表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢なので、溺愛なんていりません!  作者: 美依
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/77


 全体的な色味と、少しつり上がった瞳のせいか、冷たい印象を受けるもののアレクシアは美しい。


 先ほどからマリッサによって丁寧に櫛を入れられている髪は何をせずともさらさらで、手触りも良く綺麗だ。それなのにアレクシアは、普段からそれはもう見事な縦ロールにしていた。


 特に学園に行くときには、丁寧に時間をかけて巻く。仕上げに崩れないよう、魔法で状態を記憶させていた。


 化粧も、髪型に合わせ華やかな印象を与えるものにする。細身なのに胸はしっかりある身体つきと相まって、仕上がりは凄みのあるゴージャスな美人だ。


 確かに、似合っている。けれど、アレクシアは手を加えないままでも充分美しい。むしろ、華やかな美の武装を解くと真逆で、清楚な美しさだ。


 目の当たりにする、ビフォーアフターに驚くしかない。マリッサの手腕にも、感嘆を覚えた。


 今のところ、素の姿を知っているのは家の者だけだ。前世の記憶が戻った今、皆が知るアレクシアの容姿をどうするか悩む。


 正直なところ、早起きして髪を巻くのは面倒だ。急に見た目を変えて、周りに騒がれるのも同じくらい面倒だけれど。


 今のアレクシアの装いのきっかけは、幼い頃に王城へ遊びに行き、ジェフリーの好みを聞いたからだ。それ以来、常に縦ロールにしている健気さだ。


(ばかみたい)


 まったく興味を示してもらえないのに、とアレクシアは自嘲する。なんで、ジェフリーに執着していたのかはもう覚えていない。好き、だったのかもあやふやだ。


 淡い恋心を抱いていたのは、否定しない。

 彼のためにさらさらな髪を巻き、化粧で印象を変え、好みに合うよう努力した。


 けれどアレクシアが好意を向ければ、嫌そうにされる。それが悲しくて、努力を認めてもらえなかったことが腹立たしくて、ただ意地になっていたのかもしれない。前世の記憶が甦った今では、ジェフリーに対してまったく恋しさなど感じなかった。


 前世の意識の方が、強いのかもしれないと自己分析してみる。恋愛に対する苦手意識は、転生しても消えていなかった。


 だからこそ、今までの自分の所業を思い出すと、アレクシアは羞恥に駆られて息が苦しくなる。いわゆる黒歴史だ。学園に行くのがつらい。行動のすべてが、悪役令嬢の役割を全うしているかのようだった。


 次から次へと浮かぶ、顔を覆いたくなる所業に、アレクシアは慌てて思考を止める。ゴリゴリと何かが削られた。目に見えないけれど、確実に。


 本当に、色々とつらい。


「お嬢様、やはりまだ具合が悪いのでは?」

「もう平気だから、心配しないで」


 またベッドに押し込まれてはたまらない。

 熱が下がったと知ってすぐに、部屋に飛び込んでくるくらい父親のサヴェリオと兄のレイモンドはアレクシアを溺愛している。心配性で過保護な二人は口をそろえ、全快するまでベッドから出るのは禁止だと言った。


 もう熱も下がったから大丈夫だと訴えても無駄で、ベッドから出ていいとお許しが出たのが今朝だ。怠惰にベッドの上で過ごすのは好きだが、おとなしく寝ていなさいは苦痛でしかない。暇だ。思考の整理は一日あれば充分で、熱が下がってもう三日目ともなれば逆に疲れていた。


「学園の方はどうなさいますか?」

「今週は休むわ」


 今日を入れて、残り二日だ。

 以前のアレクシアならば絶対に行っただろうが、今はむしろ行きたくない。できることなら喉に刺さった小骨のように、心に引っかかっている件を解決し、すっきりしてから登校したかった。


 それには、この家の決定権を持つサヴェリオに会わなければいけない。アレクシアの意思を尊重してもらえるとは思うが、言い出すにあたってやはりどきどきする。いくら娘に甘くても、政治的な事柄が絡むと、ことはすんなりいかない可能性もあった。


「今日、お父様とお兄様は?」

「今の時間でしたら、食堂にいらっしゃいます」

「……もしかして、私を待っているの?」

「はい。急かしたくないから、お嬢様には伝えるなと指示されました」


(マリッサ、言ってるよ……)


 本当に、こういうところが好ましい。

 サヴェリオとレイモンドは相変わらずすぎて呆れると、くう、と腹が空腹を訴える。部屋へと運ばれる病人食は、あっさりしすぎていた。


 当然すっかり健康なアレクシアは耐えられず、おやつをこっそり持ってきてもらってはいたが、美味しい食事をしっかり取りたい。まずは久しぶりに、家族そろって朝食を食べることにした。


「食堂に行くわ。支度を急ぎましょう」

「はい」


 すっと、髪を巻くためのコテをマリッサが取り出す。アレクシアが愛用しているものだ。


 当初使っていたものよりも、かなり性能がいい。綺麗にアレクシアの髪を巻くために、どんどんと改良されていった。


 今ではその巻きの美しさと、使い勝手の良さにかなり売れている。恋愛面が残念令嬢ではあるけれど、身分があり美しいので、広告塔としては最高の人材だった。


「巻きますか?」


 侍女の仕事を全うしようとしているが、マリッサの表情から、病み上がりなのだからそのままでも、という気持ちが透けて見える。元々マリッサは、何をせずとも美しいアレクシアを評価しない、ジェフリーに良い感情をもっていなかった。


 もうずっと、人前に出るときは髪を巻いているので、ジェフリーはアレクシアのビフォーを知らないような気もする。今となっては、些末なことだ。どちらでもいい。ジェフリーをフォローする必要性を感じないので、アレクシアはマリッサの誤解を解く気はなかった。


「巻かなくていいわ」

「……はい」


 一瞬目を見開き、わずかな間の後、いつもより弾んだ声が返る。その気持ちは、アレクシアにもわかる。縦ロールのゴージャス美人よりも、大きく手を加えない清楚美人の方が好みだった。


 ささっと、着替えだけ済ませる。急ぎ二人が待つ食堂へ向かおうと部屋を出ると、アレクシア専属の護衛騎士エリックがいて、いつもとは違う姿に軽く目を見張った。


(そこまで驚く?)


 驚くか、とアレクシアはすぐに自己完結する。家でも、あの髪型を維持していたのだから、ギャップに戸惑うのは当然だった。


「体調の方は、もういいのですか?」

「ええ、元気なのにベッドに押し込められていただけよ」


 わかっているでしょう、と言外に含める。サヴェリオとレイモンドの過保護ぶりは、家どころか社交界に周知の事実だ。


 エリックがここにいるのも、アレクシアが久しぶりに部屋を出るからと、迎えに行くようにどちらかが指示を出した。


 食堂に向かいながら改めてエリックを見ると、攻略対象ではないが顔面偏差値が高い。短い栗色の髪は柔らかそうで、大抵実年齢より低く見られる甘い童顔の持ち主だ。


 かなりの実力者なのだが見た目で侮る者が多く、自信たっぷりにエリックに絡んでいき、あっさり返り討ちにされるのを何度か目にしている。剣を抜かなくても強い。


(優秀な人材の無駄遣いよね)


 本来ならば、王族の警護も任されるような剣の腕前だ。

 いいのか悪役令嬢(仮)の護衛で、と思わないでもないが、エリック本人が給金の良さ、公爵家の待遇に満足している。騎士として立てるよう鍛えてくれたサヴェリオに、恩も感じているようだった。


 エリックはいつ没落してもおかしくない子爵家の三男で、通常なら将来の選択肢は少ない。けれど幼い頃にその才を見抜いたサヴェリオが、後援者となる。勉強も必要だろうと学園へと通わせ、その傍ら徹底的に剣術から体術までも仕込み、今の強さを誇る騎士へと育て上げた。


 ロシェット家最強の騎士と評されているが、正しくはロシェット家の騎士ではない。主は、アレクシアになる。有事の際にエリックが優先するのは、ロシェット家ではなくアレクシアだ。


(娘バカここに極まれり、よねぇ)


 優秀な人材を恋に狂う馬鹿娘に渡すから、ゲームでは裏工作を誰も止められなくなる。ただ現在のアレクシアにとっては、心強い味方がいることはありがたかった。



ストックがある間は更新早めです。

なくなった途端ゆっくりになるかと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ