magica 15
「ここが・・・クレイバー・リーヴ大聖堂・・・」
ヴィズダムによって開かれたゲートの先で待ち構えていたのは、白く、大きな大聖堂だった。
そこには、淡い光を放つ昌霊達の生きる証が残っていた。
それほど、神聖な場所なのだろう。
中に入ると古びたパイプオルガンが皆を出迎えた。
「・・・なんだろう・・・とても・・・悲しい。」
突然、鈴守の口からそんな言葉が漏れた。
鈴守自体意識していなかったので、本人も驚いている。
「あれ・・・なんで俺そんなこと思ったんだろう?」
「レイス、自分で言ったんじゃないの?」
「うん・・・何かしらないけど、自然と口から零れてきたって言うか・・・」
「きっと、小さい頃来たことがあったんじゃない?」
ホーリィはそう言い、レイスの頭をかき回した。
きっとそれがホーリィなりのレイスの不安のようなものを紛らわせるものだったのだろう。
「ありがと・・・ホーリィ。」
「ん?何のこと?」
何も分からないといったような表情で、ホーリィはさっさと大聖堂の中へ進んでいく。
鈴守は軽く微笑んでホーリィの後を着いて行った。
(お兄さんの温かさって・・・こんな感じなのかな・・・)
「あれ・・・?これは・・・?」
ホーリィがふと、足元の何かに気がついた。
それに鈴守とヴェクセル、ついでに着いて来たヴィズダムも覗き込む。
「これはブローチですね。家族の写真とか入れる。」
そう言い、ホーリィはブローチのフタを開けてみた。
「・・・これって・・・レイス?」
「え?俺?」
不思議に思った鈴守もホーリィの手の中にあるブローチの写真を覗き込んだ。
そして、本人も驚いた。
そこに写っていたのは、自分の父親と、小さい頃の自分だった。
紛れもなく、それは現実世界で取った形跡の残る写真。
「おや・・・じ・・・。」
「じゃあ、こちらに写ってる子供は小さい頃のレイス?」
鈴守は質問に答えず、ホーリィの手の内からブローチをひったくりあげると、遠くへ投げ捨ててしまった。
「ちょ・・・?!レイス?!」
「あぁ?気にするな、アレは俺じゃない。俺の親父じゃない。宇宙人と囚われた人間・特Aだ。」
「えぇーッ?!何それ!!親って一回認識したよね?!つか、宇宙人も意味不明だけど人間・特Aって何?!」
「『特にアホ』の略で『特A』」
それだけ言うと、鈴守はさっさとパイプオルガンの方へ足を向けた。
(・・・レイス、キレてる?)
三人は顔を見合わせて、ビクビクしていた。
そんな事を気にもせず、パイプオルガンに鈴守は手を置いた。
「・・・綺麗・・・だけど・・・憎しみが詰まってる。」
そう言い、鈴守は弾き出した。
その音色は、とても悲しい旋律で、皆の心に響かせた。
「レイス、弾けるの?」
「学校とか行ってないとき暇だからやってたんだ。」
「そっか。」
何で学校へ行かなかったのか聞かなかったホーリィは大人だ。
「でもね、悲しい旋律は止めようよ。そんな音色、こんな神聖な場所には似合わないよ。」
魔法でホーリィもフルートを出して吹き出した。
それは、柔らかな音色。
なんとも心和ませるものだった。
それもそのはず、ホーリィは譜歌魔術師。
奏でる音色が魔法になる魔法使い。
今吹かれている音色は魔法でないのは鈴守にも分かるので実力だとは思う。
いくらなんでも優しい彼が強制的に魔法で鈴守を抑えるはずがないから。
だから、鈴守の手は止まった。
そして、代わりに優しい音色を奏でだした。
「綺麗な音色・・・。」
「そうですね。」
ヴェクセルとヴィズダムは二人の演奏を聞いて魅了されていた。
しかし、そんなとき、別の場所で物音がした。
「誰?」
当然二人の手は止まり、物音がしたほうへ警戒の目を向けた。
「・・・おや、止めてしまわれたのですカ?いい音色でしたのですがネェ・・・。」
聖堂を支える柱の陰から出てきたのは一人の司祭らしき人物だった。
目は瞑っている。おそらく見えていないのだろう。
「もしかして・・・エドワード司祭?」
「おや、私の名前をしっているのですカ?初めまして。私はエドワード・ガルディです。貴方は?」
「黒羽鈴守。」
「変わったお名前ですネェ・・・。」
「当たり前だ、俺はこの世界の者じゃないからな。」
そう言うと、エドワードは薄く笑って見せた。
「黒羽・・・クン。そして、他3人の方々、Bienvenu à Graber cathédrale RIVU!」
「フランス語・・・?この世界にはフランス語なんかあったかな?」
鈴守も負けじと笑ってみせる。
しかし、エドワードより黒い笑みだ。
「・・・Est-ce que vous êtes venus de "cela?"(貴方はあちらの世界から来たようですね?)」
「Probablement, vous êtes le même comme moi?(貴方も私と同じでしょう?)」
二人はフランス語でぺらぺら喋っていく。
もちろん語源が分からない3人はただ呆然としてみている。
「何を話しているんでしょう?」
「さぁ・・・ただ、いえることは・・結構険悪なムードになりかけてるのかも・・・」
皆のお兄ちゃん、ホーリィは苦笑するしかなかった。