magica 9
「来た・・・」
「そうだね。来たみたいだね。」
時計台の下では機械的に喋る人物と、優しい微笑みを垂れ流しにしている男性がいた。
キリクとアラドだ。
彼らは、地上から空を飛んでいるセシルたちを待っていた。
二人の間には崎守がいる。
そして、そこへセシルたちは降り立った。
「キリク、アラド。お迎えありがとう。」
「いえいえ。偶然見つけただけですし・・・。」
セシルがアラドにお礼を言った。
どうやら彼らは、鈴守たちがこちらの世界へ転送される前に、異常に気づいて、先に調べていたらしい。
お礼の意味はきっと、崎守を見つけたことだろう。
鈴守と目が合った崎守は、すぐさま鈴守に飛びついた。
「鈴守ーッ!!!」
「あー・・・はいはい。泣きつくな、気持ち悪いから。」
仕方なしに鈴守は崎守を慰めてやる。
表情はなんとも嫌そうにしているが・・・。
「何なのこの世界!ここ日本?!日本じゃないよね?」
「俺さ、ずっと意識不明状態で現実世界では眠り続けてただろ?その間ずっとこっちの世界にいたんだ。つまり、俺のもうひとつの世界。」
「じゃあ・・・ここって・・・鈴守の言ってた・・・。」
「そ!ここは日本じゃない。剣と魔法のファンタジーな世界さ!」
鈴守がそう言うと崎守は呆然とした表情で、その場に崩れ落ちた。
「うそぉ・・・トリップしたの?」
まだ現実を飲み込めていないといった様子だ。
「まぁまぁ、すぐ慣れるさ。」
「・・・お前は気楽だからそんなこと言えるんだよー・・・。」
崎守は小さく笑って見せた。
「さて、レイス。彼はどうしましょう?流石に一人で歩かせるのは危ないでしょうし・・・。」
セシルが崎守の肩を掴んで、鈴守に聞いてきた。
その時の崎守は、セシルに見惚れている様子だった。
「・・・ねぇ、セシル。崎守セシルのこと気に入ったみたいだから、崎守に街案内してくれない?」
「えっ?」
その言葉を聞いて、セシルは崎守に目をやった。
すると崎守は恥ずかしそうに俯いてしまった。
「ぷっ・・・。」
「笑うな!鈴守!!」
「だっ・・・だって・・・クククッ・・・!!あはっ・・・あははははは!!」
鈴守は腹を押さえて、盛大に笑った。
後ろではベルとアラドも笑いそうなのをこらえていたが、クスクス笑っていた。
キリクはずっと黙っている。
「じゃあ、セシル。任せたよ。」
「レイスは何処へ?」
「皆、蘇り始めているんだろ?自己紹介してこなくちゃ・・・それに――」
「?」
「蘇り始めているということは、何かが起こり始めていると言う事でしょう?」
薄く笑みを浮かべて、鈴守はベルと共に何処かへ去っていった。
アラドとキリクもセシルと崎守の前から身を引くように街へ消えていった。
「・・・鈴守は・・・現実世界に居るときより、生き生きしているね・・・」
ふと、崎守がセシルの隣でつぶやいた。
その言葉にセシルは聞き返した。
「レイスは・・・現実世界ではそんなに生き生きしていませんか?」
「うん。いつも学校に居ても、楽しくなさそうに窓の外ばかり見てて・・・友達っていう心許せる人も4・5人しかいないんだ。部活とか入ってなくて、クラスの人とも付き合い悪くて・・・でも、それは鈴守のせいじゃないんだ。皆の差別のせいなんだ。」
「差別?」
「鈴守はね・・・両親が仕事ばかりで滅多に帰ってこない家計の子なんだ。しかも、両親とも有名な会社の社長でね、鈴守はその息子として、金持ちだからいじめて無理矢理金出させればもらえると考えてる子が多いんだ。それで、小学・中学・高校ってずっといじめられてた。だけど、鈴守は決してお金も渡さないし、抵抗もしなかった。だけど、少しづつ警戒するようになってね・・・他の子が話しかけても口も利かないようになってた。」
その話を聞いて、セシルは返す言葉もなかった。
ただただ、崎守の口から出てくる言葉を拾っていた。
「そしていつからかわからないけど、虐待されるようになっててね、学校に来ると痣とか傷とか増えてて、薬品の匂いがすごいしてた。最終的に保健室通いになってたかな・・・。時々来るようにはなったけど・・・。」
「・・・じゃあ、レイスの頬とかにある傷の跡は・・・」
「虐待とか、いじめの跡・・・かな。」
「私は・・・現実世界のレイスのことは、ほとんど知りません。だから、もし、そのようなことが原因で記憶がフラッシュバックするようなことがあれば・・・崎守さん。貴方が、レイスを支えてあげてください。」
「・・・セシルさん。貴方も、鈴守を支えてあげてください。きっと、ここで生き生きしていられるのは、貴方に会えたからだと思います。」
セシルは迷いなく頷いて見せた。
すると、崎守は微笑んで見せた。
「それでは、街を案内しますよ、崎守さん。」
「崎守でいいですよ、そのかわり、俺もセシルって呼んでもいいですか?」
「もちろん。では、行きましょう。崎守。」
「うん、セシル。」
その後このルインがとてつもなく広いことを教えたら、崎守は悲鳴を上げたというのは・・・二人だけの秘密である。