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第9話 初戦

 マービー国のレース場で行われるので地の利はある。走り込んだからどれくらいで走れば優勝できるかどうかも分かっている。だが・・・。


「各チームにマークされたら終わりだ。ブロックされればどうにもできない・・・」


 だから敵のチームを油断させる必要がある。幸いにも下馬評でマービー国は上がっていない。それで信二は予選で手加減をすることにした。

 コーナーは攻めるが直線ではアクセルを緩める・・・こうして予選タイムは伸びない。


「どうしたんだ?」


 ボウラン監督は心配してピットインした信二に駆け寄ってきた。


「調子はいいです。でもあまり良すぎるとね・・・」


 そんな言い方をして目で合図する。それでボウラン監督は信二の意図がわかったようだ。彼もそれに乗ってくれた。


「これがこのマシンでは限界だな」


 などと他のチームに聞こえるような大声で話していた。


 信二はラップタイムを見ながら適当な順位になるように調整した。それで結局、予選は7位だった。


(この位置からスタートダッシュすればすぐに先頭に立てる・・・)


 ポールポジションはヤマン国のショウ、2番手はボンド国のマイケル、そして3番手はスーツカ国のロッドマンだった。この辺りは常連だ。


 想定外だったのはメアリーががんばって8位に入ったのだ。MB2気筒のマシンなのに信二のアドバイスでタイムを伸ばしたのだ。これはうれしい誤算だった。彼女は信二の後を追えばいい。


「シンジ! やったわ!」


 人前にもかかわらず、メアリーが抱きついてくる。


「よかったな。がんばれよ」

「ええ、明日の本選もこの調子でがんばるわ!」


 メアリーは完全に自信を取り戻している。これで大丈夫だろう・・・信二は思った。


(とにかく明日だ。きっと勝ってやる!)


 信二は気合を入れ直した。


 ◇


 次の日、マービーGPの本選が行われる。天気は快晴。コースコンディションも問題ない。

 観客席では多くの人たちが詰めかけて声援を上げている。その中央にはVIP席があり、各国の要人が座っている。その中にはもちろんアドレア女王の姿があった。シェラドンレースの初戦を観戦しに来たのだ。

 信二は彼女に目線を送った。すると彼女も目線を返してきた。「がんばって優勝してください」と言っているようだ。


(女王様。約束通りに勝ってやるぜ!)


 信二は心の中でそう話しかけていた。


 いよいよスタートだ。レースは10周した時点での順位で優勝が決まる。それぞれのマシンがピットから出て来てエンジンをかけたまま、それぞれの位置グリッドにつく。


(スタートダッシュがすべてだ。この一瞬に賭ける!)


 信二は緊張しながらシグナルが変わるのを待つ。目線は最初のコーナーだ。


「3,2,1、スタート」


 シグナルが青に変わるや否や、アクセルを開く。体に加速を感じながらマシンが飛び出して行く。ノーマークの信二をブロックする者はいない。狙い通り、前方のマシンを抜いて先頭集団についた。


(よし! これからだ!)


 最初のコーナーを速度を落とさずに深くリーンインして曲がっていく。コーナーを抜ける時にはトップになっていた。後ろになった他チームのマシンがあわてて追いかけてくる。だが巧みにブロックして抜かせない。


(あとはこの順位を保つだけだ)


 信二の計算では自分のマシンはヤマノ国とボンド国、そしてスーツカ国のマシンよりラップタイムが速いはずだ。もちろんエンジンやホバーの状態があるからずっとこのままで走れるわけではない。マシンの状態と敵チームとの差をみながら緩めるところを探すしかない。


 他のチームはまだ焦っていなようだった。トップが前年7位のチームではそうなのだろう。すぐに息切れして後ろに下がると見ているようだ。


(この隙にリードを少しでも広げる)


 信二は飛ばした。5周目までにかなりのリードを奪った。あとはマシンをいたわりながら走るだけだ。だがこの辺になると他チームが異変を感じ始めた。


「今年のマービーは違う」

「新しいマシンにしたようだが耐久性もあるようだ」

「このままでは逃げきられてしまう」


 それぞれのチームがあわててスピードアップにサインを出した。各ライダーたちがスピードを上げて信二を追いかけて行く。だがもう遅い。リードは十分にある・・・信二はそう思ってマシンに負担をかけないように周回を重ねていく。


(このまま逃げ切れそうだ)


 信二はそう計算していた。いくら必死に追いかけてもこのリードでは追いつけないだろう。普通では・・・。

 だが8周目のピットサインに思わぬものを見た。


「ショウが真後ろに来ている! そんなはずは・・・」


 信二は目を疑った。だがそれは本当らしい。ショウは考えられないほどの速さでラップを重ねて信二を追ってきたのだ。


(さすがにショウだ。タイガーと呼ばれることはある。だが俺は負けない!)


 信二はスピードを上げた。だがマシンの方が限界に近づいてきていた。ガタガタと振動がしている。無理をすればゴールまでもたない。


(やはりまだ耐久性に問題があったのか・・・)


 それでも走らねばならない。後ろにショウが迫っている気配がする。コーナーを攻めてタイムを縮めるしかない。

 9周目、信二はショウにぴったりつけられていた。ショウはコーナーで信二を抜こうとするが、信二は必死にブロックする。だが最終コーナーを曲がると直線だ。そこではトップスピードが物を言う。

 やはり直線でショウは信二を簡単に抜いていった。やはり恐るべきはヤマン国のマシンとショウだ。あの状況から逆転してしまった。だがここで引き下がるわけにはいかない。

 そして10周目、最終ラップに入った。もう後はない。


(ここはマシンがぶっ壊れても抜かねばならない!)


 信二は決意を固めた。


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