第29話 特別なお茶
「誰だろう・・・」
ベッドから身を起こした信二は時間を見た。寝過ごしてしまったようだ。横にいるリサも起き上がってあわてて服を着ている。
「ドンドンドン!」
「今、開けます! ちょっと待ってください!」
ノックの音が続くので信二はドアを開けてみた。するとボウラン監督が立っていた。
「遅いぞ。シンジ。今日は予選だぞ!」
「すいません。昨夜は遅くまで眠れなかったもので・・・」
信二はそう言い訳をする。だがそそくさにドアから出て行くリサの姿を見て、ボウラン監督の信二を見る目が険しくなる。
「シンジ!」
「わかっています。すぐに用意します」
ボウラン監督のお説教が始まる前にドアを閉めた。こうなったら予選でいい走りをして勘弁してもらうしかない。
◇
予選が始まった。やはりヤマン国のショウの調子はいい。信二もそれに合わせて走ってみた。コーナーではまだ勝負ができそうだが、直線でさっと追い抜かれる。まるで疾風のようだ。
そしてボンド国のマイケルだ。パワーあるマシンで無難に走っているが、そのラップタイムは驚くほど縮めている。直線ではショウに一歩譲るが、その他のところでは速い。
いよいよ信二がトライする。コーナーを攻め、直線では目いっぱいアクセルを開く。今の信二とこのマシンの限界まで・・・。
だが敵わなかった。ポールポジションはマイケル、2番目はショウ。信二は3番目になった。彼の後ろの4番目にはスーツカ国のロッドマンがいる。
(これでは本選で勝つのは難しい。なんとかマイケルの後について行くしかない。そして最後の最後で逆転を狙うしか・・・)
信二はそんなプランを立てていた。マシンの後ろにぴったりつけば、空気抵抗を大幅に少なくなるためマシンの負担が少なくなり、いざというときは速度を上げることができて有利となる。スリップストリームという現象だ。下手をするとぶつかる心配はあるが、信二はそれに賭けようと考えていた。
ホテルの部屋に戻った。今日もレースのことで頭がいっぱいだ。眠れそうにないが、何とか無理してでも眠って明日のために英気を養わねばならない。するとドアをノックする音が聞こえた。
(誰だろう? 監督かな? ミーティングで言い忘れたことでもあったのか?)
そう思ってドアを開けるとリサが立っていた。
「お茶のサービスでございます」
「頼んでいないが・・・」
信二はそう言ったが、リサは強引にワゴンを押して部屋に入ってきた。
「明日は本選でしょう。またラテシャイを持ってきたわ」
「ありがとう」
リサは2人分のラテシャイを入れた。一つを信二に渡し、もう一つは自分が飲む。
「がんばってね。休暇を取ったの。見に行くわ!」
「ありがとう! 君のためにがんばるよ!」
信二はラテシャイを飲み干した。リサもラテシャイを飲んで信二に向かって笑顔を向ける。すると何か下の方が元気になってくる。
「今日のラテシャイは特別なの。元気になってもらおうと思って・・・」
リサが恥ずかしげにそう言う。確かに効いている。特に下の方に・・・。
「私もほてってきたみたい」
リサは信二に体をゆだねた。制服から飛び出しそうな豊満な胸が体に当たる。そうなるともう止められない。信二はがっつくようにリサを抱いた。彼女も大きな声を出して答える。2人はしばらく熱く燃えるような時間を過ごした。
気がつくともう朝になっていた。何もかも忘れてリサを抱いてそのまま眠ってしまったようだ。ベッドから起き出してカーテンを開けて日の光を浴びる。よく眠れたらしく頭がすっきりしている。
ベッドにはリサの姿はない。代わりにナイトテーブルにメモを残していた。
「昨日は最高の夜でした。レースがんばってください」
リサのおかげで昨夜はよく眠れたのだ。多分、信二のことを思ってそうしてくれたのだろう。彼女の心遣いにうれしくなった。
◇
本選を迎えた。信二は3番目だ。前のマイケルやショウの様子を見る。なかなかエンジンは快調のようだ。彼らの自信が伝わってくるようだ。ここは作戦通りにマイケルの後につくしかない。
「3,2,1,スタート!」
シグナルが変わり、各マシンが一斉にスタートした。信二はスタートダッシュに成功したもののコーナーであっさりマイケルに抜かされる。
(ここが我慢だ・・・)
信二はマイケルのスリップストリームに入った。それでなんとかついていくことができる。コーナーはそれでいいが、直線ではパワーの差からか、徐々に引き離される。それをコーナーで何とかカバーしていた。
信二の後ろにはショウがいる。直線での速さは圧倒的だ。だが彼もマイケルを警戒してじっと3位に控えている。やはり後半に勝負をもっていこうという考えだ。
その状態で2周目、3周目・・・7周目まで続いていく。だがここからマイケルがスパートをかけた。後続を引き離そうと・・・。
だが信二は必死に食らいつく。ここで離されたら勝ち目はない。だが圧倒的なボンド国のエンジンパワーだ。6気筒エンジンの底力を見せる。今までが茶番だったかのように加速していった。そうなるとさすがの信二も追いつけない。直線でかなりの差をつけられた。
(くそ! やはりだめか!)
信二は唇をかみしめた。




