表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/41

第2話 異世界転移

死んだはずのシンジが世界MotoGPを走っている。なぜ?

 信二は世界MotoGPでマシンを走らせていた。すでに最終ラップだ。彼の前を走るマシンはない。エンジンは快調な音を響かせ、コースを滑らかに走行していく。観客が総立ちで優勝の瞬間を見届けようとしていた。


(これで世界一だ!)


 信二は大きく息を飲みこんだ。ゴールまであと少しだ。


(あと・・・3,2,1・・・)


 マシンがゴールを通過した。彼は世界MotoGPに優勝したのだ。マシンを止めてヘルメットを投げ捨てる。


「やったあ! 世界一だ!」


 彼は拳を突き上げた。これほどの幸せは味わったことはない。夢がかなったのだ。ずっとこのために生きてきた気がする。女をいくら抱いていてもこのことは忘れはしない。だが・・・


(何かおかしい・・・)


 信二は違和感を覚えていた。何かがいつもと違っているような・・・優勝したのに誰も彼に駆け寄ってこない。後続のマシンも走ってこないし、その音も聞こえない。急に辺りがしんと静まり返った。


「変だ・・・」


 辺りを見渡すと誰もいなかった。観客が消え、スタンドが消え、コースが消え・・・またがっているはずのマシンまでも消えた。気が付くと彼は荒野に突っ立っていた。


「どうなっているんだ?」


 すると女の声が聞こえてきた。最初は小さく、それが徐々に大きく・・・


「起きてください!」


 はっきり聞こえる。上の方から・・・。彼は空を見上げた。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 そこで信二は目覚めた。ほんのり灯りに照らされた高い天井が目に入った。ここはどこかの部屋の一室だ。


(ここはどこだ?)


 信二は記憶をたどってみた。


(そうだ! 俺は鈴鹿の最終戦でぶつけられて転倒した。マシンの下敷きになって死んだと思ったのだが・・・)


 ここは天国でも地獄でもなさそうだった。


(俺は生きているのか・・・)


 身を起こすとそこは礼拝堂のようなところだった。彼は祭壇の上に寝ている。室内はろうそくの光のみで薄暗い。よく目を凝らすと少し離れたところに2人の若い女の姿が見えた。一人はティアラを付けた、すらっと背が高い、黒髪と黒い瞳が美しい女性、もう一人はやや地味な顔をした褐色の髪と灰色の瞳をした侍女風の女・・・2人がじっと信二を見ている。


「目覚めたのですね」


 若い女性の声が聞こえた。多分、背の高い方の女性だ。優しいがきりっとした声だった。


「ああ。ここは?」

「マービー国へようこそ。お待ちしていました」

「マービー? 聞いたことがない」

「そうかもしれませんね。サキ。祭壇から下りられるのをお手伝いして・・・」


 信二はサキという女に助けられて祭壇から下りた。背の高い女性は気遣うように見ていた。


「ところであなたは誰なんだ?」

「私はマービー国の女王、アドレアです」

「なんだって?」


(何かに化かされているのか・・・それともこの女がおかしいのか、まだ夢を見ているのか・・・)


 信二にはそんな風に思えた。しかしこのままでは何もわからない。とにかく今は状況が分かるように聞くしかない。


「俺はどうしたんだ?」

「あなたは神様のお導きによりこの世界に転移したのです」

「転移?」


 異世界転移・・・そんなファンタジーなことがおこるのか・・・信二は眉をひそめた。


「我々は神様に祈ったのです。この国を救う救世主が現れるようにと。そこであなたが転移されてきたのです」


 アドレア王女がそう説明した。だが信二には全くよくわからない。とにかくこんなところにいられないと彼は訴えた。


「転移でも転生でもいいから、とにかく俺を元の世界に戻してくれ! 俺にはやりたいことがあるんだ! 夢があるんだ!」

「それはできません。あなたは向こうの世界で死んだのです」


 アドレア女王はそうはっきり言った。


「じゃあ、俺は・・・」

「この世界で生きるしかありません。死ぬまで・・・」


 その言葉は信二にとって決定的だった。


「そんな・・・」


 信二は顔をうつむけた。これで世界MotoGPを制覇することなど叶わなくなった・・・心の中を絶望感が支配していた。そんな彼にアドレア王女はやさしく言った。


「気を落とさないでください。ここでもあなたがやりたいことが見つかるはずです。いえ、あなたにはここでやるべきことがきっとあるのです。だから神様があなたをお遣わしになったのでしょう・・・」


 アドレア王女の言葉が少しは信二の慰めになった。


「確かにくよくよしても仕方がない。前向きに考えよう・・・」

「それがよろしいですわ」


 アドレア王女は優しく微笑んだ。


「ところで名前を聞いていませんでしたね」

「俺は内海信二」

「ではシンジ。あなたにお願いがあります。この国を救うために・・・」

「いったい何をすればいいんだ?」


 信二はやけっぱちになっていた。こうなったら何でもしてここで生きていくしかない。


「レースに出ていただきます」


 信二は驚いて顔を上げた。


「レースだって!」

「ええ、レースです。最も過酷と言われるシェラドンレースです」


 アドレア王女ははっきりそう言った。



はたして信二はレースに出ることになるのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ