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《聖剣預託の儀》#3

「ご気分が優れませんか、剣王さま」

「……ああ」

 主に、あんたのせいでな。


「なるほど、剣王さまは教会の外側にいる方。ご存知なくとも無理はありませんね」

「なんのことを言ってる?」

「聖剣教会の奉じる剣とは、実体のある剣ではありません。《聖剣預託の儀》において勇者に託すものは別のものです」


 聖剣は、実体のある剣じゃない?


「……じゃあ、なんだっていうんだ」

「教えて差し上げても構いませんが、その際は聖剣教会の聖女たる私の洗礼を受けていただくこととなります。お望みであれば、今この場で――」と聖女が言ったところで、相棒が割り込んできた。


「剣王様は、聖剣教会にも入りませんし、あなたみたいな人間の誘惑に負けたりしません! ね、剣王様!」

「ふむ、それは残念です。あなたが私のもとについてくだされば、教皇など容易に追い落とせるのですが……仕方ありません」


 聖女がローブから長物――布に包まれているがおそらくは剣――を取り出した。

 それの長さは聖女の足元からみぞおちくらいまであった。


「そういうことならば、これから武力でもって教皇派を退けるとしましょうか」


 聖女がそう言うと、長物を隠す布は光を放ち、粒子となった。

 白銀に光る粒子は聖女の腕に集まり――籠手の形へ変化した。


 布に隠されていたのは、やはり予想していた通り剣だった。

 聖女の剣に施された意匠を観察していると、相棒が狼狽えた声を出した。


「なっ……なんで聖女のあなたが、そんな魔法を使えるんですか!」

「すごい魔法なのか、今のは」と聞く。

「いや、すごいかすごくないかで言えばすごいんですけど……そういうんじゃない、というか」


 すごいけど、そういうんじゃない?


「《錬成》の魔法は失伝したはずなのに、どうして聖剣教会が……」

「魔法使いさま、ご安心を。これは魔道具ですから、私が魔法を行使したわけではありません」

「物質を別の物質に変化させる、失伝した《錬成》の魔道具? そんなの……そんなの、欲しくなるに決まってるじゃないですか!」


 相棒が勢いよく俺の方を振り向いた。

 その目は爛々と輝いている。


「剣王様、あの聖女から奪い取りましょう! あの魔道具を研究すれば、もっと凄い魔法を開発できます!」

「奪い取らなくとも、私の依頼を受けてくだされば、達成報酬として差し上げてもよろしいですよ」と、微笑みながら聖女は相棒に告げた。


 猛烈に嫌な予感。

 なぜなら、聖女が微笑みつつ、ねっとりとした目で相棒を見ていたからだ。

 こいつ、聖女じゃなくて悪女なのでは?


「……あなたの依頼を受けるのは気が進みませんが、魔道具のためです、依頼の内容を聞きましょう!」

「簡単なことです。表にいる聖剣教会の者たちを魔法で薙ぎ払ってください……おまけで、魔物を一匹ほど追い払っていただければ、それで」

「やけに簡単ですね。裏がありそうですが……まあ、いいでしょう! あの程度の人数、それに魔物一匹程度でいいなら、あなたの依頼を受けてあげます!」

「まあ、なんと勇ましい。それでは、表に参りましょう。及ばずながら、私も助太刀させていただきます」

「いいですけど、くれぐれも邪魔しないでくださいね。あと、魔道具が傷つくようなことをするのもダメですから!」


 掛け声とともに、相棒が部屋の窓から飛び降りる。

 少しの間を空けて、聖女もそれに続いた。


 この部屋は二階だから飛び降りても平気と見越してのことだろうが、今の相棒ならそれ以上の高さからでも飛び降りそうだった。


「兄さん、止めなくてもよかったんですか」と、オリーが声をかけてきた。

「ああ……止められそうなら止めたんだけどな」


 相棒が勝手に聖女の依頼を受けてしまった。

 希少な魔道具をエサにされて。


 手元には、聖剣教会のシンボルが刺繍された布袋。

 それに多めの金貨が入っていることについて、『前払い金も含まれている』と聖女は言っていたが……なるほど、こういうことか。


 聖女は、『ドラゴン駆逐』の依頼を俺が断ることを見越していた。

 だから、珍しい魔道具を報酬としてちらつかせ、欲に釣られた愚か者――残念ながら俺の相棒である――が罠にかかるよう誘導した。


 相棒が依頼を受けた以上、俺が協力しないわけがない。

 前払いの金貨は、ほぼ間違いなく巻き込まれるであろう俺に対する、聖女なりの誠意だったのかもしれない。


「……オリー。聖女さまのこと、好きか?」

「はい。私も巫女様のように強くなりたい。常にそう思っています」

「強さはともかく、お前はあんな風にならないでくれ……俺は、今のままのオリーが好きだ」

「たまに兄さんは難しいことを言うのですね。ですが、今の言葉は覚えておきます。兄さんは、私のことが好き、と……なんとなく、胸のあたりがぽかぽかします」


 オリーがあの聖女のようになりませんように。

 あと――伝説の《魔法生物》ドラゴンが、どうか聖女の予想を裏切って、姿を現しませんように。

 そんな祈りと共に、部屋の窓から飛び降りた。

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