magica 20
「鈴守の体さえ取り込めば・・・僕は・・・僕は保ち続けたのに・・・」
「保つ?」
「いいさ、本当のことを言おう。僕は世界の破滅よりもっと望んでいたことがある。自分の身体を保ち続けることさ。」
朱雀は少しづつ座り込んでいく。
「痛いんだ・・・身体が・・・蝕まれて・・・崩壊してきているんだ。じわじわと侵食される嫌な感触。目に見えない侵食は少しづつ僕を壊していく。だからお前を取り込めば僕はまだ保てるはず・・・そう考えた。だけど、もう手遅れのようだ・・・。」
そう言い終わると同時に朱雀はあっという間に身体を変形させてしまった。
背中からは蔓のような肉の塊が延びてきて、魔物のような手を剥きだしにして、目は完全に人の目ではなかった。
「朱雀・・・」
「苦しいんだ・・・痛いんだ・・・鈴守・・・お前を取り込ませろ。」
蔓のような肉が鈴守を捕まえて朱雀の前へ鈴守を連れてくる。
「なぁ、お前の力を僕に・・・」
「嫌だ。」
その言葉を聞いて朱雀は怒り狂ったように叫びだす。
同時に、鈴守を捕らえる力は強まった。
「何故だ!何故僕とお前は同じなのに・・・!!僕の痛みが分からない!」
「うっ・・・くっ・・・!!」
ギリギリ・・・ミシミシと音が聞こえる。
「レイス!!」
セシルたちが鈴守を捕らえている蔓のような肉を朱雀から切り離した。
身動きが出来ない鈴守は仲間にキャッチされて、すぐに残りの肉の塊を払ってもらった。
「ありがと・・・皆、ごめん。これは俺が決着をつけるから、皆は見ていてくれない?」
「でも、レイス・・・」
「アイツを止められるのは俺だけだから・・・。ヴェクセルさん、重剣を貸してもらえますか?」
鈴守がそういうとヴェクセルは心置きなく重剣を差し出した。
「ありがとう。」
鈴守は微笑んで振り返った。
重剣を握り、鈴守は朱雀の方へ向かっていった。
「朱雀、お前はこの世界に一人でいることが怖かったんだ。そして、一人でその侵食に苦しんでいたんだ。可哀想だな。」
鈴守は一歩一歩ゆっくりと近づいていく。
「お前の恐怖がどれほどのものなのか俺は知らない。」
目の前まで行くと、ゆっくりとまた肉の塊が足から腕へとまとわりついてきた。
しかし、鈴守は動じない。
「だからお前のことなんてわからない。何一つ。」
「分かってるならお前を僕にくれ・・・」
「嫌だ。それは断る。」
「何故・・・ッ!!」
ミシミシと音を立てている。
けれども鈴守はまだ表情を変えずに朱雀を見続けている。
「君と俺は確かに同じかもしれない。でも存在自体は違うんだ。俺には俺の意思が、君には君の意思が。人間関係、人生が。」
鈴守は剣を握り締めた。
「さぁ、朱雀。もう寝る時間だよ。」
まとわりつく肉を振り払い、朱雀へ向かって剣を振り上げた。
「眠りにつくんだ!朱雀!」
剣は朱雀の身体を裂いた。
同時に朱雀はゆっくりと倒れこんだ。
「・・・朱雀・・・」
「死を迎えるのか・・・」
「そうだね。」
「この身体を侵食する痛みもなくなるのか・・・。」
朱雀は微笑んだ。
「何で・・・笑うんだ?」
「鈴守、ありがとう。僕はやっと楽になれるんだ。」
あぁ・・・そういうことか。
鈴守は朱雀の隣に座って、朱雀の頬をなでた。
「さぁ、もうゆっくり休みなよ。もう怖がることは何も無いよ?」
「・・・ありがとう。君に出会えて・・・よかった・・・。」
言い終わると、朱雀は光の粒となって消えうせた。