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第32話 雨

 いよいよ公式練習が始まった。各チームがマシンの改良をしているから、ラップタイムは信二が思っていた以上に短縮している。特にヤマン国のショウは速い。直線は相変わらず疾風のようなスピードだが、コーナーの立ち上がりも速くなっている。前回のヤマンGPに続いて2戦連続の優勝を目指している。


 ボンド国のマイケルも好調だ。コースにいるマシンを次々にごぼう抜きにしている。6気筒エンジンは重いはずだが、少しずつ軽量化しているようだ。マシンの操作性がよくなってコーナーをいつもより軽く回っているように見える。


 信二もマシンを走らせた。開発工場で少しは手直しできたがまだまだパワーはボンド国ヤマン国に劣る。それでもいい手ごたえがある。前回よりいい戦いができそうな・・・。

 

 練習の途中で雨が降り出した。この国の天候はころころ変わる。晴れていても急に大雨になることはよくあるという。信二はマシンを走らせた。やはり雨の中は勝手が違う。スピードも出ないし、コーナーで滑りやすくなる。

 戻ってくるようにとピットサインが出るが、信二は手を振ってそれで拒否する。


(このコースではいつ雨に見舞われるかわからない。いや、今後のことも考えて雨中も練習しておかねば・・・)


 信二はそう考えて大雨の中、マシンを走らせた。他のほとんどのチームは練習を中止しており、コース上には信二とイザベルしかいない。それで邪魔されることなく、十分に雨中走行を練習できる。

 思った以上に走りにくく、時間もかなりかかった。だが練習を続けているうちに、少しずつタイムを縮めることができた。これで気をよくしてピットに戻った。

 ずぶぬれになった信二にボウラン監督がタオルを渡しながら言った。


「ご苦労さん。と言いたいが、雨の中、がんばったけどもあまり役に立たないだろう」

「どうしてですか?」

「雨の時は雨用のレインホバーにするんだ」


 信二はそれを聞いて、(早く言ってくれよ)と思った。確かに前の世界でも雨の時はレインタイヤを履く。今までレースの時は晴天だったので信二はそれに気づかなかったのだ。


「そういうわけだ。もう一度走ってこい! メアリーはすでに交換して走っているぞ!」


 確かに他のチームのマシンもレインホバーに替えてコースを走り出していた。少し時間はかかったが、ピット作業でレインホバーに替えて信二も飛び出して行く。


(なかなか感触がいい。晴れた時と同じまでとはいかないが、それに近い走りができる)


 信二はそれでしばらく練習走行をした。これで天候が変わろうとも大丈夫だと・・・。


 ◇


 その夜、レース関係者を呼んでパーティーが開かれる。信二はあまり気が進まなかった。雨に濡れながら走り続けたので体がかなり重いからだ。今回はパスしようと思っているとブライアンにこう言われた。


「この国に美人は多いぞ! パーティーになればどうなるか。楽しみだな」


 そう言われれば信二は行くしかない。お偉い方々やスポンサーにあいさつ回りをボウラン監督はさせるかもしれないが、その隙を見てこの国の美人をいただこうと考えたのだ。

 実際、パーティーに参加してみると美人ぞろいだった。ここで信二が目をつけたのはお客に飲み物を配るコンパニオンの女性だった。金髪で顔立ちが美しく、すらりとしたモデル体型でこの会場内でひときわ目を引いていた。

 ボウラン監督の目を盗んで信二はその女性のそばに行った。


「ワインをもらえるかな?」

「はい。どうぞ」


 彼女は笑顔でワインを差し出した。営業スマイルというやつだ。ここは何とか気を引かねばならない。ワインを受け取った時、信二は彼女の耳元にささやいた。


「君の美しさに乾杯!」

「まあ。そんなことを・・・」


 それでもうれしそうにしている。脈がありそうだ・・・信二はそう思って話し続ける。


「君と話がしたい。名前を聞かせてくれないか?」

「アンヌです」

「いい名前だ。僕は信二だ。ところでアンヌ。君はここのスタッフ?」

「いえ、今日はお手伝い。普段は絵を描いているの」

「画家だったんだね。君の絵が見たいな。僕はちょうど素敵な絵を探していたんだ」


 信二はアンヌの気を引こうとそう言ってみた。絵のことなどまるで分らないが・・・。


「本当! 私の絵がよかったら買ってくれるの?」

「ああ。美しい君が描く絵はきっと素晴らしいのだろう。でも買い手は多い?」

「ううん。それが全然売れない。ここでお手伝いをしているのはお金のこともあるけど、偉い人と知り合いになれるかもしれないからよ。それで私の絵を見てもらって勝ってもらおうと・・・」


 アンヌはいろんなことを信二に話してくれた。もしかしたらこの人がスポンサーになってくれるかも・・・と思ったのかもしれない。


「君の絵が見たいな」

「ええ。いいわ。近くにアトリエがあるの。古いアパートだけど」

「今からでもいいかい? すぐに見たくなった」

「ええ。いいけど・・・」


 こうなったら信二のペースだ。アンヌとともに会場を出て、控室で着替えた彼女とホテルを出てアトリエに向かう。彼女は絵が売れそうだからうれしそうにしている。


(さて。これからどうやって落とすか・・・)


 信二は考えを巡らせていた。



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