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第16話 冷却不足

「スピードが乗らない!」


 アクセルを全開にしても同じである。いや、スピードが落ちてきている。マシンの様子も少しおかしい。ガタガタと振動が始まった。


「エンジンが壊れかかっている・・・」


 やはり冷却不足だ。やはりまだこのエンジンが未完成であることを露呈してしまったのだ。信二はそれでもなんとかマシンを走らせた。コーナーでタイムを稼ごうとしても直線のスピードが不足する。

 見る見る間にロッドマンやショウに差をつけられていく。だがそれだけではない。後方からもマシンが迫ってきた。それはマイケルだ。ボンド国のマシンは去年からの改良型だがそのエンジンは信頼性がある。この高温と高速コースでもしっかり動いている。

 マイケルが深くリーンインしてコーナーで抜こうとした。だが信二は何とかブロックして防いだ。それが何度も続く。


「抜かせるものか!」


 だが直線ではトップスピードの差がありすぎた。後ろにぴたりつけられて直線ですっと抜いていく。そうなったらもう追いつけない。マイケルがすぐにかなりの差をつける。信二は4位に落ちた、

 だがそれだけではない。マイケルとデッドヒートを繰り広げたためエンジンの調子がさらに悪くなった。「ボスボス・・・」と嫌な音がして白煙が出ている。パワーもぐっと落ちた。

 すでに9周目に入っている。あと少し持てば・・・。だが信二はサイドミラーに追いかけるマシンを見た。それはルーロ共和国のドロテアだ。水冷エンジンで調子はいいようだ。それが信二に猛追をかける。


「これ以上は・・・」


 信二は手負いのマシンでなんとかもがいていた。だがますますエンジンのパワーが落ちていく。もう止まる寸前だ。それをあざ笑うかのようにドロテアが抜いていく。そして後から後続のマシンが迫る・・・・。



 レースはロッドマンが逃げ切った。ショウの追撃を振り切ったのだ。3位にはマイケル、4位にはドロテアが入った。過酷なレースでリタイヤするマシンが続出していた・・・。

 結局、信二はなんとか5位に入った。エンジンをもたせて後続のマシンにこれ以上は抜かせなかったのだ。


(この状況でポイントが2点入ったからよしとしなければならないか・・・)


 信二はそう思いながらピットに戻ってきた。その時にはエンジンは完全に壊れて止まっていた。ボウラン監督がそばに来た。


「シンジ。残念だったな」

「ええ、エンジンさえまともに動けばもう少しなんとかできたのですが・・・」

「このコースでは仕方がない。メアリーはエンストでリタイヤだ。他の国のマシンもリタイヤが出ている」

「この次は何とかします」


 信二はそう言った。ピットの奥ではメアリーが椅子に座って顔をうつむけている。かなり落ち込んでいるようだ。


「メアリー。しっかりしろ!」


 信二は声をかけた。メアリーは顔を上げた。


「レースが始まってエンジンがすぐに焼き付いたの。全く走れなかった・・・」

「大丈夫だ。次がある。切り替えよう」


 信二はポンポンとメアリーの頭を軽く触った。また自信を失っているようだ。今夜あたり、また慰めてやらねばならない。


(次はリモールGPか・・・今度は負けない!)


 信二は雪辱を誓った。


 ◇


 次のリモールGPまでは日がある。信二たちはマービー国に戻った。だがのんびりしていられない。MB4気筒エンジンをさらに改良して耐久性とさらなる性能アップを目指さねばならない。

 信二はマービー国のマシン開発工場に滞在することになった。そこで改良したエンジンをマシンに載せてチェックすることになったのだ。

 そこの開発責任者はアイリーンという30過ぎの女性メカニックだ。ダブついた白衣にひっつめ髪に大きな眼鏡をかけている。見た感じはリケジョという感じだ。


「信二です。よろしく」


 信二は右手を出したが、アイリーンはそれを無視して言った。


「改良したエンジンをマシンに積んでいます。問題点を洗い出すため、早速、走ってください」


 信二には何か上からで冷たく聞こえる。それでも気を取り直して工場のコースを走ってみた。ここのコースはいくつかある。今、走っているのは直線を主としたコースだ。そこをずっとスピードを上げて走ってみる。最初は調子がいい。エンジンがスムーズに動いている。だが・・・。

 5周を越えたところから少しおかしくなってきた。スーツカGPの時と同じだ。やはり直線が多いコースでは冷却不足に陥ってしまう。信二はピットに戻ってきた。


「どうかしましたか?」


 アイリーンが眼鏡を指で上げながら聞いてきた。


「5周を過ぎたところからおかしくなった。前のレースの時と同じだ」

「そうですか。得られたデータでもそう出ています。まだ改良の余地がありますね」

「俺が乗った感じでは・・・」

「ご意見は結構です。データが出ていますから。これから工場に戻します。では明日また」


 アイリーンはそれだけ言って行ってしまった。あとはマシンをメカニックが工場に運んでいく。一人残された信二は仕方なく工場の敷地内にある宿舎の一室に戻るだけだ。そんな日々が続いていく。

 マシンは改良されたようには感じない。やはり冷却不足が続く。それにアイリーンの態度が信二には気に食わなかった。ライダーの意見を聞こうともせず、マシンから得られたデータを見ているだけだ。


「ちょっといいかな? 小手先の改良ではなく・・・」

「ご意見は結構です。冷却に必要だと思う手を試しています」


 けんもほろろだった。それで今日もまたアイリーンは引き上げようとした。信二の目には彼女は全くやる気がないように見えた。



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