magica 14
エリア零の向こう側は変わることない鉄で出来た白い壁の世界だった。
そこには、人の存在していたであろう形跡はなく、何の音もしない。
「動力源はこちらです。」
しばらく歩いてから、ヴェクセルがタッチパネルを操作して、また新たな扉が開いた。
その先では、大きな宝石のような石が置かれていて、機械の音が響き渡っていた。
「ヴィズダムー。ヴィズー、いるの〜?」
ヴェクセルが大きな石の方へ近寄って行くと、その石の裏から一人の男性が出てきた。
彼はとても顔の形が整い、かなりの美形であった。
長いダークブルーの髪は、ストレートであり、さらに緑の冷静な瞳は、女子の心を鷲づかみにしそうだ。
「ヴェクセルか・・・何用だ?」
「うーん・・・彼女から聞いてないの?奥のゲート開けて欲しいんだ。」
「リリーがか?・・・分かった、すぐに向かおう。」
あっさりと承知してくれたヴィズダムは、ヴェクセルたちより先を歩き出した。
「さて、セシルさん。読書中悪いのですが・・・どうやらここも侵食されてしまったようです。」
シオンの言葉で本に熱中していたセシルは、はっとして振り返る。
するとそこには、影の兵士達が本棚の影などから湧いて出てきていた。
「困りました、これでは拉致があきません。そもそもこの世界の属性が闇であり、この兵士達も闇属性。ここでは不利な状況です。」
セシルがロッドを構えて、そう呟いていると、ヘルが一歩前に出た。
「ちょっ・・・ヘルさん下がって!」
「口で言って分からない私の下僕共、身をもって思い知らせてやる。かかって来い!」
ヘルは大鎌を手の内に出現させて掴むと、影の兵士達を高速で切り刻んでいった。
「あ、そうか・・・」
「どうしたんですか?シオン?」
「ヘルは最高神の中でも唯一の死神だから属性も闇。そのほかは全部天使で属性は光。天使の子供は光。だけど、死神の子供は闇。だから影も闇。つまり、ヘルの子供って事になるから、この兵士達を制御できるのかも!」
シオンの言った通り、影の兵士達は正常状態へ戻っていた。
ヘルが帰るように指示すると、あっさりと影の中へ戻っていった。
「・・・どうやらこれは・・・闇の力を持つ者の力でしょうね・・・私が親だと言うのに、兵士が他の者に操られるとは・・・新たな死神が誕生したか・・・もしくは・・・邪気に魅入られた人間の仕業か・・・そうか・・・イリーガルだ。」
「イリーガル・・・ですか。」
ヘルとシオンが何か納得しながらぶつぶつ言い始めた。
「あの・・・イリーガルってなんですか・・・?」
「あぁ・・・セシルさんは知らないと思うんですが・・・今から60年くらい前にセシルさんのように新しい人間を生み出す新人類計画があったんです。けど、すぐにばれて捕まっちゃったらしいんですけど・・・。でも、その時一人だけ作られた人がいたんです。その人が通称『イリーガル』と呼ばれていたんです。」
「そんな・・・まさか・・・」
セシルは目を見開いて驚いた。
「そう・・・そうさ。僕は・・・イリーガル。存在してはいけない存在。」
男性用の着物を着た少年が、数珠をあやとりのようにして遊びながら笑っていた。
部屋の中は暗く、草の香りがする。
おそらく、日本人系に育てられたのであろう。
「面白くなってきた・・・黒羽鈴守・・・君の実力見せてもらうよ・・・君が、本当に直樹に似ているか・・・試してやるよ。あの、最強と言われた大魔道師・・・黒羽直樹のように・・・痛めつけてやる。」