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剣王と《自然災害》#5

 剣の師匠との出会いにより、俺の実力は上がった。


 怪我が完治する頃には、以前は掴めていなかった自分の剣筋というものを、拙いながらも意識できるようになっていた。


 しかし、いくら人間が頑丈な家を築いても大規模自然災害に抗えないように、どれだけ俺の剣の腕が上がっても、相棒の放つ攻撃魔法を防ぐことはできない。


 剣一本では、荒れ狂う嵐を鎮めることなど不可能だ。

 そのことを、俺は怪我から復帰してすぐに味わわされることとなる。


 ドラゴーヌへのリベンジは、思ったより早く実現することとなった。


 ヤツの討伐依頼が、俺が復帰するタイミングを見計らったかのようにギルドに持ち込まれたからだ。


 俺が足を吹き飛ばしたドラゴーヌは、怪我の治療を兼ねてのことなのか、戦闘のあった地点の近くを繁殖地として選び、そこを住処とした。


 その情報がもたらされてすぐ冒険者ギルドは動き、実力と実績のある者を集め、討伐のためのパーティーを組み、向かわせた。


 街から徒歩で移動し、およそ半日。

 岩場に新しく掘られた洞窟の中に、ドラゴーヌは居を構えていた。


 そこでの戦闘がどのようなものだったかというと、まあ、一方的なものだった。


 ドラゴーヌはドラゴン種で、その膂力の前には人間の肉体などもろいものである。


 しかし、人間との衝突も珍しくない魔物であり、ある程度の対策は立てやすくなっている。この時のパーティーに参加していたメンバーの中には、五回以上討伐を果たした者もいた。


 この時の戦闘において、討伐した魔物は成体のドラゴーヌの番、それと生まれて間もない幼体が三体だった。


 やはり俺がもっと準備して堅実に戦っていれば、あの時に仲間を死なせずに済んだ――と過去を悔やんでも意味はないと気づいていても、それでも悔やまずにはいられなかった。


 ――この時の討伐クエスト。

 結果だけ見れば、冒険者に死亡者や重傷者も出ずに討伐完了。


 全員報酬を受け取れて、めでたしめでたし――であったが、実はその裏では俺の身に事件が起きていた。


 いや、違う。


 俺の身が、攻撃魔法という《災害》によって被害を受けるという事態が起こっていた。

 その攻撃魔法を放ったのが、他ならぬ俺の相棒である。


 なぜ味方からの攻撃魔法をその身に受けることになったか。

 混戦の中で、俺がドラゴーヌの急所に差し迫ったところから状況を説明しよう。


 師匠との修行の成果か、俺の目にはヤツの動きが手に取るようにわかった。


 自分の成長を確信し――――またしても慢心した。


 一度死にそうな目にあったというのに、懲りずに「たった一人でもコイツを倒せるのではないか」と考えてしまった。


 その欲が出たか、俺はドラゴーヌの喉元を、一回、二回、三回と剣先で貫いた。


 ヤツの右手が持ち上がるが、それは仲間の大剣により両断される。

 さらなる追撃として、ドラゴーヌの背後に迫った仲間の槍が、無防備な魔物の頸椎を貫いた。


 コイツらは喉元と頸椎をやられたら絶命する。


 勝った――――と、その瞬間俺は考えた。

 他の仲間も同じことを考えていたはずだ。

 ただ一人、俺の相棒を除いて。

 

「剣王様、私がトドメを!」

「は? いや、トドメも何も」

「貴様のその行い、剣王様と仲間への暴威、何より剣王様を傷つけ苦しめたこと……私が今この場で断罪してくれる! 千切れて弾けて削れながら消し飛ぶがいい、ドラゴンモドキ!」

「まだ俺が離れてない――」


 《セル・トルネード》。


 後で知ったことだが、この時相棒が放った魔法の名前がそれだ。

 風を操る魔法の一つで、比較的狭い範囲へ強力な竜巻を発生させる。


 周囲にパーティーメンバーが居たことに配慮してこの魔法を使ったのだろう。

 その点においては相棒の判断は間違っていなかった。


 相棒の誤算、というか見逃していた点は、その魔法の効果範囲に俺が含まれていたことだ。


 彼女が魔法を放ったと気づいたタイミングで、ドラゴーヌの喉元に刺さった剣を俺が手放していればよかったのだろうが、それは復帰祝いに自分で新調したばかりのそこそこ値の張る逸品で、俺は一瞬迷ってしまった。


 周囲の仲間たちは、すぐに武器から手を放すか、ドラゴーヌから距離をとった。


 そして、その瞬時の判断が明暗を分けた。


 俺の体は、すでに死に体の魔物ごと吹き飛ばされた。


 全身を浮遊感に包まれながら、しかしそれを味わう暇もなく、代わりに魔法で作られた竜巻によって体をもみくちゃにされ、なすすべなく洞窟の壁に叩きつけられる無力感を味わわされた。


 これも後で相棒に聞いたことだが、一度効果を発揮した魔法を中断させることは相当に難しいことらしく、俺が巻き込まれていることがわかっても相棒に止めることはできなかったのだという。


 ようやく魔法の効果が収まり、運よく――本当に悪運強く、洞窟の天井に幾度もぶつかっておきながら額に大きな傷を負った程度で、俺は助かった。


 不幸中の幸いという言い方がふさわしいかどうかは知らないが、パーティーメンバーは誰一人として重傷を負っていなかった。

 止血が必要なほどの傷を負ったのは俺一人だった。


 これも前回の失敗での罰か――なんて考えていると、相棒が倒れている俺の頭を抱きしめた。


「嫌、いやああああ! 剣王様、剣王様! 死なないでください、剣王様っ!」


 涙と、悲鳴。

 ああよかった、俺を魔法に巻き込んだのはわざとではなかったのだな、と少しだけ安心した。


「剣王様が死んだら、私も死にますから! 今この場で剣王様の剣を使って自害します! 剣王様のいないこんな世界で生きている意味なんかありません!」


 相棒の言葉はほとんど頭に入ってこなかったが――ただひとつ、朦朧としている中でも聞き咎める部分があった。


 衝動に流されてのことでも、「死ぬ」だの、「自害する」だの言ってくれるな。


 俺が生き残れなかったとしても、相棒には生き抜いてほしい。


 そんなことを考えたところで俺の意識は途切れ――ドラゴーヌへのリベンジの舞台は幕を下ろしたのだった。

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