magica 8
目が覚めたら、そこはもうなれたルインだった。
鈴守はまたこの地へ戻ってきたのだ。
それは嬉しい気持ち半分でもあり、複雑な気持ち半分でもあるのだが・・・。
「あれ・・・崎守は?」
見渡してみるが辺りには崎守の姿はない。
見えるのは、見慣れた町並みと、通り過ぎていく街の人々だけ。
立ち上がって、鈴守は崎守を探し出そうと駆け出した。
しかし、何故だか周りの人の視線がおかしい。
どうしたのだろう?
そう鈴守が思って移動しているとお店のガラス越しに自分の姿を見て驚いた。
「俺・・・レイスじゃない・・・俺は・・・黒羽鈴守だ・・・!」
いつもこちらへくれば、魔法剣士レイスになっているはずなのに、今回はただの高校生の黒場鈴守だった。
黒羽鈴守としての容姿なら、まわりの人に変な目でみられても仕方がないはずだ。
なかなか見かけもしない黒髪に、黒い瞳。
異世界の高校の制服。
そんな姿をした鈴守を不思議そうにみない人が居るはずもない。
(どうしよう・・・こんなんじゃ誰も俺がレイスだってわからない・・・)
がっくりと肩を落とし、とりあえず時計台を目指した。
あそこなら結構ルインの何処からでも目立つこともあるし、崎守もそこへ向かうはずだと信じて。
そして、鈴守が再び走り出そうとしたとき、角を一人の人物が曲がってきた。
「あれ・・・は・・・。」
忙しそうに自分のお菓子屋で作ったお菓子を配達しているヴェクセルだ。
お店の制服を学校の制服の上から着ているようで、学校の制服が見えている。
「ヴェクセ・・・」
名前を呼ぼうとしたが、鈴守は言葉を途中で止めた。
今の姿のままでは気づいてくれないはずだと思い出したから。
「駄目駄目・・・きっと気づかないし・・・へんな人と思われる。」
ちょっと心がチクッとするような気持ちがあったが、鈴守は再び足を時計台へむけた。
その時、ヴェクセルが鈴守の存在に気がついて、鈴守の方へ視線を移したことを鈴守は知ることはなかった。
鈴守が幾分か時計台に近づいてきたときだった。
前方に見慣れた人影がこちらを見て微笑んでいた。
「・・・セシル・・・?」
そう、そこにいたのは紛れもなく大道魔術士セシル。
黄緑色の長髪がとても美しく、細いことが印象的な彼は、鈴守を見て微笑んでいた。
「おかえりなさい。レイス。」
「セシル〜〜〜・・・」
やっと自分のことを分かってくれる人と出会えたことで、鈴守の緊張感が緩んでしまったのか、鈴守はセシルに飛びついて一気に喋りだした。
「セシルー!!うぅー・・・やっと見つけた。俺がレイスだってわかってくれる人を・・・。ヴェクセルに会ったけどきっと気づいてくれないだろうし、街の人が皆変な目で見るし・・・」
「気にしないで。黒髪は単に珍しいだけで、皆あなたのことに興味があっただけですよ。」
「ありがとー・・・あっ!そうだ!!俺の世界の友達も、こっちに一人飛ばされたんだけど?!」
「それは・・・困りましたね・・・。」
「俺だけならまだしも・・・どうやってアイツを返してやればいいんだよ・・・。」
「帰り方はありますけど・・・でも、かなり時間かかりますから後になりますね。それより探してあげないと。」
「・・・そう・・・だよね。」
「あのー・・・さっきから二人で話しているけどさぁ。僕のこと忘れてない?セシルさん。」
そう言い、セシルの後ろから姿を現したのは鈴守がレイスとして使わせてもらってた体の持ち主だった。
「あ・・・あなたは・・・。」
「初めまして・・・かな?レイスくんだっけ?僕はベル。よろしく。」
レイスとしての頃とは幾分雰囲気も変わってしまっている。
レイスであったころは、元気な中学生のような雰囲気が出ていたが、ベルに戻ると、優しい感じが表情からしてあふれ出していた。
やはり彼の体は、レイスが使うべきのではなく、ベルが使うべきだろう。
「はじめまして。俺は・・・レイスじゃなくて、黒羽鈴守っていいます。黒羽が苗字で鈴守が名前」
鈴守も自己紹介をして、頭を下げる。
二人が並び、顔立ちや背丈から見ると、まるで双子のようだ。
ただ違うのは、髪と瞳の色と、魔法が使えるか使えないかだけ。
「・・・あ、そういやセシル。俺って魔法使えないのかな?」
「いえ、使えますよ。貴方はきちんと基礎知識を覚えて、魔法に関しての理解を得ているから、いつも通りに使えるはずです。使えないのは、ベルの方でしょうかね・・・。今までレイスがベルの体で魔法を発動していましたが、ベルは基礎知識を覚えていないし魔法の理解を得ていないから、発動するのは不可能でしょう・・・。」
「よかったー・・・じゃあ戦力にもなるね。もしものために。」
鈴守はほっとして、胸をなでおろした。
セシルはそんなセシルを見てクスクス笑う。
「それじゃあ行きましょうか。時計台へ向かえばお友達もいるでしょう?」
「それなら、僕にまかせてください!」
「「?」」
ベルが突然挙手して任せるように言ったので、二人は不思議そうに首をかしげた。
何をまかせるのか分からなかったから。
「時計台まで飛んでいきましょう!」
ベルの口から出てきたその言葉を聞いて、二人は思考回路が停止した。
確かベルは魔法使いではないはず・・・だったと思うのだが・・・。
「あ、突然何を言うのかと思ったんでしょう?あははは!僕ね、はぐれ魔法使いなんですよ。」
その言葉を聞いて、二人は驚いた。
はぐれ魔法使いだとは知らなかったが、魔力の気配がしなかったから、ただの一般人だと思っていたから。
鈴守は、『はぐれ』の意味が分からなかった。しかし、セシルも首をかしげている。
まさか、セシルも知らないのだろうか?
(ねぇねぇ・・・セシルも、もしかして知らないの?)
(私の時代では『はぐれ魔法使い』なんて職業は聞いたことありませんので・・・)
とても困ったようにセシルは笑って見せた。
「あの、ベルさん。はぐれ魔法使いって何ですか?」
仕方がないので聞いてみると、ベルは目を見開いて驚いたようだった。
しかし、優しく教えてくれた。
「はぐれ魔法使いってのはね、普通の人間と、魔法使いの血を引いた人間との間で生まれた人間のことなんだよ。少し昔までは魔法使いは魔法使い同士で結婚しなくちゃいけないみたいだったけど、今はもう法律も改正されたから別にどうでもよくなっててね。それで、両親は普通の人間と魔法使いの人間同士で結構したんだって。でも、魔法使いの血は半分しか引いてないから、魔法の薬を作ることと、空を飛ぶことしか出来ないんだ。」
(わかった?セシル。)
(・・・わかりましたけど・・・そんな法律があったんですねー・・・やっぱり引きこもってばかりじゃいけませんね。)
「よし、じゃあ説明はこれくらいにして、二人共、行きましょう!セシルさんは飛べますよね?」
「えぇ。飛べます。」
そう言い、セシルは蒼く透き通る翼を広げて見せた。
それを確認すると、ベルは鈴守の手を取った。
「しっかり握っていてくださいね?」
言い終わると同時に鈴守の体はベルと共に宙に浮きだした。
そして、建物より少し高めの位置まで上がると、セシルとベルは時計台へ向けて飛んでいった。