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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢なので、溺愛なんていりません!  作者: 美依
第三章

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 次から次へと、アレクシアの心を乱す何かしらがある。凡庸な一日が本当に少ない。こうなると、隣国で有名な占い師に数奇な人生と告げられたアレクシアに、原因がある気がした。


(婚約者候補からの辞退は成功したのに)


 なぜなのか王家と距離を取り切れない。先日は学園にいないはずの第二王子ダニエルが現れてアレクシアをお茶に誘い、昨夜は不機嫌を隠しもしない父サヴェリオから、王家の印の入った封筒で再婚を促す縁談が届いたと聞かされた。


(再婚とか絶対嫌なんですけど!?)


 サヴェリオが選び、望み、再婚するのならばアレクシアも祝福する。決して邪魔などしない。けれど第三者が思惑を持って相応しくない相手を押しつけようとするのは、許せることではなかった。


 第二王子自らアレクシアを誘って成果が得られなかったので、側妃の息のかかった女性をサヴェリオに嫁がせることで家ごと自陣営へ取り込もうと目論んだらしい。


 安易すぎる考えに、レイモンドと共にアレクシアは唖然とした。

 重要な執務を側妃が担うことはなく、普段は着飾り茶会ばかり開いていると聞いていたが、理由が察せられた。


 ――国王、王妃陛下が国を不在にしているのをいいことに、側妃陛下が勝手に動いたようだ。


 国王夫妻は現在、隣国ガルタファル皇国に滞在している。魔の強まる年には、近隣諸国が集まり行われる会議に出席するためだ。


 ――もちろん、私は縁談を受ける気はない。


 再婚などありえないとサヴェリオは断言していて、縁組みは成立しないとわかっているが気分は晴れない。昨夜からずっと、すっきりしないものをアレクシアは抱えていた。


「ロシェット公爵令嬢、少しいいだろうか」


 呼び止められ、アレクシアは軽く驚く。

 考え事をしていたせいだけでなく、つい先日同じ場所で同じように声をかけられたばかりだった。


 ただ今回は、あの日羞恥に駆られながら一芝居打った、仮想想い人であるジェフリーだ。そして今、アレクシアの思考を占拠している王家の人でもあった。


 改めて向き合っても心が弾むような嬉しさはなく、逆に警戒心が湧き上がる。今までジェフリーの方から、友好的な表情でアレクシアに声をかけてきたことなどないと言っても過言ではなかった。眉間に力が入っている表情ばかりが浮かぶ。


「ごきげんよう、殿下。何かご用でしょうか」


 面倒事の予感はするが、反応してしまった時点で聞こえなかったふりも無視もできない。身分制度の頂点に君臨する人には、用件を尋ねる以外の選択肢がアレクシアにはなかった。


「場所を変えてもいいだろうか」


 場所の移動を提案された時点で、嫌な予感の倍率がぐんと跳ね上がる。婚約者候補でなくなり、綺麗さっぱり縁が切れた厄介者扱いしていた貴族家の娘に、王太子が声をかける理由がアレクシアにとって得になる話題であるはずがなかった。


 けれど連打したい断るボタンは見えず、今まで招待されたことのない、王族専用のサロンへ初めて足を踏み入れる。内装はアレクシアが使用している公爵家用とそう変わらない。


 勧められソファに座っても、従者が香り高い紅茶をサーブしてくれても、何の感慨もなかった。


 紅茶は、さすが王族が口にするものなので美味しい。


「時間を取らせてすまないな」

「いえ、王太子殿下のお誘いは優先すべきですので」


 さりげなく、王族の誘いをすげなく断れるわけがないじゃないと伝えておく。それも学園で、誰が見ているかもわからないところでだ。


 婚約者候補を辞退してはいても、現王家の転覆を願っているわけではない。ロシェット家との不和を疑われるのはよろしくない。背負う家の名が重いのは、アレクシアも承知していた。


「手短に話そう。もうじき、学園行事があるのは知っているだろう」

「ええ。花の祝祭日ですね」

「例年とは違う趣向にする予定だ。だから今回に限り、生徒会を手伝ってはもらえないだろうか」


 そうきたか――と、アレクシアは内心でため息をつく。


「シナー会長の指示ですか?」


 賄賂自らの提案なら、快く引き受けると策略を練ったのだろうきっと。

 以前のアレクシアの行動からちょろいカモだと思われているのだろうが、残念ながら手伝いの対価にはなり得ない。


「いや、私が自主的に声をかけた」

「殿下が?」

「今回変更されるのは私が原因だ。だが、例年とは違う催しを考えるのは労力を要する。ただでさえ今は仕事も正常に回っていない。アイディアを出す手伝いだけでも頼みたい」


「先日、会長にも頼まれその場でお断りしました。私も色々多忙な身ゆえ、ご理解いただければありがたいですわ」


 ただ働きなどお断り案件だ。

 やりがい搾取は断固拒否でいきます! と、アレクシアは微笑む。


「ロシェット嬢が暇を持て余しているとは思っていない。だから手伝いの対価を用意しようと思うのだがどうだろうか」

「対価、ですか?」

「ああ。以前交流会で王宮のシェフのスイーツを随分気に入っていただろう。手伝いに来てくれる日には用意する。それとは別に、交流会が開催される日にはロシェット家にも届けさせよう」


 脳裏にぱぱぱっと絶品スイーツの品々が浮かぶ。

 手招きされている錯覚を覚え、アレクシアはぐらぐらと気持ちが揺れる。けれどすぐに、それどころじゃないと己を律した。


「それだけでは目新しくはないだろうから、王族の晩餐でのみ提供されるスイーツも届けさせよう」


(はああ? そんなものでつられる私では――)


 ぐ、とアレクシアは心の中で拳を握りしめる。姿勢を正し、ジェフリーを見つめた。


「アイディアを、とのことですがいくつも出せません。私が提案したものを受け入れるか、拒否してご自身方で考えるか、この二択をご了承いただけるのでしたら今回だけはお受けいたします」


 敗北、の二文字をアレクシアは脳内に掲げる。特別すぎるスイーツの誘惑に負けてしまった。誰がこんな賄賂を考えたんだと、腹が立つやら嬉しいやらで複雑だ。


「それで構わない。生徒会で話し合っているが、これといった代案がないのが現状だ。引き受けてもらえるだろうか?」


 例年通りに開催してしまえば簡単なのに、あえて変更しようとするところが真面目だ。


「……返事を差し上げる前に、一つ質問してもよろしいでしょうか? 行事に関することではないのですが……」

「かまわない。私で答えられることならば答えよう」

「ではお言葉に甘えて。王家は、いつから貴族家の当主の婚姻に関与されるようになったのでしょうか」

「そんな事実はないが」

「ですが、王家の紋が入った封書で、少々強引な文面で父宛に縁談が届きましたが……」


 転んでもただでは起きない! せっかく得た機会だと、状況確認をしつつ王家に謀りを目論んでいる人がいますよとアレクシアはさりげなく伝える。瞬時に把握したようで、ジェフリーの眉間に軽くシワが寄った。


「父は……国王陛下は外遊中であり、王命を出せる者は不在だ。もとより王家は、貴族間の婚姻を強制しない旨を周知し、今もその見解に変わりはない。私のこの答えで大丈夫だろうか」

「答えていただき、ありがとうございます」


 言質は取った! とアレクシアは微笑む。

 王太子の言葉は重い。公式な場ではないとはいえ、従者が証人だ。


「では殿下の提案を承ります。三日後、授業が終わりましたら生徒会室に伺いますわ」

「承知した。助かるよ、ありがとう」

「対価はしっかりといただきますわよ」

「もちろんだ」


 話はそれだけかと確認し、行事についての書類を受け取る。長居は無用とばかりに、アレクシアはサロンを後にした。


(好き勝手してやるわ!)


 決意を新たにし、アレクシアはほくそ笑んだ。


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