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【書籍化&コミカライズ】悪役令嬢なので、溺愛なんていりません!  作者: 美依
第一章

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 さすがに、連日甘い物を食べすぎだとアレクシアは気付く。

 太らなくても、健康には悪い。最近では、家での食後のデザートも日に日に豪華になっている。喜んで食べるアレクシアを見て、サヴェリオかレイモンドが指示を出したと見て間違いなかった。


 二人もしっかり食べて、感想を言い合っている。同じ血筋なのだから太ることはないと思うが、もしも、を考えるとぞっとした。


 圧倒的な美を、損ねるわけにはいかない! という使命感にアレクシアは駆られる。甘い物を断てばいいだけなのだが、それは嫌だ。


 最近はお菓子を頼むことが多いので、腕を振るえるとパティシエも喜んでいる。やりがいと仕事を奪ってはいけない。これはアレクシアの我侭だけではないと、前世の知識を総動員させ、野菜を使ったスイーツを作らせた。


 多少なりとも罪悪感が軽減されるだろう、という苦肉の策だったりする。この世界の食材は、時々驚くような物もあるが、概ね前世と変わりない。ただ野菜は、料理の食材という認識でしかなかった。


 贅を好む貴族の間では、たっぷりのバターに砂糖、見目も美しいフルーツにクリームをたっぷり使うような物が好まれ、野菜をスイーツにするなど一般的ではない。当然パティシエには怪訝な顔をされた。


 だからといって、アレクシアが引き下がるなどあり得ない。


 ――私の、指示に従えないの?


 悪役令嬢の本領を発揮し、命令で従わせた。


 そしてできあがった試作品が、定番と思われるキャロットケーキとパンプキンシフォンケーキだ。


 ちょっとチャレンジした、ほうれん草のシフォンケーキもいいと思ったが、まずは野菜のスイーツに馴染みのない人でも食べやすそうな野菜からにした。


 テスト範囲が発表になった後で、何をやっているんだろうと思わないでもないが、本当に勉強したくないのだから仕方がない。


(あれだ、テスト前になると無性に部屋の掃除がしたくなる現象)


 前世の学生の頃、勉強しなくてはと思いつつ、部屋を片付け始めることが多々あった。普段は散らかっていても気にもしないのに、本当に不思議な現象だ。


 今世では、アレクシアは自分で部屋の掃除などしない。むしろしてはいけない。だからぎりぎりセーフなところで、スイーツ作りの監修だ。


 好き勝手に指示だけ出す、迷惑なお嬢様に徹した。

 アレクシア自身で作れないことはないだろうが、厨房に顔を出したら皆が皆ぎょっとして、何かお気に召さないものが――と、ご機嫌伺いしてくるのだから、作りたいなどと言えるわけがない。


 これから少しずつコミュニケーションを取って、打ち解けてから自ら調理することにした。


 毎日必ずしなければと思うとつらいことでも、時々する料理やお菓子作りは、意外とストレス解消になる。好き勝手自由に生きているアレクシアに、ストレスはあまりないのだけれど。


(強いて言うなら、想定外にカモさんたちと遭遇することかな)


 距離を置いているはずなのに、なぜ会う、なぜ話しかけてくる、とげんなりする。見目は良いので目の保養になるのは確かだが、嬉しくない。遠くから眺めるだけで充分だ。


 無視するという選択肢がある中で、なぜかルイジに絡まれた。


「最近、勉強会をしているそうだな」


 昼の食堂で、同じテーブルに着いたのがそもそものきっかけになる。


 同席を狙ったわけではない。その場所以外、ジェイニーと座れる場所がなかったからだ。声を大にして他意はない! と言いたかったけれど、言い訳するなど不自然すぎて、違うから、違うからね! と念を送ることしかできなかった。


「ええ、アレクシア様に教えていただいておりますわ」


 めんどくせぇと思っていると、ジェイニーが代わりに答えてくれる。ありがたくて、アレクシアは拝みたくなった。


 任せていいだろうかと、口を閉ざすことを選ぶ。元々、アレクシアはジェフリー以外に愛想は良くない。特に毒舌気味なルイジとは、相性が悪かった。


 きついことを言われて、へこむ、わけではない。気の強いアレクシアは、平然と毒を含んだ言葉で言い返す。結果、険悪な空気が漂うことが多々あった。


 そうなると周りの人、今はジェイニーに申し訳ない。食事の席だ。


「人に教える時間があるとは、余裕だな。次のテストで俺に負けた時、それを言い訳にするつもりか?」


(いや、勝ち負けなど興味ないんだけど?)


 勝負していたつもりもないと、アレクシアは唖然とする。負けた時の言い訳も何も、まともにテスト勉強などしていない。


「訂正してもいいかしら?」


 無駄かもしれないが、テストの結果が出た後に、ほらみろ、と見下されるような顔をルイジにされるのは腹立たしかった。

 勝手に、仮想敵にしないでほしい。


「なんだ」

「勉強会というより、主に場の提供ですわね」

「ええ、そうですわね」


 少し呆れたように、ジェイニーが相槌を打つ。


「アレクシア様は、勉強するわたくしたちのためにお茶とお菓子を用意してくださり、ご自身は読書を楽しまれておりますわ」

「は?」


 勉強する二人には申し訳ないと思いつつ、読書にふけっている。先日買った本はたっぷりあって、なかなか読み終わらない。寝る前に読み始めると面白くてつい夜更かししてしまい、マリッサに怒られるので学園内で読んでいた。


「勉強しているのはアリアーナ様とわたくしですわ。それなのに、わたくしたちがわからない問題で躓くと、教えてくださるのだからさすがですわよね」

「たまたまですわ。テスト前にも関わらず、私は読書欲に負け続けておりますので、メオーニ様とは勝負にもなりませんわ」

「そうか、成績くらいはまともだと思っていたのだがな」


(相変わらず失礼だな!?)


 憤慨するが、あながち間違ってもいない。

 面倒くさいから無視しておこうと、アレクシアは話を切り上げ、黙々と食事を口に運ぶ。言い返してこないのがわかると、ルイジはさっと席を立ち行ってしまった。


(ほんと、顔はいいのに、顔は)


 あの性格では、嫁に行く者は苦労しそうだ。


 ルイジがヒロインに攻略された方が、不幸を生まない気がする。なんて失礼なことを考えながら、アレクシアはマリッサとエリックに野菜のスイーツを勧めた。


「これ、本当に野菜が使われているのですか?」

「そうよ」

「普通のケーキに見えますね」


 まじまじと眺めたエリックも、感心する。そうでしょう、そうでしょうと、アレクシアは頷く。色味は野菜の色が出るけれど、食べてもすぐにはわからないはずだ。たぶん。


 厨房でした試食では、好評だった。

 初めはお嬢様の気まぐれに振り回されるのか、そんな空気が漂っていたのに、お菓子が焼き上がるとあっさり手のひらを返すのだから現金だ。


 ――野菜をスイーツに使うなど、考えてもみませんでした。

 ――他にもなにかあれば、いつでもご指示ください!


 きらきらっとした眼差しに、前世の知識でごめんなさいと心の中で謝る。野菜がごろごろっと入ったお食事系マフィンも好きなので、作ってほしいと頼んでおいた。


「食べて、使われている野菜をあててみて」


 まずは、キャロットケーキを勧める。野菜がスイーツになるとは思えない二人は、恐る恐るケーキに手を伸ばした。


 ほぼ同時に口に放り込み、マリッサはぱたぱたと瞬きする。その横で、エリックは首を傾げた。


「シナモンと、ナッツのケーキじゃないんですか?」

「俺も、そう思います。え、野菜入ってるんですか?」

「それは、キャロットケーキよ。人参がたっぷり使われているのよ」


 二人共が、ぽかんとする。先に我に返ったのはエリックで、もう一口食べ、やっぱりわからないと首を振った。


「じゃあ、次はこっち」


 結果は、同じだった。

 野菜が使われていると言われなければ、絶対にわからないと言った。


「野菜も、スイーツになるんですね」


 感心したように、マリッサがこぼす。エリックはキャロットケーキが気に入ったようで、黙々と食べていた。


「アレンジしだいで、色々と出来るのよ……以前読んだ異国の本にそう書いてあったわ」

「さすがお嬢様ですね」


 にっこりと笑って、アレクシアはごまかす。

 嘘は言っていない。前世で読んだ、料理本に書いてあったのだから。



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