magica 6
―Side・王都ルイン13番街スラム区―
その地区からは何も生まれず、何も生息しない。
あるのはただ、一体だけのサイボーグ。
瓦礫の山の中に眠るように捨てられた、人型兵器。
システムエラーによりシャットダウン状態で長い年月の間、その場所で再起動されるのを待ち続けた。
「君は何故そこで眠り続けているの?」
短い赤髪をなびかせ、黒いスーツを身にまとった青年が、サイボーグの彼に近づいていく。
サイボーグは答えることはないのだが・・・。
「あぁ・・・君はシャットダウンされているんだね?」
そう言うと、青年は手を彼にかざした。
そして、風を切るように手を振った。
すると・・・
キュイイィィィィ・・・・
シャットダウンされていた彼が起動し始めた。
そして、完全に再起動し、閉ざされていた瞼が開いた。
開かれたその蒼い瞳には、エメラルドグリーンの瞳が映る。
「初めまして。僕はアラド。君は?」
優しい瞳で、他の全てを癒すようなアラドは彼に問いかけた。
「私はキリク。私を起動させたのはアラドさん、貴方ですか?」
「やだなぁ。アラドでいいよ。起動したのは僕。どう?動ける?」
キリクは飛び上がり、動けるか確かめ始めた。
「問題ありません。」
「そかそか、よかったね。」
「ありがとうございました。」
「で、君はこれからどうするの?」
「・・・眠っている間に一世紀ほど過ぎてしまいましたね。私に指令を出す者もいなければ、帰る場所も無い・・・。」
キリクは感情を表情に表さず、あっさりと言い切った。
それをみてアラドはクスクス笑った。
「何故・・・笑うんですか?」
「いや、素直な感想を言うんで可愛くて・・・。」
そうアラドが言うと、キリクは不思議そうに首をかしげ、疑問符を浮かべる。
そんなキリクにアラドは手を差し伸べる。
「?」
突然差し出された手にキリクは更に疑問符が浮かぶ。
「さ、行こう。僕と共に。」
「え・・・」
「嫌?」
「・・・いえ、うれしいです。」
キリクはアラドの手を握った。
「・・・二人。また新たに蘇った。」
ウィルは、過去のヴェクセルと隣に座っているとき、そうつぶやいた。
過去のヴェクセルは、ホーリィがなんとか見つけて連れてきたとか。
「これは・・・一人はアラド。もう一人は・・・人じゃない。」
「・・・もしかしてそれって・・・キリクじゃないかなぁ・・・」
「キリク?」
「うん。私が・・・まだ戦争に出ていたときに知り合った方なんですが、彼はサイボーグだったんです。でも、とても優しい方でしてね。」
過去のヴェクセルは楽しそうにキリクの話をし始めた。
「じゃあその人かもね・・・」
ウィルは宙にコンパネを開いていく。
そこへセシルが来て、ウィルに尋ねた。
「ウィル、レイスの意識は一体何処へ?」
その質問にウィルは困ったように答えた。
「うーん・・・この世界にはないねぇ・・・。異世界に飛んでしまっているみたい。」
「となると・・・やはり現実世界に意識が戻ってしまっているようですね・・・。」
店の二階では、レイスはベットに横たわって眠り続けている。
意識は完全に向こうの世界に飛んでしまっていて、戻ってくるはずはないのだが・・・。
「セシルーッ!!レイスの指が動いてる!!」
「なんか、言葉に反応してるみたいな感じなんだけど・・・」
エイトとカレンが走って階段から降りてくる。
「指が?(意識が戻りかけているのか?)」
セシルは二人に手を引かれてレイスの眠る部屋へ向かった。
すると、そこには・・・
「なっ・・・」
「「レイスー!!」」
体を起こしたレイスがいた。
エイトとカレンは、はしゃいでレイスに近づこうとしたのだが、セシルがそれをとめた。
「二人とも、お下がりなさい。彼はレイスじゃない。」
「「え?」」
セシルがそう言うと、レイスは笑い出した。
「はは・・・あははははは!!!そう、僕はレイスじゃない。この体の元々の持ち主『ベル』だよ。」
「貴方は・・・一体・・・」
「そりゃこっちが聞きたいよ、ある日突然目の前が真っ暗になって、気がついたらいつの間にか知らない人が僕の体使っててさぁ・・・なんかわからないけど、今日、突然この体に戻ってこれたし。」
「・・・なるほど、異世界から来たレイスにこの世界で生きるための体がないから、レイスと同じくらいの能力を持った貴方をレイスが無意識に捕まえて貴方の体を借りたんですね・・・。それからレイスには記憶がなかったから、そのことを知るはずも無いわけだ・・・。」
「うーん・・・ねぇねぇ。僕、家に帰ってもいい?」
「あぁ、すみませんでした。どうぞ、こちらです。」
セシルはベルを玄関へと誘導し、見送った。
それをウィルも見送ったあと、セシルに言った。
「どうする?もしかしたらレイス、こっちに戻れなくなるかもね。まぁ、元々こちらの住人ではないのだろうけど」
「黒羽鈴守――彼はこの世界にも存在するんですよ。知りませんか?」
「え・・・あちらの世界の住人では・・・」
「時の道標の神【 】」
「なっ?!」
セシルは薄く笑った。