magica 12
「セシルさんもまだ存在していない、大昔の話なんですが・・・」
シオンは詳しい話を聞かせてくれた。
セシルの前世であるウィルも生まれていないずっと昔の話。
この地には魔力も法術も持たない人間が存在していた。
彼らは、今のセシルたちのように戦力はなく、魔物からどうやって身を守るか悩まされていた。
そんなとき彼らはある神に出会ったという伝説が文献などには記載されており、その神から技術を授かったと伝えられている。
その力により彼らは、自分の身を守る「センター」と言う巨大施設を作り出した。
そのセンターは後に増えに増えすぎた魔物を封印するために封印の印の中心部とされて、天に葬られたという伝承がある。
センターについての資料は乏しく、流石にシオンもこれ以上は知らないらしい。
「センター・・・それは、巨大な力を持っておられるのでしょうね。」
「いや・・・センター自体は巨大な力は持っていなかったと聞きます。何せ、『ただの鉄の塊』と文献には書かれていますし・・・」
「図書館で資料を探して見ますか・・・。」
「それは無理だよ。図書館にはセンターについての資料はないもの。」
「え?何故ですか?」
「何でも・・・ずいぶん昔の戦争中に火事で資料は燃えてしまったそうですよ。」
「・・・じゃあ・・・聞くけど・・・。シオンはどこで資料を見たの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
シオンはその質問に顔を引きつらせながら苦笑して見せただけだった。
「えぇぇっ?!何ですか、その反応!」
「いや・・・別に見たいなら見せてあげてもいいんですけど・・・恐ろしい場所ですよ?覚悟があるのなら着いて来てください。」
そう言い、シオンは手を振って見せた。
すると、シオンの背後に黒い時空通路が現れた。
「崎守、貴方はレイスくんの元へ帰っていてください。貴方にはここから先は危険です。」
「えっ・・・でも帰り道分からないんだけど・・・鈴守が何処に居るのかも。」
そう言うと、セシルは崎守の額に人差し指を押し当てて、崎守の頭に情報を流し込んだ。
ここから歩いて、セシルの店まで帰る道の順路を脳裏に焼き付けさせながら。
「うっ・・・」
「さ、早く。」
セシルが指をさっと、店の方角へ向けると、崎守の体は勝手に動き出した。
「セシル!」
「大丈夫。すぐ戻りますから。」
不安そうにしている崎守にセシルは微笑んで見せた。
そして、崎守の姿が見えなくなったところで、シオンと時空の通路へ踏み込んだ。
「うわっ・・・」
別の時空へ飛んだセシルは別の時空の風景に驚いた。
そこは光も差さない夜で、欠けた月が怪しく光り輝いている。
しかしその色は赤い。
降り立った場所は墓場のようで、十字架が広大な敷地に気味が悪いほど突き刺さっている。
十字架の道をゆっくり歩いていく途中では、ムクロが座っていたり、何かがばらばらになっていたりと、かなりグロテスクな場所だった。
「あ、いましたいました。こんにちわ、カイト君!」
シオンが話しかけた相手は数メートル先にいる人物だった。
彼はこの地にはふさわしくない白い翼を持っていて、綺麗な男性だった。
「やぁ、シオンさん。いらっしゃい。主人の方が、シオンさんに会いたい会いたいって言っておられましたよ。」
「あはは・・・。でも僕がいると、あの人は仕事をしないでしょう?」
「そうれもそうですね。」
クスクスとカイトと呼ばれた人物は笑った。
「あれ・・・そちらの方は?被告人とかではないようですが・・・」
「この人はセシル。裁判にきたんじゃないんだ、ちょっと『彼』の書斎を借りに来たんですよ。彼はいますか?」
「あっ・・・セシル様、申し訳ございません、勘違いしてしまって。私はカイトです。主人ならまた、書斎にこもって本でも読み漁っていると思いますよ。」
そういわれて、二人はカイトに誘導されて、主人と呼ばれる人物のいる館へ案内された。
館は黒い色に染まっていた。
おそらく、この世界が夜に包まれているから、闇の色なのだろう。
大きな扉を開いて、長い通路を通過していくと、似たような扉が永遠に続いている。
途中、神話にでてくるような人物や魔物の置物などが置いてあり、今にも動き出しそうだった。
しばらくして、やっとひとつだけデザインの違う扉の前にきた。
「この中に主人はいます。」
そういい、開かれた扉の中へシオンとセシルは入っていった。
中は薄暗く、本棚が数え切れないほど立ち並んでいた。
奥まで続いているようである室内を、さらに進もうとしたとき
『プニャ』
と謎の声がした。
「あれ・・・ポニュポニュ?」
とシオンが言い、手元に黄緑色のマリモのような浮遊している物体をみつけた。
どうやらそれは、主人のペットらしい。
「ポニュポニュ、君のご主人様は何処にいるの?」
『プププ・・・ぷにょぽ』
ポニュポニュは部屋の奥の机の前まで二人を導くと、何処かへフッと消えてしまった。
「・・・裁判官。起きてます?」
シオンが誰も座っていない椅子に向かって話しかけると、椅子は勝手に動いて、二人の方へ向いた。
すると、椅子の上でうっすらと人影が見え出して、椅子にその人物が腰掛けたときには存在がはっきりとした。
「ようこそ、迷える子羊よ。」
彼は黒い翼をばっと広げ、美しいダークブルーの瞳でセシルを捕らえた。
彼はカイトと似て、またも印象的な人物だった。
黒い服で身を包み、セシルと同じ黄緑の肩くらいまである髪の毛をたらしていた。
胸の中心で輝く赤い宝石のネックレスは、とても綺麗だ。
「私は、この世界にただ一人の死神裁判官『ヘル』です。どうぞ、よろしく。」
「私はセシルといいます。大道魔術師です。」
軽い紹介をして握手を交わすと、早速ヘルの方から切り出した。
「で、今日はどういったご用件でしょう?」
「あの、こちらにセンターについての資料があると聞いてきたのですが・・・」
「センター・・・あぁ、ありますよ。こちらです。」
そういい、ヘルは机の隣にあった石像の向きを変えて、背後の壁にある隠し扉を開いた。
「僕はここで待たせてもらいますね。」
シオンはそう言い、室内の本棚から本を手にした。
おそらくシオンはここで知識を得ているのだろう・・・。
了承した二人は、隠し扉から地下図書館へ降りていった。
結構長いようで、その間セシルはヘルに質問をしてみた。
「・・・あの、ヘルさんは死神なんですよね?」
「えぇ。それがどうか?」
「死神って事は・・・人の命を奪うという印象があるのですが、ヘルさんからはそのような気配は感じられなくて・・・」
そう言うと、ヘルはクスクス笑った。
「私は確かに人の命を奪うのが職業の死神ですよ。でも、私は完全な死神ではないんですよ。」
「と、いいますと?」
「私は元々人間だったんです。」
「人間?!」
「死んでから、私もこの世界の法則のように一度、天界市役所で今後のこと決めてたりしてたんですよ、そしたら、死神の職業が誰もいなかったらしくて・・・私が新しい死神になったんです。」
そうこう話している内に、地下図書館へたどり着いた。
「どうぞ。」
扉の先には、古い本が保管されていた。