月子とはいえ、十度や蘇卯にインセンティブ
ある昼下がり、彼はやって来た。
「あー、これは佐々木だ」
繁田がそう言った。彼は今年五〇になる。職業はサラリーマンで私とは小学校からの腐れ縁だった。
「だろうな」
私はそう言った。そう言わざるをえなかったのだが、これが中々時間が掛かってしまった。
街の景色が黄昏時に姿を変え、銀杏横丁を通り過ぎ、コンコルド広場を渋色に濡らす。手摺に寄りかかる若者はチェーンブラウンの横顔で、女は股ぐらを濡らしながら自慰行為に耽っていた。耽溺する銀色。みかん畑に吹き荒ぶ空っ風はシルバーホワイトの色をしていた。
古びた扉を開ける。埃まみれのテーブルクロスに寄りかかりながら気怠そうな眼差しを向けながらロッキングチェアーの女が私達に色目を使う。
「いらっしゃい」
彼女はそう言った。ピンク色のシーザーサラダ、貝割れ大根は水色で私たの副交感神経を黄色に染めながら金色に染まっていた。
「……例のものを」
繁田がそう言う。
「はい、」
女がテーブルの上にエーブルを置く。エーブルは赤く、虹色に熟れていた。
「ありがとう」
私はそう言うと、繁田と一緒に外に出て行った。
空は青く、晩餐会のように美しかった。