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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢なので、溺愛なんていりません!  作者: 美依
第二章

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ざっくりとした話の流れはできたので、二章を更新していきます。

相変わらずストックなどないので、一章よりはゆっくりになるかと思います。

お付き合いいただければ嬉しいです。


 訪れるのは幼い頃以来という不義理をしていたが、祖母であるサマンサはやわらかい笑みで歓迎してくれる。挨拶を交わすと、感極まったかのようにアレクシアをぎゅうっと抱きしめた。


「エミリーに、そっくりになったわね」


 涙の気配がする。ぐ、とアレクシアも胸が詰まった。

 娘のエミリーを早くに亡くし、孫であるアレクシアの足も遠のいたとなれば、サマンサの淋しさはどれほどのものだろうか。


 夏期休暇は母の実家に行きたいとアレクシアが言った時、場所が隣の国にも関わらず、一切渋ることなく同意したサヴェリオの真意に、やっと気付いた。


 ああ、とアレクシアは嘆きたくなる。本当に、今まで愚かだった。


 こんなにもアレクシアを大切に思ってくれる人たちが周りにいるのに、まったく目を向けずに自分のことばかりで。


 恋は盲目と言うけれど、理性や分別は絶対に必要だ。

 特に誰かしらに迷惑がかかるような行動は、慎まなければいけない。周囲をも悲しませ、不幸を生むばかりになる。前世の記憶が甦ったことを、アレクシアは心から感謝した。


(めちゃくちゃ反省!)


 過ぎ去った日々を、取り戻すことはできない。けれど幸いなことに祖父も祖母も健在で、まだこれから時間を共有することはできる。今までの分も、埋め合わせが出来るような滞在にしようとアレクシアは決めた。


「お母様のこと、聞かせてくださいね」

「ええ、ええ。アレクシアと懐かしい話ができて嬉しいわ」


 泣き笑いのサマンサに、甘えるようにぎゅうっと抱きつく。

 伯母であるマドレーヌもまた、快くアレクシアを迎えてくれた。


「伯母様、しばらくの間お世話になります」

「遠慮しないでね。アレクシアちゃんのことは、娘みたいに思っているのだから」


 おっとりと、マドレーヌが笑う。

 穏やかで、肩の力が抜けるような空気をまとっているのは、以前と変わらない。理想の、優しい母親像だ。けれど息子二人の母なので、強い。怒ると本当に怖い。


 幼い頃に、悪ガキだったフィリップが怒られているところを目撃して、かなり驚いたのを覚えている。ふわんとした雰囲気に、気の強さがきれいに隠されていた。


 伯父のジョアサンも、マドレーヌの尻に敷かれているとアレクシアは見ている。伯父の名誉のため、あえて確かめるようなことはしない。


「アレクシアちゃん、移動で疲れているかしら?」

「いえ、転移であっという間だったので」


 ガルタファル皇国に着いてからは、馬車の窓から眺める景色も楽しかった。

 通常一週間以上かかる道のりが一瞬なのだから、魔法とお金は素晴らしい。


「なら、お茶でもどうかしら?」

「それがいいわ」


 マドレーヌの提案に、サマンサが同意する。おっとりタイプのマドレーヌと、きびきびしているサマンサは正反対の印象が強く、馬が合わないように誤解されることが多い。実際の二人は、仲が良かった。


 芯の強いところが、同じだからかもしれない。


「今の時間は、ジェラールがいないもの。帰ってきたら間違いなくジャマされるから、アレクシアとゆっくり話せないわ」


 困ったように、そっと嘆息するサマンサに、アレクシアはハハっと心の中で乾いた笑いを洩らす。祖父のジェラールの反応は、サヴェリオに通ずる物があった。


 この国の現役騎士団長でもあり、大柄で髭を生やしているせいか、熊のような印象が強く残っている。幼い頃は抱き上げられ、頬ずりされ、じょりじょりする感触によく顔をしかめたものだ。


 目に入れても、を体現している。娘が早くに儚くなったことも、アレクシアに対して激甘になる要因の一つだ。


 娘の忘れ形見で、孫で唯一の女の子は、可愛くて可愛くて仕方がないらしい。


「昨夜からずっと、本当に仕事に行かないとダメなのかって、駄々っ子のようだったのよ」


(そんなことをバラすと、祖父の威厳がなくなりますが?)


「お義父様、アレクシアちゃんが来るってわかってから、ずっとそわそわし通しでしたね。今朝なんて、特に……」

「ええ、あの人があんなに浮かれる姿、久しぶりに見たわ」

「アレクシアちゃんと久しぶりに会えるのを、本当に楽しみにしてましたものね」

「そうなの」


 身内二人の反応から、アレクシアは覚悟を決める。不義理をしたのだから、鬱陶しい愛も甘んじて受け止めようと。


「滞在中、どこかへ連れ出されると思うけど、良かったらつき合ってあげてね」

「もちろんです」

「アレクシアに色々買ってあげたいようだから、ここぞとばかりにおねだりするといいわよ」


(それはいいのだろうか?)


 ありがたいことではあるが、アレクシアは戸惑う。

 スペンサー家も資産家ではあるが、女性の物はとにかく高い。ふらりと遊びに来た孫に、つぎ込むのはいかがなものだろうか。


「私も、アレクシアちゃんを着飾りたいわ。やっぱり女の子は可愛いわね」

「それなら、三人で買い物にでも行きましょうか」

「まあ! お義母様、ぜひそうしましょう」


 アレクシアを置き去りに、話が進んでいく。

 止めたいのに、止められない。


 母が居ないアレクシアにとって、母親のような存在は少しくすぐったくもあり、心の奥底では望んでいたものでもあった。


 けれど、母エミリーの代わりが欲しいわけではない。

 仮にサヴェリオが再婚したとして、それは父の伴侶にしかなり得ない。アレクシアの母は、これからも変わらず一人だ。だからこそ、それを知る二人と過ごせる時間が嬉しかった。


「遠慮しないでね。息子二人はかわいげがないからつまらないのよ」


 ほう、とマドレーヌが嘆息する。すこし、ぎくりとした。


 兄のジョシュアの方はもう学園を卒業し、騎士団に所属している。元々紳士的だったので、心配はしていない。


 弟のフィリップはアレクシアの一つ上なのだが、もしかして今も変わらず悪ガキなのかと想像するだけで、アレクシアはげんなりする。どうか、まともに育っていてくれますようにと、祈ることしかできなかった。


「とりあえずジェラールが不在の今のうちに、アレクシアちゃんさえよければ、私たちとお茶をしましょう」

「ええ、喜んで」


 断る理由などない。

 ティータイムにちょうどいい、手土産も持ってきている。もちろん、野菜を使ったスイーツだ。


 アレクシアの出発に合わせて、テリーが焼き上げてくれている。すっかり職人魂に火が付き、野菜スイーツの開発に余念がなかった。


(どうかな? 大丈夫かな?)


 場所をサロンへと移動して、紅茶と共にアレクシアの手土産も並んでいる。説明の後、二人が口に運ぶのを見ながら少しどきどきしたけれど、すぐに二人の表情がぱあっと明るくなった。


「すごいわね。野菜が入っているなんて思えないわ」

「ええ、本当に。あっさりした甘さで、食べ過ぎてしまいそうよ」


 茶会を取り仕切ることの多い年上の女性にも受け入れてもらえ、アレクシアはほっとする。これならば行けそうだと、手応えを感じた。


 同じ甘いスイーツでも、野菜が使われているとなれば食べることに心持ち罪悪感は減る。実際のカロリーの違いなど、素人のアレクシアにはわからないのだけれど。


「実は今、野菜を使ったスイーツのお店を出店しようと計画しているんです」

「まあ!」

「この美味しさなら、この国でも流行るわよ」

「そう言ってもらえて嬉しいです」


 うふふ、と二人に合わせて上品に笑いながら、スイーツを食べ女子会を楽しんでいると、慌ただしく男性陣が帰宅する旨の連絡を受ける。予定された帰宅時間より、かなり早い。


「まさか、仕事を放り出してきたなんて言わないわよね」

「お義母様、ジョアサンも一緒だというし、どうなのでしょうね」


 急ぎサマンサとマドレーヌと共に出迎えると、アレクシアの姿を見た瞬間、ジェラールは泣き笑いで抱きついてきた。


「お、おじい、さま」

「あ、あ、ああぅ」


 何を言っているのか、まったくわからない。


(ちょっと、苦しいんですけど!)


 覚悟はしていたが、ちょっとこれはどうかと思う。

 やっぱり熊だ。


(ギブギブギブー!)


 声にならない声でアレクシアが叫んでいると、サマンサ主導で周囲が引き離し、感動の再会はそれにて終了となる。出迎えただけなのに息切れがし、疲れ切ってぐったりしていると、ジェラールが得意げに早く帰るために訓練で全員を潰してきたというから唖然とした。


(二人でやり遂げた感出してるけど、いいのだろうか)


 そんなアレクシアの心情をよそに、褒めて、褒めて、とねだる二頭の大型犬のようだった。


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