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第7話 タイガーショウ

 翌日も朝から練習となった。今日は信二は本年型のマシンに乗る。外見はあまり変わらないが、モリスによると大幅にパワーがアップしているそうだ。


(マシンの操作性はどうかな?)


 実際にコースを走らせてみる。確かにパワーが上がって加速性能が改善したように感じた。だがその分、バランスが悪い。セッティングがまだ十分ではないのだろう・・・信二はそのことをモリスに伝えた。


「やはりそうか。本番まで時間がある。これからセッティングを煮詰めていくつもりだ。シンジの感覚が頼りになる」


 モリスも今のマシンが完成したとは思っていないようだ。これからが大変になる。


 それに加えて信二はメアリーの走りのチェックしてやった。彼女はセカンドライダーになることが濃厚だ。そのためにもテクニックを磨いてもらわねばならない。昨夜は激しく愛を交わした。だが今朝の彼女は引きずることなくサバサバしていた。


「私は仕事に感情を持ち込みたくないの。昨日のことは昨日のこと。私は何も気にしていないから」


 メアリーはそう言っていた。それで面倒なことはなく、純粋に彼女にアドバイスができる。


「コース取りを一定にするんだ。まずは精密機械のように正確に走ること・・・」


 メアリーは信二のアドバイスを素直に聞いて練習している。そして見よう見まねで信二のようなリーンインスタイルを取り入れようとしている。



 信二はこれで順調にレースに臨めると思っていた。だがそれが甘い夢であることに気付かされることになった。それはあの男が現れたからだ。

 彼の名はショウ。ヤマン国の新進気鋭、売り出し中のレーシングライダーだ。昨年はセカンドライダーを務めたが、エースライダーを越える成績を残した。

 そのショウがコースの下見でこのサーキットに来たのだ。今年からエースライダーになり、開幕戦を何としても勝利したいと気合が入っているのかもしれない。事前にコースをチェックしにきた。

 ただし彼はただ見に来たわけではない。マシンを持ち込んでコースを走る許可を取ってきたのだ。


「シンジ。よく見ておけ! 奴はその激しい走りから『タイガーショウ』とあだ名されている。これがトップに近い者の走りだ」


 ボウラン監督が信二に言った。ショウがコースにマシンを走らせた。エンジンを咆哮させ、リーンウィズスタイルで車体を大きく傾けて疾走していく。


(確かに激しい走りだ。だが・・・)


 シンジには粗削りに見えた。派手な割にスピードが出ていない。だがそれが磨かれればかなりの強敵になる・・・そう感じていた。信二はボウラン監督に志願した。


「監督。俺を走らせてください。勝負してきます」

「本気か?」

「ええ、俺の走りが本番でどこまで通用するか、見てみたいんです」

「まあ、いいだろう。だが無理してマシンを壊すなよ」


 ボウラン監督の許可を得て、信二はマシンでコースに出た。しばらくするとショウのマシンが信二を抜いていった。ここからが勝負だ。信二はスピードを上げてショウを追って行った。

 ショウもそれに気づいたようだ。バトルを仕掛けてきたと・・・。それで本気モードでスピードを上げていく。


「やる気になったか! 俺のテクニックを見せてやる!」


 信二はショウを追い続けた。コーナーを攻め、直線ではアクセル全開にしていく。だが・・・


「追いつけない。距離が開くばかりだ。こんなことになるとは・・・」


 信二は走りながら冷静に分析した。直線はおろか、コーナーでも差がつけられる。トップスピードも加速も相手に全くかなわないのだ。いくら信二のテクニックをもってしても・・・


 しばらく走って信二はピットに戻ってきた。


「どうだった?」


 ボウラン監督が聞いてきた。


「完敗です。全く追いつけない」

「タイムはそこそこ出ていたが・・・」

「このマシンでは何もかも足りないのです。一から見直さないと・・・」


 すると走り終えてショウのマシンがピットに戻ってきた。ショウはマシンから降りると、すぐに信二たちのピットに顔を出した。


「さっきのライダーは君かい?」

「ああ、そうだ。信二だ。今年からシェラドンレースの参加する。よろしく」

「ショウだ。シンジ。君はいい走りをしている。本番を楽しみにしている」


 ショウはニヤリと笑うと信二と握手して行ってしまった。すでに勝者の余裕というものがあるのかもしれない。


(奴に勝ちたい)


 そんな気持ちが信二にふつふつと湧いてきた。


(とにかくマシンを何とかしないと。奴のマシンはまだセッティングが不十分なはず。本番ではもっと速くなる)


 そう思うとシンジは居ても立ってもいられなくなった。彼はすぐにモリスのところに行って聞いてみた。


「このマシンでもっと早くすることはできないのか?」

「今のところ、これが精一杯だ。セッティング次第では少しは早くなるかもしれないが」


 それでは不十分であることはわかっていた。


「他にマシンはないのか?」

「あるにはあるが・・・まだ開発中だ」

「それはどんなものなんだ?」

「トップシークレットだ。だから誰にも言うなよ。開発工場でな・・・」


 モリスは話してくれた。今のマシンは2気筒だ。気筒が増えるほどフェールという燃料から魔力を取り出す効率がよくなる。だがあまりに多いと複雑化し故障しやすくなったり重くなったりして使いものにならない。


「4気筒エンジンを開発中だ。試作までこぎつけた」


 モリスはそう話してくれた。昨年でも大国では4気筒エンジンを出してきた。ヤマン国やボンド国などがそうだ。それによりボンド国のマイケルが総合1位(グランプリ)を取った。


「それを使わせてくれ!」

「だめだ。まだ試作の段階だ。トラブルを洗い出しているところだ。実戦にはまだまだだ」


 モリスは首を横に振った。未完成のエンジンなど、とてもレースに出せないと・・・。


「それは実戦で試して行けばいい。悠長なことを言っていたら勝てない!」


 信二はそう強く訴えた。彼はここであきらめるわけにはいかない。可能性があるならそこに賭ける・・・彼はそう思ってモリスを説得した。やがてその熱意にモリスは折れた。


「まあ、そこまで言うなら・・・監督と相談してみる」


 モリスは「ふうっ」と息を吐いた。


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