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第40話 フェール過給機

 ショウは快調に飛ばしている。MB4気筒Rをもってしてもその直線スピードには敵わない。


(1つ1つ・・・コーナーで差を詰めるしかない)


 信二はハングオンスタイルでコーナーを回りタイムを縮めていく。ショウとの差は少しずつ詰まっている。だが・・・。


(もう9周目だ。これでは間に合わない・・・)


 最後のゴール前の長い直線では疾風のようなスピードを持つヤマン国のマシンが断然有利だ。それまでに逆転しなければならない。だが信二の計算ではどうしても無理だ。しかし・・・


(あきらめるわけにはいかない!)


 信二は最後の逆転の可能性を捨てずに走り続けた。




 VIP席ではアドレア女王が侍女のサキとともにレースを観戦していた。アドレア女王は何も言わず、シンジの姿を凝視している。その手は固く結ばれて汗がにじんでいた。

 サキはアドレア女王がシンジが勝つように祈っているように見えた。だが今のペースではショウが圧倒的に優勢だ。


「女王様。シンジはよく走っていますが、ショウに追いつくにはちょっと難しいようですね」

「いいえ。シンジはやってくれます。必ず優勝してくれます」


 アドレア女王は確信したかのようにサキに言った。




 観客席の隅に信二の走りを熱く見守るもう1人の女性がいた。


「シンジ。あなたはもう立ち直ったようね。よかった。それに新しいエンジンを積んだマシンも使いこなしているようだし・・」


 それはアイリーンだった。彼女は信二に会うことなく、新型エンジンと手紙を届けた。


(シンジ。本来なら私が直接エンジンを届けてあなたを激励すべきだった。でも・・・できなかった。あの新型エンジンを持ってあなたの前に出たら・・・決心が鈍ってそのままそのエンジンを持ち帰ってしまうだろう。あんな危険な装置をつけたから・・・)


 信二は劣勢だ。このままではショウに勝つことはできない。だが・・・。


(シンジ。私はあなたが負けてもいい。あなたさえ無事ならば・・・。あんな悲劇は見たくない。お願い。あれだけは使わないで・・・)


 アイリーンは祈る気持ちだった。




 信二はショウを追っていた。だがやはり間に合わない。10周目に入ったがコーナーで少し差が詰められただけだ。


(やはりショウは強い・・・・)


 タイガーとあだ名されたショウの走りは尋常ではない。リーンウィズスタイルだが人馬一体となって疾走していく。コーナーで少々滑ろうが気にしていない。そのまま走り抜ける。信二から見たら無茶な走りだが、その常識にとらわれない走りを見せるのがショウだ。


 レースは10周目の後半に差し掛かっていた。そこでようやく信二はショウの後ろにつけた。だがもう遅い。後は最終コーナーからゴールまでの長い直線だ。


(ここでなんとか・・・)


 信二はハングオンスタイルでコーナーをぎりぎりまで攻める。だがショウのコーナースピードも速い。内側インにも入れず、ショウが信二の前を行っている。やがてコーナーを抜けて長い直線の先にゴールが見えてきた。


 観客はショウの勝利を確信したようだ。あの疾風のようなマシンに直線で勝てるわけがないと・・・。だが信二はあきらめていない。


(アイリーン! 約束は破らせてもらう。あの装置はやはり使わせてもらう!)


 それはフェール過給機だった。一瞬だけスピードを上げることができる。だが・・・過去に使用したアイリーンの兄はその爆発によって亡くなった。改良されたとはいえ、危険なものには違いない。できるだけ使わないとアイリーンに約束してこの新型エンジンに装置をつけてもらったのだ。


(ここは勝負だ! 俺はこいつに賭ける!)


 信二はフェール過給機のボタンを押した。その装置は発生するホバーの力を利用する。それが小さな歯車を高速回転させ、連動したポンプが燃焼室により多くのフェールを圧縮して送り込む。そうすることでより多くのフェールを燃焼させて、発生するパワーを上げようというのだ。しかしあまりにも多量のフェールを燃焼室に送り過ぎると、圧力に耐え切れずに大爆発を起こす可能性がある。現にこれによる事故でアイリーンの兄は亡くなった。

 フェール過給機は動き出した。それはかすかな振動によってわかる。そして急にエンジンの回転が速くなり、パワーが上がる。信二のマシンはスピードを上げて行った。



 先頭を行くショウは最後の直線になって勝利を確信していた。


直線ストレートでこのヤマン国のマシンに勝てる者はいるはずがない。いくらライバルのシンジであっても・・・)


だが後ろからエンジン音がだんだん近くに聞こえてくる。


(そんな馬鹿な!)


 信二が直線でもぴったりと後ろについているのだ。一体、何が起こっているのかがショウにはわからなかった。確かなのは信二のマシンが急に速度を増していることだ。しかも今、信二のマシンにスリップストリームにもぐりこまれている。そうなればスピードを上げて追い抜かしてくるかもしれない・・・ショウは焦りを覚えた。



 信二はスピードが上がっているのを感じた。ショウの後ろについていても引き離される感じがしない。しかもそのスリップストリームに入っている。


「ここが勝負だ!」


 ゴールまであと少しだ。アクセルを全開にしてマシンを横に出す。するとショウに並ぶところまでマシンが走る。


(もう少しだ!)


 だがマシンは振動し始めた。フェール過給機を使っているためエンジンが限界に近づいている。



 一方、ショウは横に並んだシンジを横目で見た。


(ゴールはもうすぐ! ここで抜かさせるわけにいかない!)


 ショウはアクセルを全開にしてエンジンをぶん回した。回転数が上がり、スピードがさらにのる。それで今度はショウの方がリードを奪った。


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