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第10話 勝利の行方

 ショウは信二の少し前を走っている。このままでは勝てない。だからコーナーで少しずつでも挽回するしかない。コーナーでは信二の方が優勢なのだ。それで徐々にショウに近づき、コース半ばで真後ろにぴったりつくことができた。


「よし! これからだ!」


 信二はなんとかコーナーで抜こうとするがショウがブロックする。このまま最終コーナーまでブロックし続けるつもりらしい。


「こうなったらあれをやるしかない!」


 信二はさらにコーナーを攻めることにした。ハングオンスタイルで・・・。ホバーマシーンの安定性からは難しかったが、これをきめるしかない。コーナーでマシンの内側にぶら下がり曲がっていく。

 それでショウの内側インに間一髪、入ることができた。コーナーでは内側インについた者が優先だ。信二はそのまま抜いていく。トップをようやく奪い返したのだ。あとはこのハングオンスタイルでリードを広げていくだけだ。

 ショウは必死に追いかけてくるが差は広がっていく。やがて最終コーナーをすぎて目の前に直線が広がっていた。その先にゴールがある。


(アクセル全開だ!)


 マシンは嫌な音を立ててガタガタと振動する。だが信二はそのまま飛ばし続けた。そしてゴールした。


「やったぁ! 勝ったぞ!」


 信二は叫んだ。苦労して得た勝利は何ものにも替えがたい。観客が勝者に惜しみない声援と拍手を贈っていた。


 信二はピットに戻ってきた。ボウラン監督をはじめスタッフが信二のもとに集まる。


「おめでとう!」

「やったな!」


 皆が祝福してくれる。初優勝、しかも地元だから喜びもひとしおだ。そしてメアリーもピットに戻ってきた。彼女もがんばって5位入賞を果たした。


「よくがんばったな!」

「ありがとう。シンジのおかげよ!」


 メアリーはまた抱きついてきた。これにはいつも信二は面食らってしまう。


 そこにアドレア女王も観客席から降りてきた。


「シンジ。おめでとう。あなたの走りを見ていたわ」


 シンジはあわててメアリーから離れるとアドレア女王のそばに行った。


「ありがとう。君のために走ったよ」

「約束を守ってくれたのね。これからも頼むわ」

「それならそうと何かご褒美があっていいんじゃないか? 勝利の女神のキスとか」


 信二は冗談交じりにそう言った。


「そうね。ご褒美を挙げなくては。目を閉じて」


 信二は少しワクワクした。こんな公の場で女王様がキスをしてくれるとは・・・。相手の腕が首に回り、唇に柔らかい感触があった。紛れもない女性の唇だ。周囲から歓声が上がる。気になってそっと目を開けると・・・


(えっ! これは!)


 キスしているのは侍女のサキだった。驚いて振り払う。


「シンジ。何を驚いているの」

「いや、ちょっと・・・」

「私からのご褒美はサキに頼みました。よかったかしら。フフフ」


 アドレア女王はそのまま手を振って行ってしまった。サキはニコリと笑うとその後を追って行った。


(やはり女王様は相当なタマだ。うまくはぐらかしやがった。それにしてもサキは最初会った時は地味だったのに、最近は化粧までしている。男でもできて色気づいたのか・・・)


 そんなことを考えているとメカニックのブライアンがそばに寄ってきた。


「おい、モテ男! 女王様でも口説こうっていうのか?」

「そんなんじゃない」

「やめとけ。それより今夜、優勝パーティーがある。美人がより取り見取りだぞ。ハハハ」


 ブライアンは笑いながら信二の背中を叩いた。


(まあ、前の世界でもパーティーがあったが、そんなことをしていられなかった。偉いさんやスポンサーのご機嫌取りなんだろうな・・・)



 表彰式も前の世界と同じだった。表彰台に1位から3位までが昇り、メダルをかけてもらってシャンペーンらしき酒をラッパ飲みする。

 表彰台ではショウが声をかけてきた。


「シンジ。おめでとう」

「ありがとう。ショウ。すごい走りだった」

「君こそ。だが今度は負けないからな」


 3位はボンド国のマイケルだ。前半に信二に大きなリードを許したため、追いつけなかったのだ。油断があったのだろう。


「シンジ。おめでとう。次を楽しみにしている」


 マイケルはそう言って信二と握手したが、その目は笑っていなかった。


 ◇


 高級ホテルを貸し切って優勝パーティーが行われる。もちろんスポンサーからの厚意だ。どこかのお偉いさんとか、金持ちの商人とか多数、駆けつけてきたから会場はごった返していた。


 信二はボウラン監督にいろんなところに引っ張りまわされて、あいさつとご機嫌取りをさせられる。


「このチームを支えてくれるスポンサーだ。出資してくださるようにお願いするんだ。チームのためだからな」


 そう言われて来たから仕方がない。この世界のレーシングチームも厳しいことに変わりはない。適当にスポンサーたちと話をしていると遠くから見つめる視線を感じた。

 振り返ると若い女性が信二を遠くから見ていた。ドレス姿のすらっとした美人だ。どこかのスポンサーの娘かもしれない。その瞳は澄んで輝いていた。


「ちょっとすいません」


 信二は席を外してその女性のところに行った。いきなりのことで彼女は驚いていた。


「シンジさんですよね。あなたのファンです」

「ありがとう。僕もだ。君の美しさに見とれてしまった」

「まあ!」


 その女性は笑っていた。清楚なお嬢様という感じだった。


「ところで君の名前は?」

「ミシェルよ。シンジさん」

「シンジと呼んでくれ。こうして出会ったのだから話がしたい・・・」


 すでに信二のペースだ。前の世界でもこうして口説いてきた。このまま1時間もすれば・・・。


 信二はミシェルを部屋に連れ込んでいた。このホテルの部屋も信二のために取ってくれていたのだ。部屋に入ると口づけをして、服を脱がしにかかる。

 ベッドの中でもミシェルは清楚さを失わず、恥ずかしそうに信二の相手をしていた。それがたまらず、信二はレースの疲れを忘れて彼女に没頭した・・・。

 朝になって目覚めると彼女の姿はなかった。時間を見るともう10時になろうとしている。窓から外を見ると日の光がやけにまぶしい。


「いい女だったな・・・」


 信二にはそんな感想しかない。するとドアを激しくノックする音が聞こえた。


「何だ? 朝っぱらから・・・」


 ドアを開けるとボウラン監督が立っていた。


「とんでもないことをしてくれたな!」


 その顔は怒りで真っ赤になっていた。


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