第27話 レギュレーション
ポールポジションはルーロ共和国のドロテアだった。確かに彼女のマシンは調子がよさそうだった。だがこんなことになるとは・・・。
ボウラン監督はため息交じりに信二に言った。
「ここではこんなことが当たり前だ。去年のルーロGPの優勝もドロテアだ」
「しかしセッティングを完璧にしてもそんなことにはならないでしょう」
「規定だ・・・」
ボウラン監督はそれだけつぶやいた。それで信二には何となくわかった。マシンには規定がある。マシンの大きさやエンジンの排気量などだ。その決められた中で戦わねばならない。だがルーロ共和国のマシンは規定違反をしてパワーを上げているというのだ。
そのからくりはレース関係者は皆気づいているようだった。だがこの国ではそれがまかり通る。文句をいう者はすぐに何らかの理由をつけられて逮捕されてしまうから・・・。
(ここは割り切って2位を取りに行くしかない)
信二の作戦は決まった。幸い予選は2番目のタイムを取ることができた。
いよいよ本選となる。スタンドのVIP席にはブランジ議長に並んでナターシャの姿も見える。なんとか彼女との関係がばれないでいる。このレースさえ終わればすぐにこの国から脱出しよう・・・などと信二は考えていた。
「3,2,1,スタート!」
シグナルが変わり、マシンが一斉にスタートする。ここでロッドマンがすっと信二の前に出た。そして抜かされまいとコーナーでブロックする。
(しまった!)
信二はナターシャのことを考えて集中力を欠いていたことを後悔した。ちょっとしたことでハナをロッドマンに抑えられてしまった。もちろんドロテアは先頭を行ってその差を広げていっている。ロッドマンは彼女を追う気は全くないようだ。
(ロッドマンも2位狙いか・・・これは長い戦いになる・・・)
信二はそう思った。こうなったら我慢比べだ。ミスをした方が負けとなる。
ロッドマンは精密機械のように正確に周回を重ねる。信二がコーナーで追い抜こうとしたがブロックしてくる。その動きに隙はない。ライディングに派手さはないが、堅実な彼らしい走りだ。
スタンドの観客はロッドマンと信二のデッドヒートに興奮していた。先頭を走るドロテアよりも・・・。信二がコーナーで抜こうとして、それをロッドマンがブロックするのを見て大きな歓声を上げている。
その状況は7周を過ぎても変わらない。信二はロッドマンの後ろにぴったりつけている。追う方も大変だが、追われる方も相手を見ながらブロックしなければならないから神経をする減らしているはずだ・・・そう考えて信二はそのチャンスを待っていた。
それはようやく9周目に来た。ロッドマンのブロックが甘くなった。そこをインから信二が抜いていく。これでようやく2位に上がった。あとはコ-ナーで差を広げていくだけだ。
結局1位は皆の予想通り、ドロテアだった。地元の利を生かした戦いぶりだった。2位は当初の目論見通り、信二が入ることができた。ロッドマンは3位だ。
これで総合ポイントで信二は8点を加えて39点の2位になり、不出場だった1位のマイケルに1点差と迫った。ロッドマンは6点を加えて信二と同点となり2位だ。まだまだ総合1位の行方は分からない。
総合ポイント
1位 マイケル(ボンド国) 40点
2位 信二(マービー国) 39点
2位 ロッドマン(スーツカ国) 39点
4位 ショウ(ヤマン国) 27点
ピットに戻るとボウラン監督が迎えてくれた。
「よくやった! 今回は2位で十分だ。だがひやひやしたな」
「ええ。ロッドマンが前でがんばっていたので。でも何とか最後で勝負がつけられました」
「次もこの調子で頼むぞ!」
ボウラン監督にそう言われたが、信二は次のシェラドンレースを考えると頭が痛かった。次はヤマンGP、ショウのいるチームのヤマン国が地元だ。だからマシンをそれに合わせて完璧に仕上げてくるだろう。それに今回な出て来なかったボンド国のマイケルが出てくる。苦しい戦いになるのは確かだ。考えれば考えるほどため息しか出ない。
信二は宿舎にしているホテルに戻った。スタッフはレースが終わった解放感で街に羽目を外しに行っている。このルーロ共和国でも繁華街はにぎわっている。この国で唯一気を抜ける場所だろう。
信二はそんな気分になれず、部屋のいた。すると部屋をノックされた。開けてみると・・・。
「シンジ。来たわ!」
それはナターシャだった。今日は一人だけだ。信二は彼女を部屋に入れた。
「ボディーガードはまいてきたわ」
「いいのかい?」
「構わないわ。どうせ夫には報告できないもの」
ナターシャは笑顔を見せた。VIP席で見ていた表情とは別の顔だ。
「シンジ。レースを見た。すごかったわ」
「ありがとう」
「すぐに飛んできたの。もう我慢できない・・・」
ナターシャは信二に体を預けた。信二は彼女を抱きあがてベッドまで連れて行く。
「悪い女だな」
「こんな女にしたのは誰?」
「さあ、誰だろう。確かめてみようか?」
信二はナターシャをベッドに下ろして覆いかぶさっていく。ずっとがまんしていただけあってナターシャはかなり興奮していた。彼女は大きな声を上げて信二を強く求める。信二は彼女の期待に応えていった。
やがてコトが終わった。ナターシャはベッドで放心状態になっている。すっかり満足できたようだ。
「すごかった・・・」
「君も素晴らしかったよ」
信二が身を起こすと彼女はその腰にしがみついた。
「あなたなしにはいられない。このまま連れて行って。この国を捨てるから・・・」
ナターシャは信二にそう迫った。




