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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢なので、溺愛なんていりません!  作者: 美依
第三章

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本日、一迅社アイリスNEOより書籍が発売になります!

氷堂れん先生による美麗なイラスト共に楽しんでいただけたらと思います。

ご都合のよろしい方法、ところでお手に取っていただけたら嬉しいです。



 鋭さのなくなった日差しは、乙女の天敵紫外線に対する策をきっちりしていれば心地好いものでしかない。むしろ気まぐれな雲に隠されると、肌寒さを感じさせた。


 すっかり定番と化した野菜スイーツの試食会も、そろそろ学園内へと場所を移すべきかもしれない。候補をアレクシアが思い浮かべていると、テーブルの中央に置かれたバスケットへひょいっと手が伸ばされた。


「今日のもうまいな」


 ステファノが今ではもう当たり前の顔で、アリアーナとジェイニーと試食の感想を言い合っている。違和感はない。陽キャのコミュ力の高さをまざまざと感じた。


 前世ではバリキャリの綺麗っぽいお姉さんに擬態していたけれど、本物の実力は段違いだった。


「俺までもらっていいのだろうか。アレクシア嬢」


 ア、と驚いたように口を開く者、食べる手を止める者、目を輝かせる者――それぞれの反応を視界に入れつつ、アレクシアは天を仰ぎたくなる。平然とアレクシアの名を呼ぶイアンは、他人に興味がないせいで周囲の反応など気にならないのかもしれない。


(だいたいなんでイアン・キャフリーまでいるの!?)


 ステファノと共に現れたのだが、その理由がわからない。先日かぼちゃプリンをあげたせいで懐かれた? と考えてみるが、イアンが食べ物に釣られるなど違和感しかなかった。

 食べ物の差し入れは、すべて断っているような男だ。


「多めに持ってきているのでよろしければご賞味ください」

「では、ありがたくいただこう」


 躊躇することなく、バスケットに手を伸ばし口に運ぶイアンの姿に、食べ物を勧めるのは幾度目かではあるが、アレクシアの胸の中にうまく言語化できない不思議な感覚があった。


「うまいな」


 お世辞とは無縁そうなイアンに褒められるのは嬉しい。


「だよな! 野菜が入ってるとか嘘みてぇ」


 ぺろりと一つ食べ終えたステファノは、二個目に手を伸ばす。


 今日は店に並べることを意識した、見た目も美しいスクエア状の野菜を練り込んだフィナンシェだ。男性陣には食べ応えがないサイズなので、あっという間にステファノの腹の中にいくつも消えていく。


 社交辞令ではなく本当に多めに持参しているので、女性陣の分がなくなることはない。私の口に入らないなどありえないから、とアレクシアも手を伸ばした。


「イアン、ロシェット嬢に用があったんじゃねぇの」


 それでステファノに同行したのかと、アレクシアは得心がいく。

 けれど、思い当たることはまったくない。


「キャフリー様、私に何かご用でしたか?」

「ああ、これを渡したくて」


 さらりと、いかにも招待状です! の封筒を差し出された。


(待って、なんで無害なハンカチは人知れず渡そうとするのに、招待状なんてやべぇものを人前で渡す!?)


 イアンの基準がわからない。この顔ぶれで噂話を広めるなどしないだろうが、誤解されたままではアレクシアの心情的によろしくなかった。


「こちらは、弟のカイル様からですか?」

「ああ、先日は楽しかったようで必ず渡せと念を押された」


 さりげなく事情を匂わせても、ジェイニーの目のキラキラは変わらない。なぜ、と思ってすぐに『家族ぐるみのお付き合いなのかしら』と、心の声が聞こえた気がした。


(違う、違うの!)


 うっかり察したせいで、訊かれてもいないことを否定できずアレクシアはもどかしくなる。追及して! と願っても、女性陣は微笑むだけだし、ステファノは興味なさそうにフィナシェを頬張っていた。


「確かに受け取りましたわ。カイル様にお返事しますね」


 さあ、今がチャンスよ! 訊いてくれれば答えるからね、とアレクシアは念を送る。動物的な勘が働くのか、ステファノが食べる手を止め口を開いた。


「そういやこの前、俺がこうやってロシェット嬢から菓子をもらってるのを知ったらしい子が、手作りのやつ持ってきてくれたんだけどさ」


 ここで違う話題を振るのかと、アレクシアは愕然とする。運動神経に全振り男子に情緒系を求めても無駄だった。


 もうステファノは放っておくとして、そのうちジェイニーとアリアーナの誤解を解けば良いかと考え、適当に聞き流そうとして、はたとアレクシアは気づく。


(これはもしかして……)


 乙女ゲームのイベント発生かもしれない。

 現金なもので、アレクシアは心を弾ませながら続くステファノの言葉を待った。


「ちゃんと断ったからな」

「……はい?」


 ――おまえが他のやつからもらうなって言ったからな。


 事情を知らない人から見ると、誤解されてもおかしくない台詞をアレクシアに向かって得意げに言うのはやめてほしい。けれど言いたいことは察した。


 おまえのために断ったんだからな、ではない。以前アレクシアに苦言を呈されたので、甘い意識を変えて断った、が正しい。


 忠告を受け止め行動を改めるところはえらいが、言葉は正確に、省略しない、をステファノは徹底すべきだ。


(これだから脳筋は!)


 この場に同席している者たちは、誤解しようがないので許してやることにする。それだけ、ステファノの表情はわかりやすかった。


 お菓子をくれるって言われたけどちゃんと断った! えらい? ねぇ、えらい? と、尻尾をぶんぶん振って褒められ待ちの犬か! とアレクシアは心の中で突っ込む。


 経緯を知っているジェイニーとアリアーナは、ステファノの成長を微笑ましそうに見ていた。


「俺は知らない子だったしさ。菓子はロシェット嬢からもらえるしな」


 にかっと笑うステファノの台詞に甘さはないが、やはりヒロインとのフラグは折ってしまったらしい。


 うあああ、とアレクシアは頭を抱えたくなる。ラブコメみたいなシチュエーションも台詞も、悪役令嬢にはいらないものだ。


(ほんと待って)


 ヒロインと攻略対象者たちのフラグを折るつもりなど、アレクシアとしてはまったく、ほんのわずかな出来心分さえもないのに、結果としてバッキバキに折ってしまったらしい。


 どうせ折るのならば、悪役令嬢の破滅フラグの方を木っ端微塵に跡形もなく粉砕したいのに、なぜ、とくずおれたい気分だ。


 ヒロインが攻略対象者というカモを追い込み漁で捕まえられなければ、なんとなくだが、とばっちりがきそうな予感がするのは悪役令嬢役だからだろうかとアレクシアは遠い目になる。


 役ではなく、もう厄じゃないかと声を大きくしていいたい。ふざっけんな! だ。


(……大丈夫、ステファノを除いてもまだいる)


 目の前で我関せずとフィナンシェを食べるイアンをみて、前途多難、とアレクシアは浮かぶ。


 ガンバレヒロイン、負けるなヒロイン、さあ網をばあっと広げてあなたのカモを捕獲していこう! と見当違いな応援をして、アレクシアは不安に駆られる心をごまかした。


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