第3話 約束
異世界転移した内海信二。彼が呼ばれたのは・・・・
異世界に転移させられたのはレースに出るためだったのか・・・信二には意外だった。
「シェラドンレースとか言ったな。それはどんなものなんだ?」
「シェラドン歴元年から始められたレースで今年で225年になります。国同士の争いを回避するため、その解決方法としてレースで競うことになりました。各国が総力を尽くして・・・」
アドレア女王の話は長くなりそうだったので、途中で信二が口をはさんだ。
「そんなことより実際のレースはどうするんだ?」
「初戦は1週間後にこのマービー国のコースで行われます。ホバーバイクで決められたコースを10周します・・・」
(ホバーバイク? 名前からすればオートバイと同じか・・・)
そう思いながら信二は聞いていた。
「出場するのは9か国です。それぞれの国で1戦ずつ行い、9戦で最もポイントを稼いだレーサー、つまり総合1位を取った国を勝者とします。」
「それがこの国を救うのとどういう関係があるんだ?」
「総合1位の国が国際社会で大きな発言権を得ます。他の国はそれに従わねばなりません。この世界には100以上の国があります。しかし小国は大国に無理に併合され、そこに住む人々は悲惨な目に遭います。我々マービー国はそうならないように訴えてきた・・・」
「そうなると大国ににらまれる・・・というわけだな」
信二がそう言うとアドレア女王はため息をついた。
「確かにそうです。大国は我々を目の敵にしています。このシェラドンレースで勝者となり、我が国をつぶそうとするでしょう。恥ずかしながらこの国は小さい。大国に迫られたら言うことを聞くしかない・・・」
だいたいのことを信二は理解した。
「正義を振りかざすのはいいが、それによって今の危機があるんだ。すべてあんた方の責任だろう」
「そう言われればそうかもしれません。しかし私は大国に無理を押し付けられている小国を放っておけないのです」
信二は「ふうっ」と息を吐いた。真っ直ぐすぎて仕方がない人だと思いながら・・・
「それで勝てる見込みは?」
「今のままでは難しいのです。小国だからマシンの開発費用は少ない。だから優秀なメカニックも多く集まらない。今、完成しているマシンでは大国のマシンのパワーにかなり劣ります」
「それでどうするんだ?」
「だからあなたを呼んだのです。優秀なレーシングライダーを転移させてくださいと神様にお願いしたのです」
レースの勝敗は信二にかかっているようだった。
「ところで去年は何位だったんだ?」
「第5戦で6位に入ったことがありましたが・・・総合では7位です」
「7位? それで1位を目指せというのか?」
「はい。だからレースに出て優勝してください」
「無茶を言うなよ。レースに勝つには優秀なマシンが必要だ。それがなけりゃ。俺でも無理だ」
「この国が、いえ、この世界の多くの小国の運命がかかっているのですよ」
「そんなこと、俺が知るわけないだろ。俺を勝手にここに連れてきて、さあ、この国のために走ってくださいって虫が良すぎるんじゃないか?」
信二はそっぽを向いた。するとアドレア女王はよろめいて壁に手を突いた。
「あなたに協力していただかないとこの国は、いえ、この国の民は悲惨な目に遭うでしょう。すべて奴隷となって・・・。ああ、皆さん、ごめんなさい。私のために・・・うっうっうっ・・・」
アドレア女王は手を当てて泣き出した。そうなると信二は弱い。だが今さら、「はい。やります」と簡単には言えない。少しもったいぶってやることにした。
「まあ、俺の望みをかなえてくれたらいいぜ!」
「ほんとうですか!」
アドレア女王は顔を上げた。そこに涙のあとは・・・ない。
(うそ泣きか・・・)
信二は意地悪を言ってやろうという気になった。無理難題で困らせてやろうと・・・。
「何でもいいんだな?」
「はい。何なりと。私の出来ることはなんでも致します」
「それじゃあ、俺の夜の相手をしてくれ!」
信二はニヤニヤ笑いながら言った。心の中ではこう思いながら・・・
(さすがにこれには「うん」と言わないだろう。まあ、この女王様。なかなかいい女から惜しい気もするが・・・)
するとこの要求に侍女のサキが怒った。
「なんという下劣な要求ですか! このお方は女王様なのですよ! わきまえなさい!」
「嫌ならいいんだ。俺も協力しないことだし・・・」
信二はまた意地悪を言ってやった。アドレ女王は少し考えて返事をした。
「わかりました。王宮に戻りましたら今夜にでも・・・」
苦渋の決断のようだった。(女王様が本気にしている)と今度は信二の方が慌てた。
「冗談だ。本気にするな。さすがにそんなことは・・・」
「おやめください。それならば私が・・・」
サキも慌てて止めた。だがアドレア女王の決意はすでに固かった。
「いえ、いいのです。信二。約束は約束です。それはきっちり果たします。殿方にはまだ触れられていないこの体、あなたに捧げます。それも今回だけです。それで私の願いを聞いてくださいますね」
そう言われると信二はもう断ることができない。
「ああ、女王様がそれでいいならいいが・・・」
成り行きとはいえ、信二はそう答えるしかなかった。
◇
外はもう夕暮れに近づいていた。信二は馬車で王宮に行くことになった。もちろんアドレア女王とサキも乗り合わせている。あれからアドレア女王は黙ったままだ。目を合わそうともしない。さすがに夜の相手をすることに心の動揺があるようだ。
(これはかわいそうだったかな・・・)
信二はそう思った。やがて馬車は王宮の門をくぐった。きらびやかな宮殿がそこに広がる・・・と期待したのだが、建物は古くなって壁は一部剥げかけており、室内も飾りなどなく、全体的にくすんだ感じだった。
(まるで廃墟だな。掃除はされているようだが・・・。やはりここには金がないのだな)
信二はそう思わざるを得ない。そこでやっとアドレア女王が口を開いた。
「サキがお部屋に案内します。そこで待っていてください。すぐに行きますから・・・」
その顔に悲壮感はない。まるで魔物でも討伐に行こうという感じだ。それにはさすがに信二は興ざめした。
「もういいんだぜ。あれは冗談だったんだから・・・」
「約束は約束です。でも灯りはすべて消しておいてください。恥ずかしいので・・・」
アドレア女王はそう言って行ってしまった。
はたして女王様は身を捧げるのか?




