魔法使いの《不安》#1
俺とオリーは、仲良く師匠に倒された翌日から、一緒に鍛錬をするようになった。
魔物討伐で街から離れるとき以外は、毎日のように冒険者ギルドの鍛錬場に足を運んだ。
特に示し合わせたわけではない。
にも関わらず、二人そろって似通った目標に向けて努力するようになった。
俺たちは、剣の腕を磨き、いつか師匠から一本とることを目標に据えていた。
聖剣教会の聖女に育てられた少女だからと、俺はオリーを偏見で「おかしな子供だ」と思い込んでいたが、それは過ちだった。
俺たちは似た者同士だ。
剣を振って、頭を空っぽにし、また剣を構え――そうやって技を極めていくことが性に合っていた。
本当の兄妹でもないくせに、オリーに「兄さん」と呼ばれることに違和感を覚えなくなってしまった。
それぐらいに、俺たちは仲良くなった。
だが、俺の人生というやつは妙なもので、どこかが上手くいっていれば、別のどこかで足を踏み外すようにできているらしい。
例えば、冒険者として順調に実績を積んでいっている間に、お気に入りのギルド職員が粛々とやることをやって結婚してしまっていたりする。
そう。
オリーという剣の仲間ができる裏側で、とある人物との仲に、綻びというほどではないにせよ、陰が差してきていたのだ。
その陰は、俺の相棒を覆っていた。
* * *
「剣王様は最近冷たいです!」
と相棒が言ったのは、森に大量発生したヘルドウルフの討伐に二人で出かけた先でのことだった。
ヘルドウルフは魔物化した狼であり、群れとなったら好戦的だが、単独行動しているときに大きな音を拾うと逃げ出すという臆病な性質をしている。
よって今の相棒のように大声を出すと近づいてこなくなるわけで、魔物の各個撃破を想定して動いている俺たちにとっては、彼女の行動は好ましくない。
「突然、どうした」と俺が言うと、「どうしたもこうしたもありません、それに突然でもありません! ついこの間も言いました!」と返された。
「最近家にいることが少ないですし、オリーと剣の鍛錬ばっかりです! 私と二人きりで過ごすのはこうして魔物討伐に出かけるときくらいじゃないですか!」
「あまりデカい声を出すな、ヘルドウルフどもが逃げる……確かにオリーが来てから二人だけで居る状況は少なくなったけど、当たり前だろう。同じ宿屋の同じ部屋に住んでるんだから」
「そういうことじゃないんです! いえ、それも原因のひとつではありますけど、でも、違うんです!」
「よくわからんからはっきり言ってくれ……あと声も絞れ」
「いいでしょう、はっきり言います――オリーにするみたいに、私に対してもう少し優しくしてくれてもいいじゃないですか!?」
声を絞らぬ相棒の叫びでヘルドウルフが離れてしまい、この日は依頼書に書かれた最低討伐数を日が暮れる前にようやく狩り終えることが出来た。
翌日になって冒険者ギルド受付に依頼達成報告した後、報酬金の計算と明細記入をする職員に、相棒とのやりとりを説明すると、こんなことを言われた。
「魔法使いの相棒さんの言う通りだと思いますよ。私は基本的に受付に居るので遠巻きにあなたたち二人を見ているんですが、相棒さんが可哀想になってきます……素っ気ないんですよ、あなたの彼女への対応は」
「嘘だろ、そんなにか?」
「まあ、本人は気づきにくいんでしょうね、こういうことは。たぶん、つい先日までは相棒さんも気づいてなかったんだと思いますよ……でも、最近あなたのところに妹さんがやってきたじゃないですか」
「ああ、先月な」
実際は妹ではないが。
正体は、聖女に押し付けられる形で預かることになった勇者である。
「それで、相棒さんは気づいてしまったんですよ――自分は優しくされていないと。妹さんという比較対象が現れて、ようやく自分の置かれている状況を理解したんです」
と言ったあとで、ギルドの女性職員は報酬の入った布袋と報酬の内訳を記載した紙を差し出した。




