生が灰色だったということ。

 だから、こんな普通の光景が、光り輝いて見えてしまう。


 クライヴですら、琥珀にかける言葉が咄嗟に出てこなかった。


 しかし――


「あははは、なーにを言ってるんだ、琥珀ぅ!」


 ミュウレアが大きな声で笑いながら琥珀の背中をバシンと叩いた。


「あいたっ!」

「琥珀様!? ちょっとミュウレア殿下! 何をするんですか!」

「お前らが暗くなってるからだ! せっかく外に出たんだから楽しめ! 友達なら、ほら。ここにもいるじゃないか!」


 そう言ってミュウレアは自分を指差した。


「え……友達……」


 琥珀はポカンとした顔で金髪の王女を見つめ、それから遠慮がちに、

「なって、くれる、の……?」

 と、呟く。


「おう、なるとも! と言うか、昨日の夜、一緒にクッキーを食べたじゃないか。あれでもう友達だろ? 妾は琥珀を気に入ったからな。特に妾よりおでこ一つ分背が小さいというのが気に入った! 並ぶと相対的に妾が大きく見える! だから、嫌だと言っても友達だぞ!」


 ミュウレアはそんなことを一方的に言って、また琥珀の背中をバシバシ叩いた。


「いた、痛いってば、もう!」


 琥珀はすねたように口をとがらせ、けれども笑っていた。

 さっきまで悲痛に見えたその笑顔が、どうしてだろう。

 突然、本当に幸せそうに見えた。


「……アンタのとこの王女様、体は小さいのにとんだ大物ね。礼を言うわ。琥珀様があんなに嬉しそうにしているの、私、初めて見た……」


 レイは、クライヴの隣に立ち、そう呟く。

 少し悔しそうな声。


 だが、悔しがる必要はないだろう。

 なぜなら。


「何を言っている、レイ。お前と話しているときだって、琥珀は同じくらい嬉しそうにしているぞ」

「え? そう、かしら……?」

「ああ。お前こそが最初の友達だろうに。胸を張れ。琥珀を帝都から連れ出したのは、焔レイなのだから」


 そう。

 クライヴやミュウレイがこれから何をしようとも、最初に琥珀を助けようとしたのはレイ。

 それは変わらない。

 レイがいなければ、琥珀は一生、人造神の部品として過ごして終わる。

 レイは友を助けるため、帝國に立ち向かった。

 ゆえにクライヴは彼女を賞賛する。


「何よ、照れくさいわね……顔が熱くなるじゃないの!」


 その言葉どおり、レイの頬が赤く染まっていく。

 三年前と変わっていない。

 相も変わらず照れ屋。


「賞賛に弱いところは成長していないな。帝國最強と呼ばれた身であれば、褒められる機会は数多くあっただろうに。毎度そうやって赤くなっていたのか?」

「そんなわけないでしょ! アンタの前だけよ!」

「……? 俺の前だけ?」

「あっ!」


 意味がわからずクライヴが首をかしげると、レイは〝しまった〟という顔になる。


「なぜ俺の前では赤くなる?」

「い、今のは忘れなさい! 忘れなさいったら忘れなさい! 別に深い意味があるわけじゃないから!」

「……ふむ」


 確かに、それほど重要なことではない。

 レイが本当に忘れて欲しそうな剣幕で怒鳴り散らすので、クライヴは大人しく引き下がった。

 しかし気になるのは確かなので――彼女の機嫌がいいときにでも、改めて聞いてみよう。


「それより! あのお姫様。クライヴのこと、未来の夫とか言ってなかった? まさか婚約してるんじゃないでしょうね!?」

「いや、姫様が勝手に言っているだけだ。婚約などしていない」

「あっ、そうなんだ……!」


 クライヴが答えると、レイはほっと胸を撫で下ろす。

 クライヴとミュウレアが婚約していないと、なぜ彼女が安堵するのか。

 まるで分からない。

 今日のレイは分からない行動ばかりだ。


「じゃあ、あのお姫様がおませさんなだけなのね。ふーん。そう考えると可愛いじゃない。あんな小さいのに、クライヴのこと夫って。ふふ」


 レイは先程まで切羽詰まった顔だったのに、一転して今度は、愛でるような目をミュウレアに向ける。


 ミュウレアが可憐な外見だというのはクライヴも同意するが――


「レイ。小さいと言っても、姫様はもう十五歳だぞ」


「――え゛!? 嘘ッ!」


 レイは固まった。

 それからうつむいてプルプル震えだし――顔を上げたときには、瞳に敵意をみなぎらせていた。


「ぐぬぬぬぬ、十五歳、ぐぬぬ……十分にライバルだわ!」


 レイが何を言っているのか、クライヴにはさっぱり分からなかった。

この日常パート(あとで水着イベントもあるよ!)が終わったら即座に、皆さんお待ちかねの――帝國艦隊VS神滅兵装が始まります!

乞うご期待!

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