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聖剣教会の《異端者》#2

* * *


 過去を何度振り返っても、このときの聖剣教会の依頼をきっかけに、平和だったオリーとの暮らしは一変したのだと断言できる。


 勇者が、勇者らしく生きることを強制されるようになった。

 聖剣教会の連中は、聖剣を勇者に託そうと躍起になった――奴らの都合で一方的に。


 この時の俺は、それがどれほど大きな問題であるかを理解していなかった。


 事が起こって、全てが過ぎ去り、ジジイになった今だからこそ、確信できる。


 勇者を俺に託そうとした聖女の行動は正しかったのだと。


* * *


 俺と相棒は、二人して聖都周辺を覆う森林地帯のどこかを走り回っていた。


 いや、相棒は俺の左腕に抱えられているから、正しくは、走っているのは俺一人だった。


「だから私はあの時言ったんです――聖剣教会とか聖女とか、《聖》の付く連中に絡むとこういう厄介事に巻き込まれますよって! それなのに依頼なんて受けるから!」


 言いながら相棒は魔法を発動させる。

 後方から飛んできた光輝く魔法の槍が、相棒の魔法防壁に衝突し、霧散する。


「依頼についてはどうしようもなかったんだ、あきらめろ。そもそも、聖剣教会なんて厄介な相手からの指名依頼を断ったところで、今みたいに命を狙われるのには変わりないんだ」

「どうして剣王様はそんなに落ち着いていられるんですか! 神みたいな超越的存在のつもりですか、剣王様は《剣の王子様》なんですからそんなの似合いませんよ!」


 相棒がその声を起因に魔法を発動。


 口を軽く開けて右耳をふさぐ――と同時に体の周囲にある気圧が急激に高まり、わずかな間を空け、一気に解放される。


 準広範囲音響魔法、《ディープ・ハウリング》。


 その効果の程はというと、俺たちを追ってくる刺客たちの半分の足を止め、残った半数をその場に昏倒させた。

 魔法の発動中に塞いでいなかった左耳が微かに痛むが、構わずに駆ける。


 ちらりと後ろを見やる。


 刺客たちの纏う衣装――白を基調としたローブ、蒼のアクセント、そして銀の刺繍。まごうことなく、聖剣教会の信徒の衣装だった。

 さらには、ローブの上に簡易なボディアーマーを装着して、剣や槍を携えている。祈祷の邪魔になりそうなそれらで武装しているのは、聖剣教会の異端審問官である。


 今、俺と相棒は聖剣教会に追われている。


 流れとしては、馬車に揺られて聖都に辿り着いた後、宿へ荷物を預けてから徒歩で教会本部へ向かい、待ち構えていた異端審問官に正面から出迎えられ、名前を名乗って間もなく剣を突きつけられてしまい、そこから流れで逃走する羽目になった――という感じだ。


 追われている理由はだいたい分かる、というか入信していない冒険者を教会側の人間が追っているのだ。答えなど一つしかない。


 聖剣教会の象徴である聖剣、それを授かる勇者。

 その勇者を聖都から遠ざけていた不届きものが、俺であると奴らに認識されているからだ。


 もしも捕まればどうなるか。


 辿る道がどうあれ、行き着く先は《死》だ。


 どこの街でも「間違っても教会の異端審問官に関わるな」と言われる理由がそれだ。もう、かれこれ一時間以上は、足止めでは済まないレベル――処刑に等しい攻めにさらされ、それを凌ぎながら、俺と相棒は逃げ回っている。


 そもそも、『聖剣教会の指名依頼』の時点で嫌な予感がしていた。


 冒険者ギルドへの指名依頼というのは、厄介事がほぼ必ず絡んでいる。


 それもそのはず。依頼主は冒険者側のこれまでの実績を評価したうえで、「この冒険者ならやってくれる」と判断して指名してくるのだから、危険あるいは難しいと確信しているのだ。


 もちろん冒険者側は、指名依頼イコール厄介事という前提を知ったうえで依頼を受ける。


 しかし、その際にクエスト中の負傷や装備の損壊を計算することはあっても、依頼主側から命を狙われる心配をするものは少ない。指名依頼を受けた冒険者が不審な死を遂げる、あるいは行方不明となったなら、依頼主に対して冒険者ギルドが探りを入れ、場合によっては制裁を行うようになっているからだ。


 それにも関わらず依頼主が冒険者に害をなす場合がある。


 冒険者ギルドの報復を恐れていない、特定の冒険者に対して根深い殺意を抱いている、など。

 そして、たちの悪いことに今回の依頼主である聖剣教会は、先に挙げた二つを満たしていた。


 断れなかったのだ、今回の指名依頼は。


 仮に断ったなら、「聖剣教会に対し不信感を抱く冒険者がいる」と判断され、教会の圧力もあり今後の仕事に影響が出る。自分だけならまだしも、いつも世話になっている冒険者ギルドが巻き添えになる可能性も無視できなかった。


 つまりだ――――聖剣教会に目をつけられた時点で、俺は泥沼だった。


 聖女からオリーを預かって一ヶ月以上の間、何事もなく過ぎてしまったから、もしかしたら厄介事を回避できるかも、と考えていた。


 我ながら、なんと迂闊。

 渦中の中にいながら、それに気付くことなく、いざその時が来てようやく後手に回っていたことを自覚するとは。


 だが、確かにこの一ヶ月間、こちらとて何もしなかったわけではない。


 確かに教会の干渉に対して《守り》を固められなかった。その代わり、抗うための《攻め》の力は蓄え続けてきた。

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