11 朴念仁
それは勝利と同義である――か。
なんて雄々しい言葉だろう。なんて格好いい男なんだろう。
横で聞いていて心が滾った。
やはりクライヴは、ミュウレアの夫となるにふさわしい。
ただ気にくわないのは、その言葉が自分ではなく別の女に向けられたということ。
もちろん、琥珀から話を聞いただけで胸が締め付けられたし、それを助けてあげたいと行動したレイには素直に好感が持てる。
だから〝人〟としては、焔レイと友達になれるだろう。
しかし〝女〟としては、焔レイはライバルだった。
流石の帝國最強輝士も疲れがたまっているようで、また二階に行って眠ってしまった。
今度は琥珀も一緒について行って、仲良く同じベッドに潜り込んでいる。
だから今は、リビングに二人っきり。
クライヴとミュウレアだけ。
「帝國から守る。それは帝國と戦うと言うことだぞクライヴ。妾に相談もなしに言い切りおって」
「申し訳ありません。しかし、姫様が反対するなど想像もしていませんでしたから」
「そのとおりだ。むしろ妾こそ積極的だからな。反帝國主義者の過激派だ。ゆえにお前がやる気を出してくれたこと、嬉しく思う。妾以外の女のため、というのが気にくわないが」
ミュウレアは露骨に嫉妬を言い表してみた。
ところが、
「性別は関係ないでしょう?」
クライヴは真顔でそんなことを言う。
実に実に、朴念仁。
これさえなければ最高の――否、究極の男なのに。
だが、ミュウレアは、クライヴのそんなところも含めて大好きだった。
レイがクライヴの友人だというのなら、助けてやらないこともない。
どちらが彼を射止めるかは――それはそれ。何かの機会に白黒つけよう。
あの琥珀という巫女も、いじらしくて可愛らしい。妹にしてしまいたい。
「それと姫様。あまり琥珀をそういう目で見たくはありませんが……もし彼女の協力を得ることが出来れば、神滅兵装の燃費問題は一気に解決します。絞るなんて残虐非道なことをせずとも、わずかに分けてもらえれば――」
「ああ、そうだな。あの巡洋艦が動けば、帝國どころか……白の大陸に攻め込むという夢が実現するぞ。むしろ、そっちが先だろうな」
禍津の発生源、白の大陸。
ミュウレアとクライヴが遺跡を調査した結果、その中心部には『白銀結晶』というものが存在すると分かった。
それこそが、禍津を生み出しているという。
さらに白銀結晶は、白色血液の塊であるらしい。それも、超高密度の。
帝國も同じ情報を持っているはずだ。
ならば、帝國は絶対に白銀結晶を狙ってくる。
琥珀からどれだけ白色血液が取り出せるのか知らないが、少女の体だけで世界のエネルギー全てをまかなえるわけがない。
だが、遺跡にあった情報から推察するに、白銀結晶を砕いて持ち帰れば――人造神の千年分の燃料になる。
つまり、禍津を全滅させても、白銀結晶があれば、帝国の覇権は千年続くということ。
有史以前から全生物に対して虐殺を続ける化物。禍津。
それを全滅させるのは、別に帝國でもクライヴでもいい。
世界が平和になるのなら。
しかし、どうせなら、管理された平和より、自由な平和の方がいいだろう。
帝國の覇権が千年も続いては、世の中がつまらなくなってしまう。
やはり、是が非でもクライヴにやってもらおう。
白銀結晶は、ガヤルド王国で手に入れる。
「さて。妾たちもそろそろ寝るとするか。なあ、今夜こそ一緒に……」
「申し訳ありません。俺はこれから出かけてきます」
ミュウレアが勇気を出して〝夜のお誘い〟をしたというのに、クライヴはサラリと流してしまう。
実に酷い男だ。
「出かけるって……もう十時だぞ? 何をしに?」
「実は、さっき玄武参式の残骸から見つけたパーツが、巡洋艦に使えるのではないかと思いまして」
そういえば、何か拾っていた。
あの細切れの残骸から見つけた部品なんて、小さくて役に立たないと思うのだが。
クライヴが使えると言うのなら、使えるのかもしれない。
「それで今から作業か? ご苦労なことだ」
「ちょっと試すだけです。姫様は先に眠っていてください」
「いや、妾も行こう。なにせ、近い内に必ず帝國軍がやってくるからな。そうなれば、未完成でもあの船を動かすことになるだろう。だから今の内に荷物を積み込んでおく」




