「貴方の言う事は間違っておりますわ」と初めて言った日、モラハラ公爵夫を離婚で破滅させました。第二王子に愛されて幸せです。
セレナ・ジル伯爵令嬢はライル・アドー公爵に鞄一つで嫁いで来た。
金髪碧眼の美男ライルは有名な遊び人で、色々な女性の元をふらふらしていた。
さすがにライルの父である前公爵は、爵位を譲ってのんびりとしていたのに、いつまでも結婚しない息子にキレた。
だから、派閥のジル伯爵の娘のセレナをライルの妻にと強引に押し付けたのだ。
ジル伯爵も派閥の主であるアドー公爵家の命には逆らえない。
セレナは茶髪に緑の瞳の清楚な令嬢だ。
セレナ自身も20歳を過ぎていて、貴族社会の中では行き遅れだった。
だから、父ジル伯爵の頼みを断り切れなかったのだ。
派閥の主のアドー公爵家の命令だからと。
セレナには忘れられない人がいた。だから、結婚したくなかった。
隣国へ行ってしまったあの人。あの人の事がずっと忘れられない。
王立学園時代、共に勉学に励んだ。
あの人の優しい笑顔が大好きだった。
それなのに、結婚しなくてはならなくなった。
ライルは30歳。ライルはめんどくさいので、結婚式を挙げないとジル伯爵に使用人を通じて言ってきた。
煩く言うライルの父、前アドー公爵は最近、悪い風邪を引いたのが元で寝込むことが多くなり、領地の小さな屋敷で療養している。
誰もライルに注意する人はいなかった。公爵家の婚姻だから、色々な貴族を呼んで披露した方がいいと。
鞄一つでセレナはアドー公爵家に嫁いで来た。
嫁いできて一番最初に客間でライルがセレナに言った言葉は。
「私に逆らう事は許さない。私が全てだ。お前は口を開かなくていい。お飾りの妻だ。口を開く時は 貴方の言う事は正しいので同意しますわ その言葉しか認めない。良いな」
「解りました」
「貴方の言う事は正しいので同意しますわ だ」
「貴方の言う事は正しいので同意しますわ」
「それでよろしい。お前の部屋は北の小部屋を用意した。そこで今宵は休むがいい」
「貴方の言う事は正しいので同意しますわ」
セレナは思った。
厄介な相手に嫁いできてしまったと。
小部屋は狭くて、日も当たらない。粗末なベッドに腰かけて。
父の頼みだから仕方なくアドー公爵家に嫁いで来た。
ジル伯爵家は貧しい。事業があまり上手くいっていない。
だから鞄一つで、セレナは粗末な馬車に乗ってアドー公爵家に嫁いで来たのだ。
アドー公爵家からは迎えの馬車も来なかった。
自分の部屋のベッドに腰かけていたら、ドアが開いて、派手な赤い髪の女がいきなり怒鳴り込んで来た。
「私と結婚してくれるって言ったのに、貴方なによ」
「貴方はどなたですか?」
「ライル様と付き合っているのよ。ライル様は私と結婚してくれるって」
ライルが現れて、
「仕方が無いだろう。マリーナ。やはり結婚相手は貴族でないと。お前には南の広い部屋を与えてやるから、そこで私の愛人として過ごせ。贅沢もさせてやるぞ」
「まぁ。贅沢をっ。仕方ないわね」
セレナは呆れてしまった。
ライルはセレナに向かって、
「私はマリーナを愛人として迎え、この屋敷に住ませることにする」
「で、でもっ」
「貴方の言う事は正しいので同意しますわ だろう」
「貴方の言う事は正しいので同意しますわ」
「よろしい」
ライルはやりたい放題だった。
彼は仕事は執事に任せて、遊び放題。
マリーナという愛人を夜会に連れて行って、他にも色々な令嬢を侍らせて。
セレナを一度も夜会に連れて行かなかった。
文句を言おうものなら、「貴方の言う事は正しいので同意しますわ」という事しか許さないと言う。
夕食の席で、ライルとマリーナと共に食事をとった。
ライルはマリーナを見た後に、セレナを見て、
「お前と比べてなんとマリーナは美しい事か。お前は美しくなくて、平凡な顔立ちで。だからマリーナを愛人に迎えるのだ。お前とは白い結婚、いや、せっかくだから抱いてやろう。私が抱いてやると言っているんだ。感謝するんだな」
「貴方の言う事は正しいので同意しますわ」
「それにしても、マリーナはこんなに胸があるのに、お前と来たら。お前と結婚した私は可哀そうだ」
マリーナがせせら笑う。
セレナはイラついた。
ずっとこんな生活は耐えられない。そう思った。
だから、
「貴方の言う事は正しいので同意しますわ。わたくしは胸も無く、貴方にふさわしくありません。出ていきますわ」
「誰も出て行けとはいっていない。仕方なくお前とベッドを共にすると言っているんだ。出ていく事は許さない」
「貴方の言う事は正しいので同意しますわ。でもあまりにも申し訳なくて。貴方の為を思って言っているのです。わたくしよりもマリーナの方が貴方の妻にふさわしいですわ。ですから、わたくし出ていきます」
「だから、出ていくことは許さない」
「貴方の言う事は正しいので同意しますわ。とてもお優しいのですね。わたくしは貴方のお心に甘えるなんて出来ません。ですから出ていきます」
そう言って、雨の中、屋敷を鞄一つで出ていった。
傘をさしているが、雨がとても冷たくて。身体が震える。通りに出て馬車を頼まないと。
思わず屋敷を出てしまったけれども、派閥の主であるアドー公爵家。ライルが離婚に同意するとは思えなかった。
別れたい。もう嫌。あの人は、わたくしの事を単なるお飾りとしか思っていないんだわ。
涙が零れる。
そこに馬車が通りかかった。
「セレナ?セレナじゃないか」
バウス第二王子が、馬車の中から声をかけてきた。
「バウス第二王子殿下」
「ともかく乗りたまえ」
黒髪碧眼の整った顔立ちのバウス第二王子とは同い年、王立学園で同じクラスで顔見知りだった。
あまりにも悲しかったので、バウス第二王子に訴えた。
「という訳で、わたくしの事はないがしろにされて、愛人であるマリーナや他の女性達と遊んでいるのです。わたくしは貴方の言う事は正しいので同意しますわ。としか言う事が許されなくて。でも、出て来てしまいました。アドー公爵家は派閥の主。わたくしは離婚することは出来ないでしょう。どうしたら」
バウス第二王子は、手を握ってくれて、
「力になろう。裁判所に訴えるがいい。王家が主催する特別裁判を開いてやろう」
「よろしいのですか?わたくしの実家が制裁されるという事は?アドー公爵家を怒らせたら」
「だったら、派閥を私の母の実家のミラー公爵家に変えればいい。アドー公爵家が君のジル伯爵家に何か利になる事をしてきたか?そういう繋がりがなければ、我がミラー公爵家に鞍替えしたらどうだ?君だけの一存では決められないだろうが。ミラー公爵家の傘下に入れば守ってやることが出来る」
「父に相談してみます」
ジル伯爵である父に相談した。
父は、「アドー公爵家もライルになって、皆、離れたがっている。前アドー公爵は素晴らしい人だったんだが。ミラー公爵派についてもいい。お前がそれ程、苦しい結婚をしているとは知らなかった。帰っておいで、セレナ」
そう言って父は抱き締めてくれた。
男手一つで育ててくれた父。母は幼い頃に亡くなっていて。
兄夫婦は領地に行って、一生懸命働いている。父は王都に用があって、王都の屋敷に滞在しているのだ。
セレナは離婚に向けて戦う事にした。
裁判は王家の庭で特別に行われた。
裁判長が中央に立ち、国王陛下や王妃、王太子やバウス第二王子他、皆が見物している中、行われた。
セレナ側の代理人が読み上げる。
「アドー公爵はセレナと婚姻関係にあるにも関わらず、愛人マリーナを優先した。部屋も小部屋にセレナを押し込め、マリーナを南の部屋に住まわせると言う、公爵夫人セレナに対する仕打ちはあまりにも酷い。セレナとはまだ床を共にしておらず、セレナとは未だに白い結婚中だ。セレナは離婚を望んでいる。夜会に同伴することもせず、公爵夫人としての仕事もさせず、これはあまりにも酷い仕打ちなので、離婚をこちらとしては申し出ることに致します」
ライルは立ち上がり、
「私は公爵だ。私が決定した事は全て正しい。セレナは私の妻だ。だが、私が愛するのはマリーナだ。マリーナを優先して何が悪い」
セレナは立ち上がり、ライルに向かって、
「貴方の言う事は正しいので同意しますわとしか、わたくしは許されませんでした。でもここで言わせて頂きます。貴方の言う事は間違っておりますわ。ですからわたくしは貴方の言う事には同意致しません。ここに離婚を申請することに致します」
ライルは怒って、
「お前の家を潰してやる。私はアドー公爵だ。偉いんだ」
セレナの父であるジル伯爵が、
「恐れながら、我がジル伯爵家はミラー公爵傘下に入りました」
「裏切者っーーーー」
アドー公爵は周りを見渡して、
「誰か私を助けろ。アドー公爵である私の命令だ」
周りの貴族達は誰も声をあげなかった。
いつの間にか見捨てられていたのだ。
ライルは髪を掻きむしって、
「認めんぞ。セレナ。お前は私の妻だ。お前は貴方の言う事は正しいので同意しますわと言って、私に従っていればいいんだ」
「ですから、貴方の言う事は間違っておりますので、貴方の言う事には同意致しません。反対致します。それでよろしくて」
セレナは離婚届を手に持ち、ライルに突き付けて。
「ここにサインを。貴方の負けですわ」
ライルは味方が誰もいないと解って、肩を落とし、
「私は間違っているのか?私は偉いんだ。皆、チヤホヤしただろう」
渋々、サインをした。
セレナは自由の身になった。
元々、ライルの代になって、アドー公爵家は孤立し始めていたが、さらに孤立するようになり、力を失っていった。
バウス第二王子殿下に誘われて、セレナは夜会に出席した。
離婚が成立して一月過ぎた。
バウス第二王子は、セレナに向かって、
「次の結婚相手に私なんてどうかな?」
「でしたら、どうして今頃?ずっと隣国に行っていて、戻って来なかったわ」
学生時代、バウス第二王子と同じクラスだった。彼の事が好きだった。
でも、彼は卒業と同時に隣国へ行くといって、いつ帰ってくるとも解らなかったのだ。
バウス第二王子は、ドレス姿のセレナの手を取って、
「身体を悪くして治療をしていたんだ。でも、隣国で手に入った薬のお陰で今やすっかり健康になった。学生時代の時からずっと君が好きだった。でも、病を持っていたから思いを伝えられなかった。セレナ。改めて私と結婚してくれないか?」
涙が溢れる。
諦めたあの恋が‥‥‥バウス第二王子からプロポーズしてくれた。
「嬉しいですわ。お受け致します」
そこへライルが割って入って来た。
「私はまだお前の事を諦めていない」
「何故、わたくしに執着を?マリーナ様とどうぞお幸せに」
「お前が生意気だからだ。貴方の言う事は正しいので同意しますわが正しい女の在り方だ。それなのにお前はっ‥‥‥お前は私の元で一生、貴方の言う事は正しいので同意しますわと言っていればいい」
「貴方とわたくしは離婚が成立しております。わたくしは今、バウス第二王子殿下のプロポーズをお受け致しましたわ。それでは、アドー公爵様。マリーナとお幸せに」
ライルから背を向けた。
バウス第二王子が手を取ってくれた。
とても幸せを感じた。
アドー公爵家は潰れた。
仕事をしていた執事が金を持って消えたのだ。
周りの貴族達からも見限られていたライル。
マリーナと共に屋敷を追い出される事になった。
マリーナは屋敷を出たら、ライルの頬をバシっと叩いて。
「贅沢させてくれるって言っていたのに、貴方なんて知らないわ」
そう言って、ライルを捨てて行ってしまった。
ライルは天に向かって、
「私は悪くない。あの女が悪いんだ。あの女が私の言う事を聞いていれば全て上手くいったんだ」
トントンと肩を叩く人が、
「行くところがないんだろう?いい所があるぞ」
「少なくとも飯に困ることはない」
「もうすぐ冬だし、暖かい所でぬくぬくと」
「三日三晩、暖かい思いをさせてやるぞ」
何だか解らないが、ライルはこのまま野垂れ死ぬよりいいと思って、怪しげな連中に、
「私は復讐したい。あの女にっ。力になってくれるか?」
金髪美男が前に進み出て、
「じっくりと話を聞いてあげるよ。さぁ馬車に乗って行こうか」
それ以来、ライルの姿を王国で見る事はなかった。
人々は変…辺境騎士団がさらっていったんだと噂をした。
セレナにとって、ライルがどこで何をしていようとどうでもいいと思った。
今は初恋が実って、愛しいバウス第二王子が傍にいて微笑んでくれる。
この幸せを満喫しよう。
雪は止んで青空が見えた。窓を開いて空を眺める。
冬の空はとても透き通っていて。先々のバウス第二王子との幸せを願ってセレナは空を見上げるのであった。




