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第41話 決着

 信二はショウがまたスピードを上げたことを知った。せっかく並んだのにまたショウが少しリードを奪ったのだ。


(これ以上、フェール過給機を使うとエンジンが爆発するかもしれない。だが・・・)


 ここで引き下がるわけにはいかない。ここで勝利しなければ総合1位(グランプリ)は取れない。


(こうなったらマシンと心中だ!)


 信二は決意を固めた。フェール過給機はオーバーヒートしながらも動いている。それによりまだエンジンパワーは上がる。気筒が破裂してエンジンが爆発するまで・・・。


 信二のマシンはまたショウのマシンと並んだ。2台並んでゴールに突き進む。後は祈るしかない。信二の脳裏にメアリーの顔が浮かんだ。


(メアリー。俺にまた力を貸してくれ! 俺を勝たせてくれ!)


 すると信二のマシンがショウのマシンより前に出た。ショウがいくらアクセルを開いてエンジンをぶん回してもどうにもならない。信二がトップでゴールした。


 観客は総立ちになって歓声を上げて拍手を贈った。勝った信二だけでなく、ぎりぎりまで争ったショウにも・・・。

 信二はマシンを止めると、ヘルメットを投げ捨てて両手を上げた。


(メアリー! やったぞ! ()()()の伝説を作ったんだ!)


 感無量だった。やっと総合1位(グランプリ)を手にすることができたのだ。


 ショウがマシンを停めて信二のそばに来た。


「おめでとう! シンジ。君の勝ちだ!」

「ありがとう! だが俺の方が運がよかっただけだ。君の走りもすごかった」


 信二はショウとがっちり握手した。


「来年も戦えることを願っている」


 そう言ってショウは行ってしまった。


「来年か・・・」


 信二は考えていなかった。総合1位(グランプリ)を取った後、どうするのか・・・前の世界に戻れない以上、この異世界で暮らさなくてはならない。またシェラドンレースに参加するのか、それとも女の世話になって生きていくのか・・・。


(まあ、時間はある。これから考えるさ)


 信二はそう思ってピットに戻ってきた。そこではボウラン監督をはじめメカニックやスタッフが迎えてくれた。


「よくやった!」

「おめでとう! シンジ!」


 みんなが信二に声をかけて握手攻めにする。そこには観客席からアイリーンが下りてきていた。


「シンジ。おめでとう」

「ありがとう。約束は破ったけどな。でもフェール過給機は使える。君は完成させたんだ。亡くなったお兄さんも喜んでいるはずだ」

「シンジ。あなたのおかげで長年の胸のつかえがとれたよう・・・。本当にありがとう」


 アイリーンは信二の胸に飛び込んだ。その目には涙が光っている。信二はアイリーンをぐっと抱きしめた。


(すっかりいい女になった。今夜あたり、相手をしてもらうか・・)


 そんなことを考えていると、アドレア王女がピットに入ってくるのが見えた。信二はアイリーンを放して彼女を待った。アドレア王女は信二のそばに来て声をかけてきた。


「おめでとう。シンジ。約束を守ってくれたのですね。これでマービー国は救われます」

「俺は約束を守る男だ。特に君のためなら」


 信二はそう言って彼女の耳元でささやいた。


「あの儀式のおかげだ。できるならまた儀式をしてほしい」

「何のことでしょう? 私には覚えがありません。夢でも見たのではないですか?」


 アドレア女王は微笑みながらそう返事した。だが信二にはあれが夢だとは信じられない。いや、信じたくない。アドレア女王はあくまでもあれはなかったことにするつもりだろう。それならここは押すしかない・・・信二はそう思った。


「そういえば来年はどうするか、決めていない。あの最初の条件で代理の者でないならOKだけどな」


 最初の条件とは一夜を共にすることだ。あの時はサキを代理としてごまかされたが、今回の契約ではアドレア女王本人が相手をしてもらおう・・・信二はニヤニヤしながら彼女の反応を見ていた。だが全く動じる様子はない。


「そうですか。でも今回はあの条件は飲みません」

「じゃあ、いいのか? 契約しなくても」

「ええ、私からは何も要求しません。シンジが決めることです。来年のことは皆さんと相談してください。では私はこれで・・・」


 アドレア女王はまた微笑みながらそう言って戻っていった。


(相変わらず食えないタマだ。この状況で俺に来年のことを決めさせるとは・・・)


 アドレア女王についてきた侍女のサキは信二のそばに寄ってささやいた。


「私ならOKです。いつでも言ってください。女王様はああおっしゃっていますが、シンジにいて欲しいはずです。だからお願いします」


 サキはウインクをしてアドレア女王のあとを追って行った。


 信二が周囲を見渡すとみんなが来年のことを聞きたがっている。期待を込めた目で・・・。このまま何も言わずにいることもできず、信二は口を開いた。


「みんな。聞いてくれ! 総合1位(グランプリ)を取れたのはみんなのおかげだ。感謝する。このチームは素晴らしい。特に俺は今回のレースで思い知った。だからまた一緒に仕事したい。そしてまた総合1位(グランプリ)を勝ち取ろう!」


 そう言うと周囲から大きな歓声が上がった。


(これで否応もなく来年もシェラドンレースに出なくてはならない。女王様に《《はめられた》》な・・・)


 気が重くなる反面、うれしくもあった。また目標ができたということについては・・・。


(来年も暴れてやる! シェラドンレースで! 今度は女王様を確実に落とすぞ。もちろん他の女たちもな)


 信二は決意を新たにした。彼の見上げる空は青く晴れ渡っていた。


    シェラドン歴225年 レース結果

  1位 信二(マービー国) 58点

  2位 マイケル(ボンド国) 57点

  3位 ショウ(ヤマン国) 55点

  4位 ロッドマン(スーツカ国)50点



         ― 第1シーズン 終わり ―


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