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第1話 最終戦

いよいよ始まります。異世界に転移することになったレーシングライダー内海信二の物語です。女たらしですが・・・。

 雲一つない青空の下、真紅のバイクが鈴鹿サーキットを疾走していた。コース上の他のバイクをあっという間に抜き去っていく。エンジンは快調で次々に最速ラップタイムを叩き出していた。


「やるな! やっぱり信二だ!」


 荒木レーシングチームの大島監督は手を打って喜んだ。全日本ロードレース選手権はここ鈴鹿が最終戦となる。ここで勝つと今年度の総合優勝が決まる。今日は最終予選だ。少しでも速いラップタイムを出して、いいスタートポジションを取らねばならない。


 しばらくしてピットにマシンが帰ってきた。ヘルメットを取るとエネルギッシュな精悍な顔が現れる。その体は筋肉質だが細くてしなやかだ。彼がこのチームのエースライダーの内海信二である。マシンから降りるとすぐに興奮した大島監督が駆け寄ってきて声をかけた。


「信二! よかったぞ。これで本選は多分、ポールポジションだ!」

「まあ。当り前ですけどね」


 信二はヘルメットを脱いで「ふうっ」と息を吐いた。いいタイムを出しても彼は冷静なままだ。


「本選でも気を抜くなよ!」

「わかっていますよ」


 そう言いながら彼の視線は奥に向けられていた。そこには見学に来た若い女性たちであふれている。美しく着飾った彼女たちが男くさい戦場に華やかな色彩を添えてくれているのだ。その中の一人は・・・レースクイーンの梨沙だ。コートを羽織っていてもそのなまめかしい体の線は隠せない。

 信二は彼女にウインクした。すると梨沙もサングラスを外してウインクを返してきた。これで信二の今夜の相手が決まった・・・。


 その夜、信二は梨沙を抱いた。これで過酷なレースのことをしばし忘れさせてくれるはず・・・。だがその最中でも彼の頭の中ではレースのことを考えていた。快感にむせぶ女を見ても彼はどこか冷静だった。


 朝になり、信二はベッドを抜け出した。そのベッドにはぐったりと死んだように眠り込んでいる梨沙がいる。彼は彼女の方に目を向けることもなく、カーテンを開けた。日の光が部屋に差し込んでまぶしいほどだ。窓からは朝日に照らされた外の景色が広がっている。彼は「ふうっ!」と息を吐いて窓からある一点を見つめた。そこに彼が戦う鈴鹿サーキットがある。


「優勝すれば後は世界だ。来年は世界で暴れてやる! そして世界MotoGP制覇だ!」


 彼は自分に言い聞かせるかのようにつぶやいていた。


 ◇


 本選ではやはりポールポジションだった。エンジンを咆哮させてじっとスタートを待つ。この緊張感はいつしか彼にとって快感になっていた。このワクワクした感じはこのとき以外に感じたことがない。やがてシグナルが変わり、信二の真紅のマシンが真っ先に飛び出した。


 マシン自体の性能はメーカーのワークスチームの方が断然上だ。プライベートチームの荒木レーシングチームではこれが精一杯のところだ。あとは信二のテクニックにかかっている。


 コーナーを華麗なハングオンスタイルで攻めてタイムを縮めていく。その積み重ねだ。彼は精密機械のように正確にラインを走っていく。それにはライバルたちは追いつけない。みるみる差がついてくる。


 しばらく周回を重ね、ピットサインを見た。ライバルチームからの差はかなりある。あとは流していても勝てる。信二にようやく余裕が生まれた。


(優勝は見えてきた。今日の相手は誰にしようか・・・マキか、それともマリか・・・)


 そんなことを考えていると彼の前に周回遅れのマシーンが立ちふさがってきた。マシントラブルを起こしているらしくふらふらしている。


(危ない! こいつに巻き込まれたら終わりだ)


 信二は落ち着いて外から抜いていこうとする。だが急にその前方のマシンが転倒した。コース上を滑っていく。あらかじめ外にコースを取っていた彼は何とかブレーキをかけてそれを避けることができた。


(何とかよけられた・・・)


 しかしほっとしたのは一瞬だった。後方から周回遅れのマシーンが突っ込んできた。ブレーキをかけているようだが間に合わない。猛スピードで信二のマシンに衝突した。信二は「ガチャーン」と大きな音とともにかなりの衝撃を後ろから受けた。


「うわあ!」


 マシンもろとも信二は飛ばされた。コース上を何度もバウンドしていく。信二はそこで過去の女たちを見た。


(ユミ・・・マイ・・・サラ・・・カオリ・・・アイ・・・ケイコ・・・ユイ・・・)


 女たちは信二に微笑みかけていた。


(これが俺の走馬灯という奴か・・・俺は死ぬんだな)


 信二は何となくそう悟った。だが女たちに未練はない。どうせ一期一会、その場限りの大人の関係だ。だが・・・。


(あと少しだったのに・・・世界MotoGPに出場して優勝するまで・・・)


 彼の夢はここで儚くも潰える。彼はそれが心残りでしかない。


(くそっ! 俺の命がもう少しあったなら・・・。誰か助けてくれ! 俺を生かしてくれ!)


 信二は薄れゆく意識の中でそう祈っていた。だが彼の願いはかなえられなかった。彼はコース上で自分のマシンに押しつぶされて即死した。マシンから出た火が燃え盛り、彼の亡骸を魂ごと焼き尽くそうとしていた・・・。




死んだ信二はこれからどうなるのでしょうか? それは次回に!!

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