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第19話 新型エンジン

 いよいよリモールGPの予選が始まった。各チームが少しでもいいスタートポジションを取ろうとしのぎを削る。

 信二は気持ちを切り替えて予選に挑んだ。改良できたMB4気筒でコースを疾走していく。調子は悪くない。タイムは思った以上に縮まっている。


(これならポールポジションでも・・・)


 信二はそう思ったが、他のチームもいいタイムを出していた。


 結局、予選はロッドマンとショウのタイムに負けた。2人とそのマシンの調子はやはりいい。だが信二は本選では必ず巻き返して優勝できると踏んでいた。


 一方、メアリーも信二と同じく改良されたマシンに乗っている。彼女も調子を上げており、全体で6位というところだ。あのスーツカGPの後、信二が懸命に慰めた甲斐もあって完全に立ち直っている。


 そしてウッドリアだ。今までと人が変わったかのようにタイムを縮めている。気がつくとタイムは信二のそれに迫っていた・・・。

 そのウッドリアがマービー国のピットに現れた。また大騒ぎになるかもしれないが、逃げたと思われたくないから信二が出て行く。


「シンジ。一昨日はすまなかった。それは謝る。だが娘を渡すわけにはいかない!」


 ウッドリアはそう言うが、信二はニコールを奪うつもりはない。ただ一夜の大人の関係だ・・・と言いたくなるがそれは黙っておく。


「シンジ! 私と賭けをしろ!」

「何を賭けるのですか?」

「私が勝ったら娘と別れるんだ。もし私が負けたらもう何も言わない! いいな!」


 それだけ言ってウッドリアは帰って行った。周りのメカニックたちがその様子をおもしろそうに見ていた。


(厄介なことになった・・・)


 信二は肩をすくめてみせるしかなかった・・・。



 予選最終日になってやっとボンド国が現れた。せわしく予選走行の準備に入る。肝心のマシンは走り出す直前まで布がかけられていた。ということは・・・。


「あのうわさは本当だったのか? ボンド国はこのリモールGPに新しいマシンを投入してきたのか?」


 そう考えざるを得ない。信二はボンド国のピットを双眼鏡で観察した。いよいよマイケルが出て来て予選を走る。マシンに掛けられていた布がぱっと外された。

 信二はそのマシンを見て声が出なかった。マシンのカウルの形状は少し変わっている。空気抵抗を少し配慮したものかもしれない。だが驚くべきはそのエンジンだ。ガソリンタンクに新型マシンの名称が入っている。


「BONDO6V」


 信二は我が目を疑った。


「そんなエンジンを・・・まさか・・・」


 他のチームも遠くからボンドのマシンを見て唖然としている。


 BONDO6Vの名前が示す通り、新しいエンジンは何と6気筒なのだ。ボンド国はこの身近い期間に精密機械のような6気筒エンジンを完成させたのだ。エンジンは気筒が増えるほど効率が良くなる。だからそのエンジンは恐るべきパワーを持っているに違いない。


「これは大変なことになった・・・」


 信二は顎を触りながら考えた。自分のエンジンがやっと耐久性を持って十分戦えると思ったら、ボンド国はその間にそれ以上のエンジンを開発していたのだ。


(戦い方を変えねばならない・・・)


 信二はそう思った。


 マイケルが乗る新しいマシンはとにかく速かった。直線のトップスピードもコーナーの立ち上がり加速も・・・見る間にラップタイムを更新していった。

 これでポールポジションはマイクとなった。2番目はロッドマン、3番目はショウ、そして信二は4番目になった。そしてウッドリアは5位に食い込んでいた。娘をかけて信二と張り合おうというのだから自然と気合が入っている。後ろから信二にバトルを仕掛けるようだ。


 ◇


 その夜、宿舎でミーティングが行われた。ボンド国のマシンに大きな危機感を持ったからだ。


「とにかくマイケルをマークしろ! ボンドの新型マシンの性能は侮れない・・・」


 ボウラン監督が説明する。それを信二はぼうっと聞いていた。彼にはウッドリアのことが気にかかる。娘かわいさにどんなことをしてくるか・・・。


「おい! シンジ! 聞いているのか?」


 ボウラン監督に言われて信二ははっとする。


「しっかりしろ! ボンドのマイケルを何とか阻止するんだ。今回はメアリーは援護に徹してくれ」

「はい!」


 メアリーには周回遅れになったらマイケルをブロックさせるようだ。そこまでしても勝てないかもしれない・・・信二には何となくそう思えた。


 ミーティングが終わって部屋を出るとそこにニコールが待っていた。信二はあれ以来、彼女には会っていない。


「ごめんなさい。父のことで・・・」


 ニコールはいきなり謝ってきた。彼女の表情は暗い。信二は笑顔を見せてあっさり言った。


「気にしてないよ」


 だが彼女の表情は曇ったままだ。


「レース場のことを聞いたわ。父があなたに挑戦したって・・・」

「正々堂々戦うだけだ。でもすごい勢いだったぜ。君はお父さんにかなり愛されて大事にされているんだな」


 信二は冗談めかして言った。だがニコールは笑うこともなく、首を横に振った。


「そんなんじゃない。父は私を自分の思うようにしたいだけ・・・。私もレーシングライダーになりたかった。そのために努力した、でも父がすべてを取り上げてしまった。こんな危ないことをするんじゃないと・・・」


 ニコールはレーシングライダーになることにまだ未練があるようだった。それで信二にレースのことを聞いていたようだった。


「それならお父さんに認めてもらうんだ! 僕に任せてくれ。悪いようにはしない」


 信二はそう言ってニコっと笑った。それでニコールの表情は明るくなった。


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