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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢なので、溺愛なんていりません!  作者: 美依
第三章

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 花の祝祭日に向けて準備は着々と進んでいる。生徒会から行事の変更に関しての説明もあり、女生徒に候補者選びの投票を促すと、目を輝かせて誰もが真剣に悩んでいた。


 男子生徒も、選ばれるかもしれないとそわそわしている。例年とは違う行事への期待値は高く、学園内には楽しげな空気が流れていた。


 対価のスイーツたちがアレクシアを褒め称えてくれるような日々の中、まったくもって乗り気になれないサヴェリオのお見合いの席に、着飾って出かけるなど苦痛でしかない。


 家族揃って、面倒くさい気持ちが顔に出ていた。


 縁談には当然、断りの連絡を入れている。

 それなのになぜか、顔合わせの場所と日時が送られてきた。


 握りつぶされ、今にも燃やされそうな手紙をアレクシアは回収し、側妃の愚行の証拠としてすぐにでも提出できるようにしている。ロシェット家の都合を無視して設定された約束など反故にしても良かったのだが、不当にそれを責められるのも面白くなかった。


 仕方なく指定されたレストランで食事をしようと決めたのだが、家族で出かけるにあたって、アレクシアを着飾らせなくてどうする! と団結した二人の指示によって完璧な装いに仕上げられた。


「まるで見合いの当事者みたいだな」


 誰が主役なんだろう、と似たようなことを考えてはいたが、他人事で呑気なフェルナンドに苛つく。


 不本意な外出を強制されたので、今のアレクシアは理不尽の塊だ。捕まえてもふもふ腹に顔を埋めてやろうとしたのだが、察したマリッサに化粧が落ちるからと止められた。


 仕方なく、フェルナンドには猶予を与えることにする。忘れた頃の方が、警戒心も緩んでいるはずだ。


「しっかし、この家に入ろうとかすごいな。その母親と娘」

「そうよね。公爵家なんて常に人の目に晒され評価され、背負う物が重いのに」


 呆れたような眼差しを、フェルナンドに向けられる。正しいことしか言っていないアレクシアは、理由がわからなかった。


「まあ、そんな常識もなさそうだけどな。それよりも、アレクシアを中心に回っているこの家に、部外者がそう簡単には入れないだろうってこと」

「ああ」

「俺だって姿を見せる決心がつかないのにな」


 やれやれ、と嘆息する猫の姿に気持ちが少し落ち着く。

 後でお礼に撫で回してあげようとアレクシアは決めた。


「ま、厚顔無恥な親子を眺めるのも面白そうだな」


 まるで観劇を楽しむ客のようなフェルナンドは、ブレスレット姿で同行を決める。本当に、良い身分だ。


 玄関ホールで二人と合流し、装いを褒め合い馬車に乗る。急がなくていいとサヴェリオが御者に指示を出し、失礼にならないぎりぎりの時間にレストランへ到着した。


 予約はコーラル伯爵家で入っており、来店は伝えていなかったのだが、ロシェット家の馬車に気づいた従業員が、急ぎ支配人へ知らせに走ったらしい。


 最後に馬車からアレクシアが下りる頃には現れて、丁寧な挨拶と支配人直々の案内を受ける。責任者がいてちょうどいいと、サヴェリオは謝罪をした上で料理の提供時間の短縮を頼んでいた。


 支配人が開けたドアから、高級感漂う室内に入る。さりげなく置かれた美術品も優美だった。


 すでに到着していたコーラル家が立ち上がり、迎えてくれる。不躾な視線がサヴェリオとレイモンドへ注がれ、『この人たちと家族になれるの!?』そんな母親と娘の喜びの声が聞こえた気がした。


 満面の笑みを浮かべた二人は、自分たちに都合の良いことしか見えないらしい。ロシェット家の真逆な表情、よそよそしい態度に気づいていなかった。


 向かい合わせで席に着くと、見合いから連想したししおどしの音がアレクシアの脳内で再生される。けれど室内には、冷え冷えとした空気が流れていた。


「あの――」


 コーラル伯爵夫人が唇を開いたタイミングで、サヴェリオの指示通りに料理が運ばれてくる。食前酒を手に、歓談の時間は省略だ。


(さあ、料理を楽しもう)


 アレクシアはフォークを手に取る。会話に気を遣わなくていいので、楽と言えば楽だ。


 通常よりも早いペースで運ばれてくる料理を、黙々とアレクシアは口に運ぶ。傍らのレイモンドも、向かいに座る人たちなどいないものとしていた。


「レイモンド様は剣術が得意とのことですが、将来は王国騎士団へ?」

「いえ」


 冷ややかな態度を物ともせずにカレンは話しかけ、あしらわれている。普通だな、以外の感想がない伯爵夫人は必死にサヴェリオにアピールしているが、こちらも相手にされていなかった。


 母娘とも、アレクシアのことは眼中にないらしい。

 策もなく、目先の欲に囚われていた。


 社交界でサヴェリオとレイモンドにアピールする女性たちよりも、立ち回りが下手すぎる。攻略の鍵は、二人が空気のように扱うアレクシアだ。周知の事実であるそれにすら気づけず、公爵家の一員になりたいなど高望みしすぎだ。


 前向きな顔合わせの席なら娘として最悪の状況だが、美味しい料理を楽しむには雑事に煩わされず快適でしかない。ブレスレットのフェルナンドが、ずるいずるいと叫ぶ声が聞こえるようだった。


「――どうかしら? アレクシアさん」


 伯爵夫人に名を呼ばれ、アレクシアは声の方に意識を向ける。先ほどまでは、いかに自分たちが素晴らしいかをアピールするばかりで、意見を求められるような会話ではなかったはずだ。


 料理を堪能しながら、頭の中では花の祝祭日の当日案を更に練り上げていたので、まったく聞いていなかった。


「家族が増えるって素敵ですよね! 姉妹だからこそ話せることもあるだろうし」


 とりあえず無言を貫いていると、カレンがはしゃいだ声を上げる。反応の鈍いアレクシアなど気にせず、今度は芝居がかったしおらしい表情を浮かべた。


「でも今は、公爵家の娘として至らないかもしれません。アレクシア様をお手本に努力します。色々教えてください。最高の仲良し家族になりましょうね!」


 カレンが頭の中に描いた未来予想図を、夢見心地で披露する。アレクシアが意識を逸らしている間に、似たような話を延々としていたのかもしれない。


 きっちり料理を食べているロシェット家の面々とは違い、前に座る二人は料理にあまり手をつけていなかった。


(デザートまだなのにな)


 食べ終えてからにしてほしかった。

 けれど話を振られてしまったので、アレクシアは口を開く。


「素敵ですわね」


 声に喜色を乗せて、アレクシアは微笑む。

 ぱあっと、カレンと伯爵夫人が表情を明るくした。


「アレクシア!?」

「……アレクシア?」


 愕然とした眼差しを、サヴェリオとレイモンドから向けられる。珍しく表情を繕わない二人に、アレクシアは笑んだ。


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