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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢なので、溺愛なんていりません!  作者: 美依
第三章

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本年もどうぞよろしくお願いいたします。

うっかり更新を忘れるところでした…


 控え室を出た足で、候補者のお披露目会場である大講堂へ向かうつもりでいると、まさかの人物にアレクシアは遭遇する。素朴な印象を受ける顔の、眉尻を下げたナタリーだ。


(ここで会うんだ)


 互いに与えられた役割的には正しいのかもしれないが、トラブルの予感がした。


「ロシェット様、またジェフリー様を追いかけ回しているのですか」


 挨拶もなく、ナタリーが感情をぶつけてくる。責めるようでありながら、悲しみも感じさせるところはさすがヒロインだ。


 無作法を咎める気持ちよりも、いまだにそんな印象を持たれているのかとアレクシアは胸が痛む。行動を改めてはいるが、一度貼られたレッテルを張り替えるのは本当に難しい。自業自得ではあるが、複雑な心境だ。


 軽く息を吐き、アレクシアは気持ちを切り替える。


「私に、どう答えてほしいのかしら?」

「え」


 聞く耳を持たない相手には、どんな言葉も意味がない。


 何を言っても反論されるだけなので、無駄なやりとりをする羽目になる。その流れで以前ルイジにしたように、ヒロインにも正論をぶつけて追い詰めると、悪役令嬢が虐めたことにされそうだ。


 本当にこういうところが解せない。


「あなたの望む答えで構いませんわ。正しいかどうかは殿下にご確認くださいね」


 面倒なので、ジェフリーに丸投げする。他者を貶めなければ成立しない真実の愛など鼻で笑いたくなるが、それがヒロインの世界の真理ならば好きにすればいい。害が及ばない限りは放っておく。


 ただ今回に限っては、頼まれ役割を全うしただけなので、アレクシアが悪者になることはないはずだ。


「では、ごきげんよう」


 反応が想定外だったらしく、困惑を滲ませるナタリーを無視してアレクシアは立ち去る。マナー違反に苦言を呈すことも放棄した。努力する気のない者に対しては、これもまた無駄な労力でしかない。


「アレクシアはほんと、妙なの引き寄せるよな」


 そんなフェルナンドの微かな呟きが聞こえる。

 否定できないのが悔しい。だからといって同意するのも嫌だった。


「どうせなら、いい男が引っかかればいいのにな。あんな風にベタ惚れっ――」


 反射的に、色々な抗議を込めてブレスレットをたたく。

 少し遅れて、アレクシアは疑問が浮かんだ。あんな風に――を探すよう、周囲に視線を走らせた。


 すぐに見つける。太い柱の傍らに、近い距離で話している生徒たちがいた。

 赤く染められた薔薇も視界に入る。仲が良いなと微笑ましく思った二人は知り合いで、ディアナとラウルだった。


 ラウルがディアナへと向ける眼差しから、フェルナンドが言ったベタ惚れにアレクシアは納得する。正式に婚約してしまえばいいのにと思うが、家の方針があるのかもしれない。大人の思惑は厄介だ。


 二人で過ごす邪魔をしないよう気配を消して通り過ぎようとしたのだが、見た目がもう存在感たっぷりのアレクシアはあっさり気づかれてしまった。


(その他大勢になれない姿でごめん!)


 心の中で謝罪して、二人と挨拶を交わす。

 気づかない振りをしてくれて良かったのだが、公爵家のアレクシアを無視するのは心情的に難しいのも理解できた。


「ロシェット様は大講堂へ向かわれるところですか?」

「ええ。お二人は行かれないのですか?」


 参加は強制ではないので、行かなくても問題ない。


 これから大講堂のステージで行われるのは、事前投票で選出された人たちの紹介だ。ウサギの耳カチューシャと仮面を用意したのもショーの意味合いが強く、観客である生徒たちに娯楽として楽しんでもらうためだった。


 そういったものに興味がない。薔薇を渡す相手がいる。二人で過ごす時間の方が重要だ。など各々の事情もあるので、順位予想の投票だけをすることもできた。


「行こうか、と話していたところです」


 ディアナが傍らへ視線を送ると、ラウルが頷く。

 相変わらず控えめで、付き添うような雰囲気だ。交流会に参加する個性が強い顔ぶれと比べると、苦労人タイプに見えた。


「ロシェット様は、今回の行事はご不快ではないのですか?」


 気遣うような、ディアナの眼差しを受け止める。なんで不快? 楽しみだけど――と疑問が浮かび、少し遅れて理解が追いつく。


 以前のアレクシアならば、ジェフリーへと向けられる他人の好意が面白くなかったかもしれない。恋心を返品してからは、付随することを失念しがちだ。どうでもいいとも言えた。


「実は、私の案なんです」

「ロシェット様の……」


 わかりやすく、ディアナが驚いている。会話に入ってこないラウルも、似たような反応だ。


「生徒会から花の祝祭日の手伝いを頼まれまして。薔薇を渡す相手がいない方も楽しく過ごしていただけるよう考えてみました」

「そう、なのですね。素敵ですわ」


 納得してもらえてほっとする。これで少しは認識が上書きされたと思いたい。

 黒歴史よ滅びよ! と、アレクシアは叫びたくなった。


「レーマン様の薔薇は、とても情熱的ですわね」


 相手の髪や瞳の色に合わせて染める人が多いけれど、愛情を伝える色を選ぶ人もいる。赤を選ぶなど、いつも空気のようにディアナに付き添っているラウルの意外な一面だ。


「僕の気持ちが伝わってほしくて」


 アレクシアに答えているようでいて、その実ディアナへと向けられた台詞でもあった。


「伝わっていますわよ、きっと。ねぇ? レーマン様」


 微笑むディアナにつられるようにアレクシアも口元を緩め、ふと真紅の薔薇を持つ手に目がいく。


 手袋をしていた。学園でしている人はあまりいない。


「実は、手がかぶれてしまいまして。治療中なんです」


 視線に気づいたディアナが、手袋をしている理由を教えてくれる。指先まで美しく保つよう手入れする貴族家の娘として、隠したくなる気持ちがわかった。


「お大事にされてくださいね」

「お気遣いありがとう存じます。そろそろ時間になりますね」

「ええ、講堂の方へ参りましょうか」


 そう遠くない距離を、三人で移動する。開かれていた扉から足を踏み入れた大講堂は、ざわめきに満たされていた。


 登校時から浮き立つような空気を感じていたが、今はそれが顕著だった。


 ディアナたちと別れる。一人になったが、周囲にこれだけの生徒がいれば無駄に絡まれないはずだ――と考え、まるで嫌がらせを受けるヒロインのようで解せない気分になった。


「アレクシア様」


 声の方へ、アレクシアは視線を向ける。預けていた薔薇を手にしたジェイニーとアリアーナがいて、探す手間が省けた。わかりやすい場所で待機し、待っていてくれたのかもしれない。


「準備の方は、もうよろしいのですか?」

「ええ、私の役割は終えました」


 後は花の祝祭日のイベントを楽しむ、一生徒でしかない。

 薔薇と順位予想票をジェイニーから受け取り、三人でステージに近い席へ移動した。


 座席の指定はないが、王侯貴族が通う学園なので暗黙の了解はある。おかげで、遅く来たにもかかわらず最高の場所だった。


 両手に花で軽い雑談をしていると、司会進行役の生徒会役員がステージに姿を見せる。仮面をつけて、シルクハットを被っていた。


 ステージの中央で、軽く帽子を持ち上げ挨拶する。これもアレクシアの案だ。せっかくなので、司会役にも特別感を出してみた。


「皆様、お待たせいたしました。これより花の祝祭日、特別イベントを開催します」


 自然と、歓声が上がる。これからの流れがわかっていても、アレクシアはわくわくしていた。


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