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前世の俺が通りますよ  作者: アーケード
3/5

寛大だからね

結構大きい街の側の森に住んでいる主人公


別にお兄様は出てこない。

 学校に行かない理由は数多存在する。

 勉強が嫌いだからとか面倒臭いからだとか一番それっぽい理由はイジメだろうか。

 そう、来世の俺はイジメられていた。


「うわ、マジかよ」


「ランチの野郎学校に来てやがる」


「一生引きこもってれば良いものを」


 何とか家にあった学校関連の資料をもとに学校に辿り着いたが教室に入った瞬間これである。

 俺のであろう机はボロボロで落書きがふんだんにされていた。

 これは引きこもりたくもなる。

 しかし俺は逃げはしない。だって魔術を上手く使いたいもの。

 そして今更ではあるがクラスメイト達の会話と教室に貼られた名簿から初めて今の自分の名前を知った。


 トレイ=ランチ


 これが俺の名前らしい。いや、トレイ=ランチて。ランチトレイじゃないですか。ネタ過ぎる。もしかしたらこの名前がイジメの原因なのかもしれない。

 そんなことはさて置きほぼ理解できなかった授業を終えて放課後となった。

 俺の最終目的は帰る事、そのためには魔術を知る必要がある。

 トレイ=ランチの記憶と知識だけでは到底叶いそうもない。

 だから図書館を利用することにした。

 一先ず記憶操作などそういった魔術について調べようと漁ったのだが殆ど「こう言った魔術がある」程度の軽いものばかりで役に立ちそうなものはない。

 しかもほぼオカルトとされていた。魔術(オカルト)が存在している世界でオカルトとされているなんて希望は薄い。

 脳に関する魔術は無いようだ。最も本当に無いのかは別だが今の俺には調べる手立てはない。

 そう思い次に転移魔術について調べ始めた。

 トレイ=ランチには悪いが最悪この“世界”の何処かにあるであろう地球に異世界転移するでも構わない。

 と思ったのだが残念ながら転移魔術も殆ど資料が無かった。

 あったのは国が所有している大規模転移陣の事と運び屋が所持している転移魔術についてだとかとてもではないが世界を越える魔術はなかった。

 しかし諦める訳には行かない。マグレだとは言え俺と同スペックの男が魂レベルの憑依魔術を使用したのだ。俺だって出来るはずだ。

 あ、憑依の事を調べていなかった。

 そう思い憑依系統の魔術が存在するのか調べようと席から立ち上がると不意に声をかけられた。


「貴様、何をしている」


 振り返るとそこには少女がいた。

 俺のクラスにいたローブを着た生徒ではなく白の服に綺麗な銀色のアーマー、その隙間からチラリと見える肌はきめ細かい真っ白だった。

 そしてそれらの淡いような儚いような印象とは真逆で存在を大いに主張している真っ赤な髪。

 長くて手入れの行き届いたそれは後ろで結われ腰の上辺りで揺れている。

 つまり、美少女がいた。

 そしてこの少女を“俺”は知っている。


「……レイス=ヴァイアー」


 この学校にある騎士科の生徒で同時に学科代表──生徒会のようなもの──でありその美貌からファンクラブまである学校のアイドルだ。

 そして“俺”はこいつが大嫌いのようだ。


「ほう、劣等生でも流石に覚えてるか」


「覚えてるさ。嫌でも情報は入ってくる。忘れられないさ。流石人気ナンバーワンの学科代表様だ」


「そう褒めるな。いや、何、劣等生は基本私の事を煙たがるのでな。そうやって劣等生に褒められるのは初めてで慣れんのだ」


 いや、褒めてねぇよ。何だよこの人。皮肉が通じないのか。しかも悪気なく劣等生と呼ぶ辺り何とも言えない。

 “俺”のために挑発してみたが俺は嫌いになれそうもないな。

 萌え文化の賜物か、見た目が美少女なら全部プラス要素に見える。


「しかし意外だな。私の記憶の中のトレイ=ランチは無口で何も言い返さない劣等生なのだが」


 しまった。軽率すぎたか。


「まるで別人のようだ」


 心の中を覗き込むような鋭い目線。まずい、俺が“俺”でない事に気付かれたか?


「ところでこんな劣等生に何か用ですか」


 強引にだが話を反らせる。これ以上詮索されるのはまずい。……いや、いっそバレて協力を仰ぐか?

 駄目だ。国か何かに捕らわれて研究対象(モルモット)にされそうだ。


「用と言うかだな。閉館の時間だ」


「へ?」


 言われて窓の外を見ると暗くなっていた。調べるのに夢中で気付かなかった。


「すみません、気付きませんでした。すぐ行きます」


 目ぼしい内容を書き留めた紙を持ちそこから立ち去ろうとして何かにぶつかりその紙を落としてしまった。

 

「おい、お前。僕にぶつかっておいて謝罪の一つも無しか。田舎者で劣等生なだけはある」


 ぶつかったのはレイスの後ろにいた取り巻きの一人だった。

 金髪で切れ目の男。確か魔術科のサドレ=アイアン。貴族の出でプライドが高くて“俺”を含めた劣等生をこけにしている嫌な奴。

 そんな記憶に顔をしかめ睨み付けているとサドレは見下すような顔をして俺を睨み返した。


「おいおい、劣等生風情が僕を睨むなよ。まぁ僕は寛大だから許してやらんことも無いぞ劣等生。さぁ僕の靴を舐めて許してくださいと懇願するんだな」


 全然寛大じゃねーよ。心の中で突っ込む。

 この展開、主人公が喧嘩を売りそれを傲慢な相手が買いもしくはその逆で決闘が始まり隙をついて勝利って事だろう。

 だが果たして才能もなく戦闘経験ゼロの俺が仮にも貴族の魔術師に勝てるだろうか。

 無理だ。でも……


「黙ってろよ、七光り。親のコネで入った雑魚が努力で入った劣等生様に指図するなよ」


「……あ?」


 それでも俺は戦う。


 俺の言葉に分かりやすく怒りに表情を歪めるサドレ。釣れたな。


「劣等生風情が僕が挑発に乗ると思ったか? 馬鹿だな。乗るわけないじゃないか」


 ……あれ?


「興が削がれた。良いよ、見逃してやるよ。僕は寛大だからね」


 ……あれれ?

 

 それだけ言うとサドレは去っていった。それにレイスて他の取り巻きも苦笑しながら去っていった。

 

 こうして異世界での俺の初戦は戦わずして負けた。





この世界で紙はそこまで貴重じゃない

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