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君と見た花園  作者: 蒼雲ふい
桜色の春
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9/12

欲望

 

          ***


 涼が完全に眠りに落ちた頃、僕は近くにある小川に来ていた。

 「__灯様」

 僕が呼んだのは、今こうして僕に最高の時間をくださっている神様の名前。

 「莉紅、其方そなたは今しあわせか?」

 「はい。この上なく今しあわせです。」

 聞こえるのは声だけ。姿を常人の魂を持つ者には見せないのが、灯様という神だった。

 「莉紅、其方はこれまでとても頑張ってきた。それは我も知っている。しかし__」

 「分かっています。この時間は、そう長くは続かない。そうですよね?」

 灯様が言い淀むとは、そういうこと。言葉遣いも態度も堂々としているが、本質は人間思いの優しい神様なのだろうと失礼ながら思っている。


 「そうだ。だが、しあわせは短く、それだけで人生に光を灯す。だからこそ尊く、貴重なものだ。それを分かっているから、人々はいつの時代においてもしあわせを求める。それがこの世の道理。だからこそ、偏りすぎてはいけないのだ。これも神々の采配。どうか分かってくれ。」

 「ありがとうございます。灯様、貴女様の慈悲がなければ、私は今こうしてこんなにしあわせな思いはしていないと思います。今が代替のきかない大切で、奇跡で、有限の時あると心に刻んでいるつもりではいます。ですから、そう気に病まないでください。」

 「莉紅、其方は真っ直ぐ過ぎる。綺麗過ぎるほどに。だが莉紅。だからこそ私は其方の願いを叶えたいと思ったこと、くれぐれも忘れないように。我らは人間を信じたいと強く思っていても、信じ切ることは許さないのだ。本当に、すまない。それではの」

 「はい」

 灯様と自分のために、これ以上ないほどの笑みを浮かべる。

 僕の返事に灯様は優しく、それと同時に灯様の葛藤が垣間見える笑い声を微かにこぼし、去っていった。

 

 しあわせは、有限。

 僕がどうしても叶えたかったこと。この魂が、記憶が、思いが完全に消えてしまうまで。あとどれぐらいの時間なのか。まったく分からない。知る由もない。でも、この思いが消える日など来ない。そうあって欲しい。

 

 どうか貴女には最後まで笑っていて欲しい。ありがとう、と伝えたい。出来ることならば、さよならは言いたくない。また会えると信じていたい。信じさせて欲しい。

 そんな僕の、貴女には絶対に知られたくない欲望。

 消えたくない。傍に居たい。叶わないと分かっていても、願わずにはいられない。

 

 どうか、許して。

 誰にも聞こえない醜さを密やかに吐いた夜。

 星はいくら探しても、もうどこにも見えなかった。

 

 夜が明ける。陽の光は、何もかも知っているかのように、ただ僕たちを照らし続けていた。

 戻らないと。この世界で一番、大好きな貴女のもとへ。

 

 しあわせは、有限。だからこそ、美しく儚いと人々は言うのかもしれない。






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