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《聖剣預託の儀》#2

「お会いできて光栄です。巫女様」


 オリーが聖女に向けて恭しく頭を垂れる。

 こんな所作も身についていたんだな、と感心してしまった。


「巫女様におかれましては、ご壮健のこととお慶び申し上げます」

「勇者オリー。あなたこそ……しばらく見ない間に大きくなりました。嬉しく思います」

「お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたします」


 オリーは頭を下げたまま、聖女の言葉を待つ。

 ややあって、聖女が口を開いた。


「勇者よ、面を上げ、私の問いに答えなさい」

「仰せのままに、巫女様」


 オリーと聖女が向かい合う姿を見る。


 二人は剣の師弟というからもっとくだけた間柄だと思っていたが、ハズレみたいだ。いや、俺の見聞が狭くて世の師弟関係というやつを知らないだけかもしれないが、目の前の二人みたいに仰々しいものなんだろうか。


「あなたは聖剣と共に歩む覚悟があるか」と、聖女がオリーに問う。

「はい、私は聖剣と共に歩むことを誓います」


 オリーの答えを受け、聖女は歩み寄る。


「よろしい。ならば勇者よ、私の手を取りなさい」

「仰せのままに」と言い、オリーは差し出された聖女の右手を両手で握る。

 そして、そのまま二人は硬直する。


「何をやっているんですか、オリーとあのビッ……聖女は」

 相棒が言ってはならないことを言おうとした気がするが、最後まで口にしなかったのでスルーした。


「なんだろうな、俺も聞かされてない」

「何かの魔力的儀式でしょうか? 二人の間……いえ、聖女からオリーへ魔力が流れているのを感じます」

「へえ。魔法使いにはそういうのがわかるのか」

「いいえ、魔法使いなら誰でもできるわけじゃないです。《魔力視》を使える人限定ですね。魔法というよりコツ……技術みたいなものです」

「誰でもできない……つまり難しいのか」

「そうです、その通り……でも、私はできるんです! すごいでしょう、褒めてください剣王様!」

「ああ。お前はすごいよ、俺なんかにはもったいないくらいだ」


 正直に、普段から感じていることを伝える。

 すると、相棒は目を丸くして、「まさかこんなことで褒めてもらえるなんて……じゃあ他のことでもいけるかも……」とつぶやいていた。


 聖女とオリーは互いの手を握ったまま、言葉を発しない。

 未だに外から、投降を求める教皇の言葉が聞こえてくる。

 俺と相棒は、その状況を観察する。


 ……この状態は一体なんなんだろうか。

 俺と相棒がこいつらに義理立てして付き合う必要は、そもそも無いのに。

 ドラゴンの駆逐にしたって、引き受けるつもりなど無い。


 オリーは勇者で、元々聖剣教会側の人間だ。

 教会の教皇派に渡すつもりはないが、このまま聖女のところに帰せるのなら、その方がいい。


 聖女の策謀により教皇の企みは阻止されたのだから、もはや俺が一時的にオリーを預かる理由は無くなった。


 オリーと一緒に剣の鍛錬をできなくなるのは残念だが――いつまでも俺が面倒を見てやれるはずがない。冒険者稼業を営む元孤児の俺が、未来も使命もある勇者を育てるなど、分不相応というものだ。


 それらのことを考えた後、部屋から出ていこうとしたところで、聖女の口が開いた。


「これにて、聖剣は勇者の手へ渡りました」


 ……はあ。

 ――――はあっ!? 


「《聖剣預託の儀》はこれで終了です」


 ……おい。

 おい、おいおいおい!


「勇者オリー、これからあなたが正しく使命を果たすことを――」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 口を挟まずにいられなかった。

 完全に勢いで、はっきりとした異議があるわけではないのだが、しかし黙っていられるわけでもない。

 

「何を戸惑っておられるのです、剣王さま」と、聖女が言う。

「いや、ここ。ただの宿屋の部屋なんだが……」

「それが何か?」

「もっとちゃんとした場所でやるものじゃないのか。今、聖剣を託したって……」

「ここに《聖剣の巫女》と、勇者の資格を持つ人間がいます。それ以上何が必要だと?」

「他にもいろいろあるだろ……あんた、手を握っただけで、《聖剣》渡してないよな?」


 聖女は俺から目をそらし、部屋の天井あたりを見た後で、再度俺と目を合わせた。


「剣王さま、予備の剣をお持ちですか」

「あ? ああ……一応は」


 日帰りで終わらないことが事前にわかっている依頼では、武器の破損に備えてもう一本確保しているが……それがどうしたのだろうか。


「剣を見せていただいても?」


 無造作に壁に預けていた予備の剣を、鞘ごと聖女に手渡す。


 聖女は剣を抜かずに、柄だけ持って重みを確かめた。

 そして、「悪くはありませんね」と言ったあと、白い生地でできた布袋を法衣から取り出すと、俺に差し出してきた。


「金貨が十枚ほど入っております。それと引き換えにこの剣を買い取らせてください」


 袋を受け取り、中を見る。

 確かに金貨がある――が、明らかに十枚より多い。

 数えると十六枚あった。


「もらいすぎだ。それは金貨で四枚くらいの代物だぞ」

「構いません……前払い金も含まれておりますので」


 その言葉の意味を俺が問いただす前に、聖女はオリーへ剣を差し出した。


「勇者よ、あなたにこの剣を授けましょう。この剣で、魔を打ち払うのです」

「謹んで承ります、巫女様」と、オリーは剣を両手で受け取った。


 ……まさかとは思うが、この聖女。

 俺が「聖剣を渡していない」と言ったから、この場でとりあえず適当に剣を見繕って、オリーに手渡しやがったのか?


「さて、これで剣王さまもご納得されたことでしょうし、そろそろ参りましょう。教皇も焦れて冷静さを欠いている頃合いです」


 全然納得していない、できるわけがない。


 こめかみの辺りを押さえる、幾分か気分が安らぐことを期待して。

 ただ、頭痛の種が目の前に居て、それが聖女という肩書を持つ人の形をとっている以上、結局は気休めにすらならない。

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