剣王と《自然災害》#3
最初の衝撃は左側から。
横合いからのドラゴーヌの張り手を受け、仲間の腰から上がひしゃげて、潰された。俺の左腕の骨も嫌な音を立てた。
苦痛、激痛。
背中から脳髄まで貫かれる錯覚、まるで冷たく硬い大きな針。
痛みに耐えかねた神経が、叫び声をつくりだす。
鼻孔に入り込んでくる血の匂いを嗅ぎながら、俺の目はまだ標的の動きを捉えていた。
ドラゴーヌがその巨体を翻した。
続いて、ヤツの尻尾を用いた薙ぎ払いが俺の体を襲った。
緩慢に見えるその挙動から生み出されたとは思えない威力。
圧倒的な――人間とドラゴン種の膂力の差。
俺の体は吹き飛び、戦場の周りに広がる森へと飲み込まれた。
頭も手足も、胴体とくっついたままではあったが、その時まともに機能するのは半分未満だった。
左腕に、左脚。両方イカれた。
激痛に支配される思考、歪む視界に、揺らぐ平衡感覚。
嗅覚も働かない。
鼻血が溢れている、ということは顔面を強かに打ち付けたか。
そして、俺は逃げ出した。
仲間の死体を放置して。
本当は走って逃げたいところだったが、片足で跳ねるように移動するので精一杯だった。
街にたどり着いて応急処置を受けた後、その日のうちに冒険者ギルドにてドラゴーヌ討伐失敗と、仲間一名の死亡を報告した。
報告した相手は、俺のお気に入りの女職員だった、かどうかはわからない。
敗北と仲間の死から立ち直れていないままで、相手をいちいち選んでいられなかったから、ギルドの制服を着た人物であれば誰が相手でも良かったのだ。
そんな投げやりな態度だったから、記憶に残らなかったのだろう。
これを機に、俺は戦う上での心構えを定めた。
生き残ること、それが最優先。
死んでしまった仲間は俺よりも強かった。彼がいれば何とかなると俺が安心する程に。
そんな彼の同意を得たうえで決行した作戦でも、少し状況が変わっただけで、弱いものが生き残り強いものが命を奪われる、ということが起こる。
実際、起こった。俺は一番近くでそれを目の当たりにした。
もう死なせてはならない。
そのために、準備を怠ってはならない。
共に戦う仲間も選ばなければならない。でなければ誰かが誰かを庇って命を落とす。
強いやつは弱いやつのミスを補う。それが、実力の異なる者同士で組んで戦う、冒険者たちの矜持だから。
そんな誓いを立てた後だったから、困惑したものだ。
家に帰った途端に、俺の惨状を見た相棒がまさかこんなことを言い出すとは。
「……私は許せません。そのドラゴンモドキも、剣王様が苦しんで戦っている間にのほほんとしていた自分も……なにより、剣王様に戦闘のパートナーとして認められていない自分の弱さが」
ひと呼吸の間を空けて、相棒は続けた。
彼女の右手は胸に添えられていた。
「剣王様、今度は私をパートナーに選んでください! そのドラゴーヌとかいう獣にリベンジしましょう……誰に手を出したか教えてやります。そして教訓を活かすこともなく、血みどろで激痛に苛まれながら失意の中で死んでいく絶望を味わわせてやります! ね、剣王様!」
何が「ね」なのか。
相棒が冒険者稼業の手伝いをやるようになってからこの時点で四年程度。
その間にまともな教育を施してやらなかった、というか俺の背中を見て育つように言い付けたせいで、相棒は少女らしくない物騒な物言いをするようになってしまっていた。
反応に困った俺は「どうやって戦うつもりだ」と言った。
そして、相棒は力強くこう言い切った。
「私には魔法があります――剣王様が『役に立つ』と褒めてくださった、最高の武器が! 全身全霊の魔法を以て、ヤツを蹴散らしてみせます、確定!」
「蹴散らしてみせます、確定……?」
妙な言葉遣いまで、相棒は覚えてしまっていた。




